欧州連合商標制度🇪🇺 vol.2

7.欧州連合商標の異議申立(Opposition)

Q.異議申立の理由はどのようなものとなりますか?

欧州議会議事堂、ストラスブール、フランス
欧州議会議事堂、ストラスブール、フランス

A.先行する登録商標と先行する商標出願です(相対的拒絶理由)。具体的には、対象となる商標が、既登録商標が同一または類似であり、かつ同一または類似の商品に使用される場合(先行商標が著名である場合は商品は非類似でも良い。)、一地域を超えて周知性がある先行の未登録標章と競合する場合、周知標章(パリ条約第6条の2)と紛らわしい場合が挙げられ、さらに、対象となる出願が、商標の所有者に無断で代理人(たとえば、代理店)により出願された場合も異議理由となります。

出願公告された欧州連合商標出願の約20%は異議申立を受けています。日本の商標制度では国が相対的理由も含めた実体審査を行って商標権を基本的には先行商標と競合しない形で発生させていますが、欧州では競合する部分は異議申立手続等を介して当事者間での境界線の線引きを可能とするようにしています。日本の制度では、実質の市場形態よりも机上の類似群コードで権利範囲を決めており、ぎりぎりのところでは不都合も生じ得ることとなります。競合するところは、細かい線引きが必要であり、仮に国や当局が線引きすると他の当事者同士にも同じ線引きが必要となってしまいケースバイケースの対応ができません。先ず当事者間で解決すれば良いのではというのが欧州制度の背景にあるものと思います。

Q.異議申立できる人は誰でしょうか?

A.先行の出願商標または既登録商標(商標は欧州連合商標または国内商標のどちらでも)の所有者、一地方に限定されない範囲で周知な未登録商標で、本国において欧州連合商標の使用を制限する権利を付与されている商標の所有者、およびパリ条約6条の2の規定(周知商標)に該当する商標の所有者です。また、先行商標の所有者から使用を許諾されている者(licensee)も異議申し立て可能です。なお、異議申立の根拠を自己が所有する商標とする場合、異議申立の根拠となっている商標の所有者であることを証明する国内官庁が発行した証明書を提出する必要があります。また、この証明書は異議申立をした際の言語に翻訳されていなければなりません。

Q.異議申立できる期間はいつでしょうか?

A.出願公告の日から3ヶ月以内です。但し、欧州連合商標がマドプロの国際登録出願で指定されているときは、異議申立期間は、公告日より1か月後の日から3か月とされます。異議申立期間の延長はありません。

Q.異議申立する際の言語は?

A.EUIPO の公用語になります。出願の言語がEUIPOの公用語の場合は、その言語か、或いは出願の際に選んだ第二言語(EUIPOの公用語)になります。出願にもEUIPOの公用語が使われている場合、異議申立人はどちらか好きな方を選べます。EUIPOの公用語以外の言語で異議申立がされた場合、異議申立人はEUIPOの公用語のいずれかに翻訳するための期間(1ヶ月)をあたえられます。

日本からの出願の際は、第一言語はほぼ英語となる場合が多いのですが、異議申立の多くがドイツからされるという事情がありますので、第二言語にドイツ語をあえて選ばずに、例えばスペイン語を第二言語に選択することで、異議申立への対応費用を削減する方法もあります。また、出願自体(第一言語)を少数派の例えばオランダ語とすることで、第二言語を英語にもっていく方法もあります。

Q. 異議申立にかかる費用は?

A. 異議申立費用(Opposition fee (Article 41(3); Rule 18(1))はEUR350です。この費用は異議申立可能な期間と同じ期間内に払わなければなりません。

Q. 異議申立にかかる期間は?

A. クーリングオフ期間の長さや事件の複雑性などにも依存しますが、一般的には、クーリングオフ期間の終了後、おおむね12か月前後の期間がかかります。

Q. クーリングオフ(cooling off)期間とは何でしょうか?

A.異議申立があった場合、その旨が出願人に通知されます。この通知があった後の2ヶ月間がクーリングオフ期間となります。この間、両当事者の間には対立関係はまだ発生していません。この期間に話し合いをし、双方の棲み分けを図るように指定商品や指定役務を限定して和解するをこともできます。和解により異議申立に決着をつけた場合、両当事者どちらも費用を払う必要がないという利点があり、異議申立人が払ったお金は払い戻されます。クーリングオフ期間は最大で合計24ヶ月まで延長できます。当事者がクーリングオフ期間を終了したいと思えば、その当事者は一方的に交渉を終わらせることができます。交渉による解決の方が実際に異議申立手続に入る事件よりも多くなっています。

Q.異議申立の必要書類はどのようなものがありますか?

