1.商品化権とは?
商品化権は商品の販売や役務の提供の促進のためにキャラクター(character)やエンドーサー(endorser)を媒体として利用する権利です。商品化権は法令として定められた用語ではなく、英語の”Merchandising Right”の訳とされています。商品化権は、契約によって発生しますが、その内容は著作権、肖像権、商標権、意匠権のライセンスや、不正競争防止法や民法の不法行為からの制約などに依存します。TV番組、アニメやゲームなどのキャラクターについての商品化権を構成する権利として中心的なものは著作権です。著作権は無方式主義ですので、政府機関などに登録しなくとも発生し、そのライセンスも可能です。商標権と意匠権は、日本の場合特許庁への登録作業が前提として必要です。エンドーサーは、スポーツ選手、アーティスト、タレント、俳優などの著名人がなることができ、知名度が低い人や一般の人は顧客吸収力が低いため、原則的にはエンドーサーにはなれません。エンドーサーの名前、嗜好、評判、コマーシャルフィルム、SNSなどを商品の宣伝広告や販売促進等に使用する契約をエンドースメント契約(endorsement contract)ともいいます。キャラクターを用いたビジネスで稼ぐためには、優れた著作物を生み出すセンスと、それをライセンスビジネスとして活用するための法的な知識が必要です。
2.キャラクター
キャラクターといえば、小説、漫画、映画、アニメ、コンピュータゲームなどの作品(コンテンツ)に登場する人物や動物を指しますが、そのイラストや着ぐるみなども含めて考えることができます。キャラクターは大別すれば、コンテンツに基づくコンテンツキャラクター(例えば、ポケモンやどらえもんなどの漫画のキャラクター)と、コンテンツに由来しない広報や販売促進を託された非コンテンツキャラクターとに分けられます。非コンテンツキャラクターは、例えば町おこしなどの地方自治体や地域の組合などが採用する所謂ゆるキャラや、商品の販売促進に専ら使用されるキャラクター(例えば、ガリガリ君やカールおじさんなど)もあります。また、例えばアーティスト、タレント、スポーツアスリートなどの実在する有名人由来の似顔絵等(例えば、志村けんのバカ殿様、加藤茶の加トチャンの各キャラクター)のような著作物もキャラクターの定義に含まれると思われます。最高裁判決(平成4(オ)1443)では、「キャラクターといわれるものは、漫画の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念」であり、「連載漫画においては、登場人物が描かれた各回の漫画それぞれが著作物に当たり、具体的な漫画を離れ、右登場人物のいわゆるキャラクターをもって著作物ということはできない。」と判示し、「複製というためには、第三者の作品が漫画の特定の画面に描かれた登場人物の絵と細部まで一致することを要するものではなく、その特徴から当該登場人物を描いたものであることを知り得るものであれば足りる」と判断しています。言い換えれば、漫画などの基になるコンテンツを離れて抽象的なキャラクターまでは著作物とはならないが、その特徴から登場人物を描いたものであれば細部の一致は必要ではないということだと思います。
3.キャラクターの契約の重要性
キャラクターを利用する、譲渡する、第三者に権利行使するなどの取り決めは、著作者、著作権者、利用者の間の契約に主に依存します。著作活動により生ずる権利は、一身専属の著作人格権と、財産権として譲渡可能な著作権があり、特に契約やそれ以前の応募の時点で、権利の帰属関係や不行使などを明確にしていないと問題が発生することもあります。コンテンツキャラクターは、既にコンテンツビジネスが存在しているとの前提では、出版権の契約や放映権の契約に商品化権契約が内包される場合や、追加される場合もあるかと思います。非コンテンツキャラクターでは、著作者と著作権者の間の著作権譲渡契約と、著作権者と利用者の間の商品化権契約(ライセンス契約)は、別の契約となり、下流側に当たる商品化権契約も重要ですが、特に上流側の著作権譲渡契約も重要です。著作権法には「使用権」や「利用権」という名前の権利は存在しないことから、契約書においては、著作権法に規定されている権利の名称を使うなどして、譲渡対象を明確にする必要もあります。また、キャラクターの使用は無償とされる場合もありますが、有料の場合もあり、詳しくはキャラクターの使用料率のページをご参照下さい。
3-1. 著作権譲渡契約
