マドプロを選んではいけない場合がある!8つの視点からマドプロと直接出願の比較

マドプロのデメリット 実はマドプロを選んではいけない場合がある!

マドプロ出願の方が、本国から一括して迅速に世界各国における商標の保護を図ることができ、費用は安く、商標の管理も容易であると、マドプロのメリットを挙げている専門家が多いのですが、実はこれらのメリットが当てはまる場合もあれば、そうでない場合があります。特に米国や中国を対象とし、その他の出願国も少ない場合には、確実にデメリットの方が多いと思います。ここでは費用、手続きの煩雑さ、管理の各点について検討してみます。
国際登録出願と外国商標出願

国際登録出願と外国商標出願

日本の企業や個人の方がアメリカで商標を取得する方法は、大きく分けて2つの方法があります。1つはアメリカの特許商標庁(USPTO)に直接商標登録出願の書類を提出する方法で、もう1つは、国際登録出願(マドプロ出願)をする方法です。マドプロには本国出願が必要であり、例えば日本の商標登録出願や日本の商標登録を基礎として特許庁に国際登録出願の書類(MM2)を提出する際に米国を指定国に選択することでマドプロが可能です。前者をここで米国直接出願ルートとし、後者を国際登録出願(マドプロルート)とします。

出願の費用 (視点1)

例えば米国だけでの法的保護を求める商標出願の費用は実は米国直接出願ルートの方が格段に安くなります。米国直接出願ルートでは、その計算は簡単でUSPTOのオフィシャルフィーは1区分あたり350USD又は250USD(ID Manual)です。弁護士(代理人)費用は600USDが米国弁護士の平均値とされています。日本の特許事務所等を仲介した場合は、通常その仲介手数料も上乗せとなります。これに対して国際登録出願ルートの場合には、オフィシャルフィーとして先ず本国出願の費用がかかり、それにマドプロ出願の基本手数料(カラーの場合、903CHF、白黒の場合、653CHF)と米国指定の場合の個別手数料(388CHF)と特許庁の取扱手数料9000円が必要となります。さらに代理人の費用がかかりますが、本国出願の分の代理人手数料が上乗せとなり、指定国が1ケ国だけのマドプロ出願との合計ではさらに代理人費用が出願時にかかるものと計算できます。下表が出願時費用の構成となります。

政府機関費用(official fees) 代理人手数料 (attorney fees)
米国直接 250 USD(TEAS Plus) 600 UDS (US firm average)**
マドプロ 12,000円(本国出願料)
653 CHF (基本手数料/白黒)
460 CHF (US個別手数料)
9,000 円(特許庁の取扱費用)
本国出願弁理士手数料
マドプロ代理人手数料 
(合計12乃至17万円程度)

*出願する区分数を1区分、白黒見本として試算しています。USD1ドルを148円、CHF1フランを165円とすると、マドプロの政府機関費用の合計は、192,645円になりますので、マドプロでは既に政府機関費用だけで米国直接出願の政府機関費用と代理人手数料の合計125,800円より高額です。従いまして、仮に無料で働く日本のマドプロの代理人を探し出しても7万円近くマドプロの方が高いことになります。実際はマドプロ出願には本国出願の代理人手数料(5~15万円程度)がさらに上乗せとなるため。結論としては概ね12~22万円ほど単純にマドプロのルートの方が直接出願よりも高くなると思われます。外国商標は初めてという方に対してマドプロは現地代理人費用が無いので費用が安いという宣伝文句がありますが、その宣伝文句は物価の高いスイスにあるWIPOががっつりギャラを持っていくことを配慮しておりませんので、鵜呑みできない話なのです。
**弊所では米国直接出願の取り扱いがあり、代理人手数料は1区分7万円、2区分9万円、3区分11万円の手数料で、現地代理人費用の上乗せはありません。米国商標登録出願(直接)† 費用請求も政府機関費用を除いた代理人費用は円建で、ドル建てではありませんので、円安の悪影響を回避できます。また、数多くの弁理士事務所の方にもご利用いただいております。

中間処理の費用 (視点2)

