特許庁審査官等から受けた拒絶理由通知等に対し、反論した「意見書、審判請求書」の具体例を小川特許商標事務所のサイトから転載しております。
本願商標:「ADSYS」×引用商標:「ハドシス」「HADSYS」ほか
1.出願番号 商願2003-29119(拒絶査定に対する審判事件)(不服2004-1233)
2.商 標 「ADSYS」
3.商品区分 第9類:電子計算機用プログラム ほか
4.適用条文 商標法第4条第1項第11号
5.拒絶理由 「ADSYS」は「ハドシス」や「HADSYS」に類似する。
審判における反論(請求の理由)拒絶理由通知
【手続の経緯】
出 願 平成15年 4月10日
拒絶理由の通知 平成15年 9月 2日
同 発送日 平成15年 9月 4日
意 見 書 平成15年 9月19日
拒 絶 査 定 平成15年12月17日
同 謄本送達 平成15年12月19日
【拒絶査定の要点】
原査定は、『この商標登録出願は、平成15年 9月 2日付けで通知した理由によって、拒絶をすべきものと認めます。なお、出願人は、意見書において種々述べていますが、本願商標から「アドシス」、引用各商標から「ハドシス」の称呼が生じるものです。そこで、両称呼を比較すると、両者は、4音中3音を共通にし、異なるところは、語頭における「ア」と「ハ」の音にありますが、「ハ(ha)」の子音「h」は、無声摩擦音で比較的弱く発音され、母音「a」に吸収されて「ア」音に近似したものとなり、両称呼を一連に称呼するときには、語調語感が近似し、互いに聴別しがたいものと認めます。したがって、本願商標は、引用各商標と称呼上類似の商標であり、かつ本願商標の指定商品は、引用商標の指定商品と同一又は類似の商品を含有するものですから、さきの認定を覆すことはできません。また、出願人の添付の既登録例は、本件とは事案を異にしますから、それをもって本件の判断基準となすことは必ずしも適切ではありませんから、その主張は採用できません。』というものであります。
【本願商標が登録されるべき理由】
然るに、本出願人は、先の意見書において、本願商標は、引用各商標と外観・称呼及び観念のいずれにおいても紛れることのない非類似の商標である旨、過去の既登録例を交えて主張したにもかかわらず、今般このような認定をされたことに関しては納得できないところがあり、ここに審判を請求し再度の御審理を願う次第であります。
(a)本願商標の構成
本願商標は、願書の商標登録を受けようとする商標に表示したとおり、欧文字で「ADSYS」と書した態様からなり、指定商品を第9類「写真機械器具,映画機械器具,光学機械器具,電気通信機械器具,電子計算機用プログラム,その他の電子応用機械器具及びその部品,携帯用液晶画面ゲームおもちゃ用のプログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM,電子楽器用自動演奏プログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,電子出版物」とするものであります。
(b)引用商標の構成
先の意見書で引用された引用商標(8件)は、以下の通りであります。
1 登録第2604543号(商公平 5-018055)「ハドシス」 24類
2 登録第2614396号(商公平 5-027317)「株式会社ハドシス」 10類
3 登録第2614397号(商公平 5-027318)「HADSYS Inc.」 10類
4 登録第2641007号(商公平 5-058748)「株式会社ハドシス」 11類
5 登録第2641008号(商公平 5-058749)「HADSYS Inc.」 11類
6 登録第2657787号(商公平 5-078049)「図形+HADSYS」 10類
7 登録第2657789号(商公平 5-078051)「図形+HADSYS」 10類
8 登録第2701273号(商公平 6-015813)「図形+HADSYS」 11類
(c)審査官の認定に対する反論
審査官は、これら1~8を引用し、本願商標「ADSYS」は、引用各商標と称呼上類似の商標であり、かつ本願商標の指定商品は、引用商標の指定商品と同一又は類似の商品を含有するものであるから、登録できないと認定しております。しかしながら、本出願人は、本願商標とこれら各引用商標とは、外観・観念上は勿論、称呼上も紛れることのない非類似の商標であると考えます。