著作権人格権について スターボ事件(東京地裁 平成18年(ワ)10704号、H20.4.18判決)や、ひこにゃん事件(大阪高裁平成23年(ラ)第56号、H23.3.31判決)からの教訓としては、著作人格権についての契約が甘い場合には、揉め事も大きくなることがあり、商品化により利益を拡大する場合の障害になり得る点が挙げられます。著作権人格権は一身専属であるために譲渡することができず、著作権人格権のうちの特に同一性保持権が販促や広報のために商品展開する上で大きな妨げとなり、著作物の少し色やバランスや姿勢、向きを変えてといった変更もできなくなる可能性もあります。商品化でビジネスを展開することが予定されている場合、著作者が外部デザイナーや公募などで応募した者である場合には、契約により著作権人格権の不行使特約を著作権者との使用権者に対して確実に締結することが重要になります。特に仲介として間に入るような広告代理店は、著作権人格権の権利処理に失敗すると損害賠償も憂慮することにもなり兼ねないと言えます。”採用作品の一部修正・翻案を主催者に認める”という契約条項も著作権人格権の不行使特約として機能します。
著作権の譲渡について 一般に、制作費用を支払ってデザインしてもらう場合には、著作権の譲渡が前提となる場合が多いと思いますが、譲渡契約に、第27条又は第28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていない場合には、譲渡人にそれらの権利が留保されると推定される(著作権法第61条第2項)ため、”著作権等一切の権利を譲渡する”というような包括的な記載では、翻訳権、翻案権は著作者が享有したままということにもなります。前出のひこにゃん事件では、契約書の他の部分が参照されて翻訳権、翻案権は譲渡されている(著作権法第61条第2項の推定の覆滅)と判断されましたが、包括的記載が必ず救済される訳ではなく、著作権法第61条第2項の趣旨からして、著作権の譲渡には第27条又は第28条に規定する権利も特に記載するのが問題を起こさないためにも必要です。著作権の譲渡に付随して、商標権、意匠権その他の知的財産権を譲渡させる条項も有効です。応募と並行して商標登録出願を秘密裏に外国で行い、半年後に優先権を主張しながら日本に出願して権利者の出願に対する先願の地位を確保しながら商標権を取得するという背任行為もないとは言い切れないからです。
権原保証 権原保証は、著作権者が確実に著作権を有していることを保証するもので、言い換えれば、他人の著作権やその他の知的財産権を侵害していないことを保証することでもあります。著作権を有していないのに契約している場合には損害賠償の求めに応じることを誓うことを意味します。例えばデザイナーが制作した場合でも、裁判で似ているキャラクターが先に存在しているとの訴追を受けることもありますので、デザインの公募では、そのデザインの過程で発生するデッサン、下絵、スケッチなど制作過程で生ずる関連資料を保存することを義務づけ、確認することがあるとの事項を応募要項に盛り込むことがあります。また、同じ著作者が過去に発表若しくは応募した作品及びそれに類似する作品を排除することもトラブルを回避するためには必要です。
著作権登録 著作権登録については、ほとんど登録が利用されていないという実態もあり、全く記載していない契約書も存在しますが、著作権の譲渡については、文化庁での登録が第三者対抗要件となっていて(著作権法第77条)、譲渡人である著作者が2重譲渡して後に譲渡を受けた者(譲受人)が先に登録した場合には、先に登録した者が真の譲受人となり、先に譲渡を受けながらも登録していない者若しくは登録が後になってしまった者は先に譲渡契約を結んでいても権利を有しないことになります。著作権の譲渡の登録は、両当事者(譲受人および譲渡人)が行うものですが、譲渡人の承諾があれば譲受人単独で登録することもでき、譲受人が必要に応じて登録できるよう、契約書に登録を承諾する条項を設けておくことが望ましいと思われます。
3-2. 商品化権契約
商品化権契約は、著作権者若しくは著作権管理者と商品販売者等との間に締結される、商品に著作権の利用を許諾することを内容とする契約です。漫画やゲーム主人公のようなコンテンツキャラクターの場合には、著作物の利用の形態は、複製権の利用若しくは二次的著作物(翻案権)の利用となり、例えばマンガ のキャラクターを立体化し、そのフィギュア人形を販売したり、Tシャツや文房具にキャラクターを印刷したりして販売することができます。また、キャラクターの利用許諾契約は、著作権だけではなく、商標権や意匠権、不正競争防止法も、特に第3者に模倣・盗用された場合に力を発揮するように構成されます。