マドプロ出願や外国出願の費用の見積もりには、多くの場合、中間処理費用が入っていない場合が多いものと思います。これは補正や意見書の提出などの中間処理は、拒絶理由通知などが発生しないと必要にならないからとも言えます。しかしながら、米国の場合は、審査官からの補正指示は比較的に頻繁に入り、統計によれば、米国への出願の43%は拒絶理由もなく登録となりますが、57%は何らかのアクションが米国特許商標庁から求められています。このアクションを求められる率は、外国からの出願では高くなる傾向にあると思われます。また直接出願では、商品や役務の記載を実際に使用するものに合わせて記載することができますが、米国特有のの表現が必要とされたり、商標自体についての説明(description of mark)や、外国語の場合の翻訳、権利不請求(disclaimer)などの対応がもとめられたりします。これらはマドプロの標準フォームのMM2にも記載欄が含まれていますが、十分に調べて記載しても補正となることもあり、特に商品や役務を本国出願の記載から翻訳するように記載した場合では、具体的な記載を求める米国実務とかけ離れているためにマドプロ経由からの米国出願では80〜90%ぐらいは拒絶理由(Office Action)が発せられることになります。これらの拒絶理由に加えて、先の登録と類似(2d: likelihood of confusion)や識別性なし(2e1: merely descriptive)などの拒絶理由もあります。米国弁護士による拒絶理由の対応は概ね1,000USD以上とされ、軽微な補正でも600USD程度の費用がかかります。マドプロ出願のメリットの1つが出願時に現地代理人が不要というものですが、その恩恵にあずかれるのはほんの10%程度に過ぎないと思われます。さらに、米国での拒絶が通報された場合には、米国直接ルートの流れに比べて国際事務局が余計に介在した手続の流れとなり、何のためにWIPOに費用を払っているのかの意味を改めて見直すことも必要です。

city street マドプロ
New York City

手続の煩雑さと審査の迅速さ (視点3)

マドプロ出願では、1つの出願で、1つの言語で、複数の国への出願を進めることができますが、出願人が自分で出願する方式(pro se filing)でもない限り、その簡素化のメリットとも言える出願手続の手間の問題は単に代理人側の作業の負担の問題ですので、代理人が出願人に対して1つの出願ということにそれほどのメリットが出願人側にはないものとも考えられます。また、マドプロ出願のメリットとして各国の手続が出願日から18か月以内のスケジュールで進められるから迅速であるとも言われていますが、米国や中国の国内出願の処理も最近では早くなっており、中国では審査期間として4か月で処理するという政府方針があり、米国直接出願の場合も区分にもよりますが出願日から3,4か月で公告(publish)されることもあります。マドプロの場合は、WIPO側で欠陥通報などの方式や本国出願の確認作業があるため早くても9か月程度はかかり、マドプロ出願だから迅速というのは東南アジアの特に処理が遅い国を引き合いに比較しているから過ぎなくなっています。米国だけの権利化の場合には、直接出願の方が確実に早く審査結果が得られることになります。さらに米国直接出願の場合、軽微な補正については米国審査官(Examining Attorney)が職権訂正を電子メールで示唆してくることが多く、その場合には正式な拒絶理由(Office Action)を発行するまでもなく解決することになりますが、マドプロの場合は最初の段階ではまだ正式な代理人は決まっていないため、軽微な補正についても拒絶通報となって出願人や本国の代理人に通知され、それは時間と費用がかかる結果となります。

マドプロ出願では補助登録(Supplemental Register)に登録できない (視点4)

米国審査の段階で識別力が十分でない場合には、直接出願の場合には補助登録で登録を確保することが可能です。補助登録でも侵害を主張することができ、類似の後の出願を排除することができます。しかしながら、マドプロベースの出願に対しては補助登録が認められていないため、識別力が十分でない場合には拒絶されてしまい、識別力が十分となるような活動後に主登録を再度試みることになります。特に、地域団体商標をマドプロで出願すると、米国では地名+一般名称のフォーマットが自動的に識別力が足りないという拒絶理由に当てはまるので注意が必要です。

使用宣誓書の提出と更新手続 (視点5)

米国直接出願のITU出願ではでは出願後に、登録査定(Allowance)が出された際に使用宣誓書(Statement Of Use)を提出する必要があり、その際には政府機関費用も1区分あたり100USDかかります。一方、マドプロ出願では、使用宣誓書を登録に際して提出する必要は原則ありませんので、その部分で手続きが簡素化され、米国での使用がなくても主登録簿に登録することができます。ところが、マドプロ出願で主登録簿に登録しただけで権利行使した場合には、反訴として登録の取消手続を請求されることもになり、実際の使用がない場合には注意が必要です。また、マドプロ出願では登録に際して使用宣誓書の提出が不要ですが、5-6年目や9-10年目、19-20年目ではそれぞれ使用宣誓書(§71)の提出が必要で、しかもその使用宣誓書(§71)はUSPTOに直接提出する必要がある一方で更新手続はIB(国際事務局)に対して行います。マドプロ出願では、米国直接出願のように米国特許商標庁(USPTO)に対する手続きだけ管理すれば良いという訳にはいかず、JPO、USPTO、IBなど各手続きを総合的に管理する必要があります。また、特に重要なのはWIPOの国際事務局(IB)に対する更新は国際登録の日が10年の起算日となりますが、Sec71の宣誓書は米国特許商標庁の登録証の発行日を起算日としていますので、国際登録自体の更新の時間軸とはずれていることは実務上重要です。