A.異議申立人は、申立書と同時に、事実、主張、証拠のすべてを提出する必要があります。一方、出願人にはクーリングオフ期間の終了後、通常、2ヶ月の反証提出の機会が与えられます。

Q.異議申立を受けたとき、出願人が取りうる手段はどうなりますか?

A.補正、和解、各国出願への変更、異議申立人に対する真正なる使用の立証の請求といった手段があります。 商標の登録後5年間は商標を市場において現実に正しく使用する義務を商標権者は負います。従いまして、被異議に係る出願人は異議申立の根拠となっている商標の使用の証明の提出を求めることができます。

Case C‑149/11, Leno Merken BV v. Hagelkruis Beheer BVは、The Court of Justice of the European Union (CJEU) は、次のように判示しています(5 July 2012)。…1つの加盟国内のCTMの使用は、それだけを以て商標の真正な使用(genuine use)を構成するのに必要十分という訳ではないが、諸事情を勘案して、1つに加盟国の領土内に応ずる領域内でのCTMの使用は、共同体内での真正な使用を構成し得る…。

Q.使用の証明として提出できるものは何でしょうか?

A.証拠は場所、時、範囲、どれが登録されていてどれに異議申立が基づいているのかという観点から、異議申立商標の商品、役務への使用形態を含むものでなければなりません。たとえば、パッケージ、ラベル、価格表、カタログ、請求書、写真、新聞広告を提出することができます。

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ノイシュヴァンシュタイン城

8.欧州連合商標の不服申立(Appeal)

異議申立の認容決定、拒絶決定に対して、不服を申し立てることができます。

Q.不服申立をできる期間は?

A.決定の通知がされた日から2ヶ月以内です。この期間内にEUIPOに書面(notice of appeal)を提出し、不服申立をします。不服申立費が支払われるまでは不服申立がされたとみなされません。この期間は延長されないので注意が必要です。また、決定の通知がされた日から4ヶ月以内に不服申立理由を補充する書面(written statement of the grounds of appeal)を提出する必要があります。なお、不服申立費としてEUR720かかります。

Q.不服申立の際使う言語は何ですか?

A.不服申立の対象となっている決定に使用されている言語になります。

Q.不服申立書に記載する事項は?

A.不服申立人の氏名および住所、どこで代理人を任命したかと代理人の氏名及び住所、争われている決定を特定する説明書、決定の修正や取消を求める範囲、不服申立のための費用の支払いの詳細、不服申立人と代理人の署名、になります。不服申立にその理由が含まれていなかった場合、理由に関する記載は、争われている決定の通知の日から4ヶ月以内に理由を記した書面を提出しなければなりません。不服申立書の記載は簡潔かつ申立人の主張を的確に示したものである必要があります。これは、争点整理は主に書面によって行われるためです。

Q.異議決定の負担額について不服申立できますか?

A.異議決定の際には、費用敗者負担のルールになっており、負けた方の当事者が費用を負担することになります。この負担額について納得できない場合には、決定の通知がされた日から1ヶ月以内に書面で費用の決定に対して100EURを支払って不服を申し立てることができます。

9.欧州連合商標の登録(Registration)

出願公告の後に異議申立がなかった商標や和解し或いは異議申立が不成立の場合、更には不服申立が認容された場合、対象の商標は欧州連合商標として登録され、保護をうけることができます。

Q.登録された商標をどうやって知ることができますか?

A.EUIPOによって登録された商標はEUTM登録原簿に載ります。この登録原簿は商標権の移転、名義又は住所の変更、ライセンス供与などといった変更に対応するために常にアップデートされています。調査のために登録原簿を使うこともできます。その際には、その旨を書面で提出し、お金を払うことが必要です。

Q.欧州連合商標の権利の存続期間は?

A.欧州連合商標の存続期間は出願の日から10年です。登録日から10年ではありません。10年ごとに更新することも可能です。

Q.欧州連合商標の商標権の権利内容はどのようになりますか?

A1.EU加盟国全てにおける商標権を持つことができます。商標権の移転、ライセンス契約の締結も可能です。

A2.第三者が権限なく同一又は類似の商標を使用することを禁止することができます。なお、類似は商品・役務の範囲と商標の関係において公衆に混同を生じさせる可能性があるかいなかによって判断されます。

A3.商標の識別性や信用が害されるなどの不利益があるときは、商標権の禁止権の範囲を同一または類似のものから非類似のものにまで拡大することができます。

※商標権者が欧州連合加盟国においてその商標をつけた物品を自ら市場化したり市場化について合意をした場合は欧州連合内におけるそのあとの第三者の自由な商標の使用を禁止することはできません。この権利の制限は欧州連合内における権利消尽の原則によるものです。ただし、EUTMにより保護されている商標をつけた製品の欧州連合の非加盟国からの並行輸入はヨーロッパ経済地域に関する合意(Agreement on the European Economic Area)の加盟国からの場合を除き、原則として権利消尽の原則は適用されません。

Q.もし、権利侵害があった場合はどうしますか?