(c-1) まず、本願商標は、上述のように、同書・同大・同間隔の欧文字で「ADSYS」と一連に書した態様から成るものでありますので、これより「アドシス」の称呼を生じるものと思います。これに対し、引用各商標は、審査官の指摘するように、上記態様の「ハドシス」ないし「HADSYS」の部分より、いずれも「ハドシス」の称呼を生じるものと思います。審査官は、本願商標の称呼「アドシス」と引用各商標の称呼「ハドシス」とは、「ア」と「ハ」の1音相違しかないため、両者は称呼上紛らわしいと判断しておりますが、全体が長い称呼であればまだしも、4音という短い音構成からなる商標同士の比較において、1音の違いは決して小さな差異ではないと考えます。しかも、その相違する音の位置が、取引者・需要者をしてもっとも注意を引きやすい語頭音における差異であり、さらには、この語頭音はこれら両商標を自然に称呼して分かるとおり、アクセントのある位置、即ち強く発音される音となっております。したがって、これら両商標は、称呼上彼此混同を起こすようなことはなく、互いに非類似の商標であると考えます。
(c-2) 審査官は、拒絶理由通知書の中で“4音中3音を共通にし”として、如何にも差異はわずかであるかの如き言い回しをしておりますが、わずか4音という短い音構成にあって、語頭のしかも強く発音される1音の相違は決して小さな相違ではないと考えます。また、審査官は、“異なるところは、語頭における「ア」と「ハ」の音にありますが、「ハ(ha)」の子音「h」は、無声摩擦音で比較的弱く発音され、母音「a」に吸収されて「ア」音に近似したものとなり、両称呼を一連に称呼するときには、語調語感が近似し、互いに聴別しがたい”としておりますが、そうともいえないと思います。意見書でも述べたように、両者は、母音(a)を共通にするものの、本願商標語頭音の「ア」は共鳴の形の開放音ではっきり澄んだ音であるのに対し、引用商標語頭音の「ハ」は声帯を半開きにして出す摩擦音で官能的感覚の丸い音であり、音感音質を異にするものと考えます。なお、引例の「ハドシス」、「HADSYS」は、権利者の社名(株式会社ハドシス)の略称であり、いわばハウスマーク的なものでありますので、この指定商品を扱う取引者・需用者が、「ハ」と「ア」を発声し間違えたり、聞き間違えたりするとは到底思えません。以上のような状況を総合的に考察すると、取引者・需用者間において、本願商標「アドシス」と引用商標「ハドシス」とは、称呼上彼此混同を起こすことのない非類似の商標であると考えます。
(c-3) そして、このことは、過去の商標登録例をみても言えることであります。即ち、過去の商標登録例をみると、例えば、以下(A)、(B)の登録商標が併存しております。
(A)登録第2252706号の1「AdSis」 S34年法第9類 …第1号証 株式会社アライヘルメット
(B)登録第2711395号 「HADSYS」 S34年法第9類 …第2号証 株式会社ハドシス
これらの商標は、共に昭和34年法第9類の商品を指定するもので互いに同一又は類似の商品を含んでおりますが、前者(A)の称呼が「アドシス」であるのに対し、後者(B)の称呼が「ハドシス」であるにもかかわらず、互いに類似と判断されることなく、それぞれ別法人により登録されております。然るに、同じ称呼の関係にある本願商標「アドシス」と引用各商標「ハドシス」が併存できないとされる謂われはありません。先願にかかる(A)登録第2252706号の1「AdSis」(第1号証)の存在にも拘わらず、後願に係る(B)登録第2711395号「HADSYS」(第2号証)が登録されたのと同様に、先願にかかる引用商標「ハドシス」、「株式会社ハドシス」、「HADSYS Inc.」、「図形+HADSYS」が存在したとしても、本願商標「ADSYS」は当然に登録されて然るべきであります。
この点に関して、審査官は、拒絶査定の中で“出願人の添付の既登録例は、本件とは事案を異にしますから、それをもって本件の判断基準となすことは必ずしも適切ではありません”としておりますが、全く別の称呼を生ずる商標同士を引き合いに出したわけではありません。これら併存登録商標の称呼は、「アドシス」と「ハドシス」であることは誰の目にも明らかであり、本願商標の称呼「アドシス」と審査官が引用した商標の称呼「ハドシス」と全く同じ関係であります。これを登録した審査官は、1音相違であっても、本出願人が主張したような点、即ち「全体が短い音構成であること」,「相違音は語頭音でしかも強音であること」,「相違音は澄んだ音と摩擦音の違があること」等々を十分に配慮して類否判断を行い、非類似の結論を出したものと思います。それ故、この既登録例の存在が本願商標を審査する上で全く参考にならない訳がないと考えます。その様なことを言ったのでは、何のための商標審査か分かりません。今までの審査実務に束縛されることはないにしても、それなりの理由があって、これらの既登録例が存在しているわけですから、この事実を全く参考にならないとして無視するのはどうかと思います。全く考慮することがないとしたら、それは商標の審査を自ら否定するようなものであると考えます。