比較表
比較表

米国特許商標庁からの拒絶通報(マドプロ)(視点6)

アメリカ合衆国(米国)を指定国としてマドリッド協定議定書に基づく国際商標出願を行った場合、米国特許商標庁(USPTO)から拒絶通報(notification of provisional refusal of protection)を受けることがあります。この拒絶通報には、6ヶ月以内に応答することが求められ、応答しない場合には放棄したものとみなされます。拒絶通報を受ける理由はケースバイケースと思われますが、典型的には商品役務の表示(identification and/or Classification of Goods/Services)、翻訳(translation)、標章の説明(Description of Mark)、不登録事由(Refusal on Basis of Name or Surname, Basis of likelihood of confusion, Basis of Descriptiveness, etc.)、権利不要求(Disclaimer)などになります。この拒絶通報に対しては、比較的に簡単に補正で済む場合から、意見書を以て反論する場合まで様々な応答が必要となります。これら米国特許商標庁からの拒絶通報に対して代理人が応答する場合、国際商標出願自体の代理人(日本の弁理士)であっても、2019年8月の法改正によりアメリカ合衆国のいずれかの州の弁護士に仕事を依頼する必要があります。また、識別性の欠如という拒絶理由を受け取った場合には、直接出願では補助登録簿に登録して識別性の獲得を待つという手段が使えますが、マドリッド協定議定書に基づく国際商標出願場合には補助登録への補正ができず、そのまま拒絶と受け入れるしかないというデメリットもあります。

マドプロ経由で登録した場合の被異議や取消請求 (視点7)

中国や米国では、自分の登録やブランドの障害となる権利に対しては、異議申立や取消請求などの手続によって攻撃することがあります。マドプロによって国内的に何も問題なく審査を通過した場合には、出願人は現地代理人を雇用することなく、権利を保持している状態になっていますので、いきなり中国商標局や米国特許商標庁からのこれら当事者系の手続についての通知を受け取ることになり、この一番最初の通知を受けた時点から概ね1か月程度の応答期間がないところで代理人の選任などの作業を強いられてしまうこともなります。マドプロではこの現地代理人不在の状態を憂慮する必要もあります。

セントラルアタック (視点8)

マドプロは本国での登録を各同盟国でも認めようとする制度ですので、出願から5年以内で本国での商標出願が拒絶されてしまった場合や商標登録が無効や取消された場合には、国際登録も取り消されることになります。この場合、出願人・権利者は各国へ同一の条件での再出願をすることができ、その場合の出願日は元の国際出願の出願日となります。

マドプロでは中国の登録証が不送付

中国の直接出願では、審査の結果、登録すべきものと判断され、登録された場合には中国政府による登録証が送付されてきます。しかし、マドプロ出願の場合には、その中国登録証の送付は省略されており、侵害時に必要な登録証は別途現地代理人に請求する必要があります。

Jefferson Memorial, Washington D.C.
Jefferson Memorial, Washington D.C.

マドプロを選んでも良い場合とは

マドプロを選んでも良い場合とは、マドプロを利用して権利を取得する国が3以上の国数にわたる場合です。出願国の数が1,2であれば、WIPOに払う費用もないことから個別の直接出願の方が費用も安く、良く言われているマドプロのメリットは殆ど得られないことが多いと思います。3か国でとんとんぐらいで、特に米国や中国などの主要国を2,3国以下の場合ではマドプロ利用は費用が高くつくだけに終わる可能性が大となります。韓国も審査で暫定的拒絶通報を受ける割合は高いです。予算が潤沢にある企業以外は慎重にルートを選択する必要があります。世界で統一して4か国以上の国でというような場合は、マドプロを選んでも良い場合と言えます。

有明国際特許事務所を選ぶべき理由
有明国際特許事務所 では、弁理士とアメリカ合衆国連邦規則§11.1に定義されている米国弁護士の資格により、特許庁 (JPO)と米国特許商標庁(USPTO)にそれぞれ直接手続でき、現地代理人は不要です。

米国商標制度 vol.1
米国商標制度 vol.2
マドプロ米国指定の使用宣誓書の提出
Trademark fee information

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