商品化許諾の範囲 商品化について許諾される範囲としては、許諾商品、許諾地域、そして許諾期間があります。また、使用料率やミニマム(最低保証数量)なども、ライセンス交渉での条件となります。一般的に、日本の方式の例として、交渉相手毎に変動するような許諾条件を別紙とし、そこに項目ごとの数値を書き込むことが良く行われます。これらの条件を交渉で複数の相手ごとに変えた場合に、別紙部分だけ書き換えれば済むからです。契約書の印刷も今日では簡単ですので、別紙にしなくとも契約内容は同じです。許諾地域としては、日本国内に限定される場合が多いと思いますが、日本に限定しない契約も当事者間の合意があれば可能です。許諾期間について、単年や複数年とすることが多く、合意により更新可能とするものが多く、許諾商品の販売予定日が属する日の月初を許諾期間の開始日と設定する例が多いものと思われます。
使用形態の制限・品質管理 使用できるキャラクターについては、全く同じものを複製する場合は問題を生じない場合でも、少し改変させる場合などでは2次著作物の問題があり、その場合には、著作権者若しくは著作権管理者の許可を必要とするように条件を盛り込む例が多いものと思います。例えば、キャラクターが画像でイラストの仕様書には正面顔だけの場合、横顔を制作して商品に使用する場合には、許可を要することになります。実際に販売する製品と同じサンプルを提出し、許可を得てからという事例も多いと思います。この少し改変の部分が、著作人格権の不行使にあたりますので、著作権者若しくは著作権管理者は著作者からの譲渡契約の権利処理に失敗しますと、賠償責任の問題となり得ます。色を変える、姿勢を変える、背景を変える、表情を変える、セリフを加えるという改変の全てが許される訳ではありませんので、許可を要する設定が望ましいと思います。また、許諾されるキャラクターの使用であっても、販売や広告に、社会的・教育的に悪影響を与えるような方法での行為を禁止するという条項を設け、例えば正義のヒーローの如きキャラクターが反社会的行為の手前で気づくというようなストーリーにはNGを出せるようにという配慮が必要です。
サブライセンス 著作権の利用者として、さらに他人に利用させる場合をサブライセンスあるいは再許諾といいます。契約自由の原則からサブライセンスが全くできない訳ではありませんが、商品化権契約については、その地域のプロモーターや仲介役として商品化権契約を結ぶ場合を除いて、他人への再許諾を禁止する例が多いものと思います。著作権者若しくは著作権管理者としては、販売数量がロイヤリティーの額に影響するため、販売数量の把握が重要であり、もし売り上げが立たない事業者には他の事業者への交代なども業務上必要だったりします。再許諾では、全数把握ができなかったり品質管理などもありますので、再許諾禁止が多いものと思います。また、権利義務について第3者への譲渡は、相手側の同意を要する例も多いと思います。
著作権表示 商品化権契約について著作権表示を必ずしなければならないということはなく、購買者の誤認混同を防止するための条項となります。ただし、契約としては、著作権表示を義務付ける条件の商品化権契約が多いものと思います。著作権表示の例としては、©マークと、発行年,著作権者名のような例が使用されていますが、©マーク自体は単に慣例で使用されているだけで法的な根拠はなく、他の表示方法も利用できます。著作権表示は、商品の一部に表示することが義務付けられたりしますが、商品によってはタグや包装材の一部に表示することも可能です。
検数証紙 著作物の利用者が商品に使用した件数を正確に報告することを義務づけることで、使用料を確保する狙いがあり、例えば、半年や3か月ごとの数量を報告することを義務付けます。これと平行して、あるいは証紙を商品に貼って販売することを義務付ける場合では、渡す証紙の数や証紙の残数を管理することで、商品化された著作物の数量を把握することができます。証紙の貼り方として、商品1点ごとに一つ貼る方法と、代表証紙としてインナーカートン(例えばたばこの1カートン)に一つ貼る方法もあります。証紙としては、簡単に偽造できないホログラム採用のものもあり、より管理を徹底するためID番号を印字するなどの手法も存在します。証紙のあるなしが問われる場合は一目瞭然ですが、証紙の真贋を問うような場合には、簡単に偽造できない工夫も要します。