A.欧州連合の各加盟国に設置されているEUTM裁判所に訴えを提起することができます。訴えを提起する際、原告は侵害が行われた場所がある加盟国の裁判所か、被告の住所または営業所がある加盟国の裁判所のどちらかを選ぶことができます。侵害が行われた場所がある加盟国の裁判所侵害行為の有無についての裁判権のみをもちます。これに対して、被告の住所または営業所がある加盟国の裁判所は侵害行為の有無だけでなく、損害賠償の額などの全ての争いについての裁判権をもちます。EUTM裁判所による判決の効力はEU加盟国全てに及びます。

Palace of Westminster, London, United Kingdom
Palace of Westminster, London, United Kingdom

10.欧州連合商標の取消・無効(Cancellation)

EUTMR(European Union Trade Mark Regulation)によると、取消・無効(cancellation)には2種類あります。欧州連合商標の登録が取り消される(revocation)場合と、欧州連合商標の登録が無効(declaration of invalidity)であると宣言される場合です。登録が取り消される(revocation)のは、取消の申請日からであり、一方、登録が無効になる(declaration of invalidity)のは、遡及効があります。

Q.どのような場合、EUTMの登録が取り消され(revoked)ますか?
A.以下の場合、所有者の商標権は取り消されるかもしれません。

  • 正当な使用がなされていない場合 (Article 51(1)(a))。なお、EUTMは登録後継続して5年間の、正当に使用されていない中断は認められない旨(使用義務)が定められています。
  • 所有者の行動の結果、登録された商標が普通名称となった場合、所有者の使用により一般概念となった場合(Article 51(1)(b))。
  • 所有者による使用の結果、商標が登録された商品又は役務の質、本質、原産地につき混同を生じさせるようなものになった場合(Article 51(1)(c))
  • 所有者が団体商標の権利享有主体となりうる要件を満たしていないとき(Article 73)

Q.どのような場合、EUTM所有者の権利は無効と宣言(declared invalid)されますか?

A.登録したEUTMに絶対的無効理由(absolute ground)、相対的無効理由(relative ground)がある場合、登録は無効と宣言されます。具体的には以下のようなものがあります。
以下の場合、EUTMは絶対的拒絶理由(absolute ground)に該当するから無効であると宣言されるかもしれません。

  • 登録手続においてEUTMが第7条に違反して登録された場合(Article 52(1)(a):具体的にはArticle 7(1)(a) to 7(1)(k))
  • 出願時に出願人が誠実義務違反な行動(bad faith)をしていた場合(Article 52(1)(b))
  • 団体欧州連合商標が66条に違反して登録された場合(Article 74)
  • また、以下のような相対的無効理由(relative ground)に該当することによってEUTMは無効であると宣言されるかもしれません。

    • 当該欧州連合商標が先行商標と同一であり、同一の商品及び/又は役務を対象とする場合(Article 53(1)(a))。
    • 公衆の側で類似による混同が存在する場合(Article 53(1)(a))。
    • 競合商標をみだりに使用すると、先行商標の特性や評判について不公平ば利得を受け或いは害する場合(Article 53(1)(a))。

    Q.取消・無効請求をできる人は?

    A. EUTMが登録されたあとであれば、誰でも請求できます。ただし、EU加盟国内に住所、居所、営業所または現実の生産活動拠点を持たない者は代理人によって手続をしなければなりません。相対的無効理由については関係当事者のみです。つまり、侵害された先行商標権者又は使用をライセンスされた商標使用権者だけが、相対的無効理由で訴えることができます。

    Q.取消・無効請求をできる期間は?

    A.特に期間の制限はありません。ただし、先行する権利の所有者がEUTM登録後の継続した5年間の使用を黙認した場合は、(悪意による使用のケースを除き)相対的無効理由を主張して無効請求をすることはできません。

    Q.取消・無効請求にはいくらかかる?

    A. EUR700です。この費用が支払われるまで請求はされていないものとみなされます。この費用を払ったあとに請求を取り下げた場合、請求費用は払い戻されません。また、取消・無効請求の費用を負担するのは負けた側です(敗訴者負担の原則)。請求にかかった費用と相手の費用も負担します。敗訴者が負担する費用の上限は決まっています。

    Q.取消・無効請求の際に使用する言語は?

    A. EUTMの公用語になります。出願の際に出願人が選んだ言語が両方ともEUTMの公用語の場合は、どちらか選択され、取消・無効請求人はどちらか好きな方を選ぶことができます。

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