【むすび】
以上の次第でありますので、本願商標と引用各商標とは、外観および観念上類似しないことは勿論、称呼上も、短い音構成の語頭音における共鳴の形の開放音ではっきり澄んだ強音の「ア」と、声帯を半開きにして出す摩擦音の丸い音の強音である「ハ」の違いによって、語感語調を異にし、聴者をして決して紛れることはないものと思料します。それ故、本願商標と引用商標1~8とは非類似の商標であり、本願商標は商標法第4条第1項第11号の規定に該当するものではないと考えます。
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(参考)ケース70の「審決」
不服2004- 1233
商願2003-29119拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。
結 論
原査定を取り消す。本願商標は、登録すべきものとする。
理 由
1 本願商標
本願商標は、「ADSYS」の欧文字を書してなり、第9類に属する願書記載のとおりの商品を指定商品として、平成15年4月10日に登録出願されたものである。
2 引用商標
原査定において、本願商標の拒絶の理由に引用した登録第2604543号商標(第24類)は、「ハドシス」の文字を書してなるものである。同じく、登録第2614396号商標(第10類)及び登録第2641007号商標(第11類)は、「株式会社ハドシス」の文字を書してなるものである。同じく、登録第2614397号商標(第10類)、登録第2641008号商標(第11類)、登録第2657787号商標(第10類)、登録第2657789号商標(第10類)及び登録第2701273号商標(第11類)は、別掲のとおりの構成よりなるものである。
3 当審の判断
原査定で引用の登録第2604543号商標、登録第2614396号商標、登録第2614397号商標、登録第2641007号商標、登録第2641008号商標、登録第2657787号商標及び登録第2657789号商標の商標権は、商標登録原簿の記載によれば、存続期間満了により、いずれも商標権の抹消の登録がなされているものである。したがって、これらの引用商標を根拠とする拒絶の理由は解消した。つぎに、原査定で引用の登録第2701273号商標(以下「引用商標」という。)は、前記のとおりの構成よりなるところ、その構成中「HADSYS」の文字は、他の文字に比してひときわ顕著に表されており、図形部分とも構成上独立して看取されるものであるから、該文字部分のみも独立して自他商品の識別機能を有するものといわなければならない。してみると、引用商標からは、その構成中の「HADSYS」の文字部分に相応して「ハドシス」の称呼をも生ずるものである。一方、本願商標は、前記のとおりの構成よりなるところ、その構成文字に相応して「アドシス」の称呼を生ずるものと認められる。そこで、本願商標より生ずる「アドシス」の称呼と引用商標より生ずる「ハドシス」の称呼を比較すると、両称呼は、称呼における識別上重要な要素をしめる語頭にあって、「ア」と「ハ」の音質を異にして明瞭に聴取し得る音の差異を有するものであるから、この差異が両称呼全体に及ぼす影響は大きく、それぞれを一連に称呼した場合には、語調語感が異なるものとなって十分に聴別し得るものといわなければならない。また、本願商標と引用商標とは、外観においては、前記のとおりの構成よりなるものであるから、明らかに区別し得るものであり、観念についても、特定の観念を生じない造語であるから、比較すべくもないものである。してみれば、本願商標と引用商標とは、外観、称呼、観念のいずれにおいても非類似の商標といわざるを得ない。したがって、本願商標を商標法第4条第1項第11号に該当するとして拒絶した原査定は妥当でなく、取消しを免れない。その他、政令で定める期間内に本願について拒絶の理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
平成17年 9月 1日
審判長 特許庁審判官 小林 薫
特許庁審判官 寺光 幸子
特許庁審判官 井出 英一郎