NFT NFTはここ数年で発達してきたブロックチェーン技術応用の改ざん防止手法であり、英語で「Non-Fungible Token」の略号で、日本語では「非代替性トークン」と呼ばれています。NFTを利用することで、ブロックチェーンによりどのデジタル作品がオリジナルなのかを保証できることになります。ブロックチェーン技術はデジタル技術が利用される範囲で広がりつつあり、デジタルアート作品だけではなく、エンターテイメント分野や音楽分野にも真贋判定に利用されつつあります。
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他の知的財産 著作物を商品に展開した場合に、他人の意匠権や商標権と抵触するような態様も考えられ、例えば、著作権管理者がキャラクターの図柄だけ管理し名前については管理しないというような場合には、利用者サイドでのトラブルが発生することにもなります。例えば、非コンテンツキャラクターの名前が〇〇ちゃんとされ、その”〇〇ちゃん”の名前についてライセンシーに使用してもらう商品についての商標登録を確保しない場合には、他人が”〇〇ちゃん”の商標を後からでも登録してしまうことがあり、その結果、商品化権ライセンスのライセンシーが使用できなくなるというような問題が発生します。このような問題を未然に防止するため、できれば著作権者あるいは著作権管理者で他の知的財産権を取得することが望まれ、特に商標権は必要性が高いものと思います。また、商品販売者等がもし商標権や意匠権などの他の知的財産権を取得するようなことがあれば、他のライセンシーに対する影響もあることから、著作権者あるいは著作権管理者に有償若しくは無償で譲渡することを義務付けたり、同意がなければ出願もできないとする条項が有効です。また、ライセンシーに他の知的財産権をとらせないのは、日本だけでなく世界中とすべきで、例えば中国での商標権は勝手にどうぞという考え方では、中国にもライセンスする際に商標などの問題を生ずることになります。
第3者対応 商品化権契約で考慮すべき第3者対応は2つに大別でき、1つは他人の侵害行為に対するもので、もう1つは他人から商品化権の利用が侵害だと言われる場合です。この第3者対応のうちの他人の侵害行為については、ライセンサーである著作権者若しくは著作権管理者に侵害排除を義務づける条項があれば、ライセンシー側からみて十分とも思えますが、他人の侵害排除はいくらかかるかは計算できないところがあり、義務までではなく排除すべく最善の努力とする例や、合理的措置を講じる(ライセンス料に比べて訴訟費用がかかりすぎると判断すれば辞められる)とする例が多いものと思います。一方、ライセンシー側の義務としては、侵害行為を発見したときは通知する義務があるとする契約が多いものと思います。次に、ライセンシー側の商品化の行為が他人の権利と抵触する場合には、著作権などの知的財産権を侵害する行為なのか、それ以外の製造物賠償責任等なのかを区別するような条項としている契約例が多く、製造物賠償責任等の場合は次項のように著作権者若しくは著作権管理者の免責条項が求められます。また、ライセンシーが著作権を侵害しているとして第3者から訴えられたり、文句を言われる場合には、当該商品化権契約の根底となる事項に問題ありとなる可能性があり、商品化権契約自体の契約が無効となったり、損害賠償責任が生ずる可能性もあり、それに対するライセンス料の不返還特約を予め入れるかどうかというような話になりかねませんが、著作権自体は著作者が盗作・冒認などをしない限りは、著作権が簡単につぶれるようなことはなく、著作権の譲渡契約に錯誤がなければ、問題とならない事案が多い筈です。第3者からの著作権侵害の訴えや警告については場合、著作権者若しくは著作権管理者の費用負担で処理すべき事項にはなります。著作権侵害の要件として簡単には1)類似性と2)依拠性(いきょせい)が挙げられます。キャラクターの著作物についての類似性に関しては、前述のように第三者の図画が登場人物の絵と細部まで一致することを要するものではなく、その特徴から当該登場人物を描いたものであることを知り得るものであれば足りるとされています。
製造物賠償責任と免責 商品化権契約による商品の製造や販売に起因して万一の事故などが生じた場合には、ライセンサーである著作権者若しくは著作権管理者を免責とする条項を記載する例が多いものと思います。例えば、キャラクターの形状にオリジナルの製品形状から改変することで、強度の低下が生じ、何等かの事故が発生したような事件では、著作権者若しくは著作権管理者はいかなる責任も負わないと規定したり、ライセンシー側に商品についての製造物賠償責任保険の加入を義務付けるなどの規定を設けることができます。
4. 商標と商品化権
コンテンツキャラクターと非コンテンツキャラクターの両方とも著作権を中心とするため、商標権などを取らなくてもライセンス自体影響がないように考える方もいるかと思いますが、著作物を商品に適用する行為は、商標の使用行為とかさなるため、コンテンツキャラクターは物販による収益を考えた場合に、また非コンテンツキャラクターはほぼ間違いなく、商標による保護を無視できないと思います。たとえば、キャラクターに同一の図柄や似た図柄は存在していない場合であっても、その名前について先に他人が商標登録している場合には、キャラクターをその抵触する名前で使用ができない状態になります。このような先登録商標の存在は、キャラクターの命名前に商標調査を行うことで見出すことが重要で、その後に仮に商標登録出願をしない場合であっても商標調査は必要です。従いまして、商標調査のタイミングは、一般大衆に公表する前でまだ名前の変更が可能なうちに行うことが重要で、一般大衆に知られた後でのキャラクターの変名は宣伝活動がふりだしに戻ることになります。また、名前だけではなくキャラクターの絵自体についても商標登録を行うことが一般に行われています。これは似ているキャラクターの絵を使用する者に対して著作権侵害を訴えることを想定した場合、著作権だけでは著作物を創作した日付けの証明が容易ではなく、その権利者も相対的であるため、商標権も用いることで日付や権利者の曖昧さを少しでも回避する狙いもあります。アニメーションなどの場合では、キャラクターの姿勢などは動いて変化しますが、商標権として保護する場合には、代表的な画像が選択されて登録される例が多いものと思います。
5.当事者別の契約事項の要点
5-1. デザイナー・イラストレーター
デザイナー/イラストレーターの方は、キャラクターを創作するという行為を行って著作者となりますが、職務著作の場合には、デザインした人はその組織の一員にすぎず、著作者は組織である法人等になります。その場合、著作権人格権は職務著作をした法人が享有することになります。職務著作とされるには著作権法第15条に規定があり、次の要件があります。1)著作物の作成が法人等の発意に基づく、2)法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物である、3)その法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの、4)その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがないの各要件を満たせば職務著作が成立します。外部の独立したデザイナーの場合には、法人等の業務に従事する者ではないので、職務著作には該当しません。従って、デザイナー個人が著作権を当初を有し、一般的には依頼者に譲渡する形か依頼者に利用を許諾する形となります。これらはいずれも契約により生じる権利関係ですので、書面で契約することがトラブルを未然に回避する上でも望ましいところですが契約書を作成せずに口頭で契約を結んでも有効です。目安として例えば10万円以上の対価が発生するような仕事には、書面で契約するというようなポリシーもありかなと思います。
5-2.イベント主催者
町興しのようなイベントでは、キャラクターを利用した宣伝活動やメディア露出などの手法がとられることがあり、県や町などの地方自治体や、協同組合や観光協会のような組織が主催者になることがあります。この場合、広告代理店に依頼することも多いと思いますが、独自に契約を結んでキャラクターを制作し、それを利用する場合には、それぞれの契約が必要となります。外部のデザイナーが選ばれてキャラクターを制作する場合には、デザイナーとの間で利用契約する以外は、確実な譲渡契約や人格権の権利処理が必要であり、できない場合にはひこにゃん事件のような紛争が生ずるおそれがあります。また、自治体が著作権・商品化権を管理するにしろ、代理店が商品化権を管理するにしろ、著作権の利用者の管理だけでなく許諾を得ていない第3者の使用を排除する必要もあり、また、商標権についても商品化権を設定する商品チャンネルには、キャラクターの名前での問題が生じないように商標権の取得などの手当てが求められます。また、デザインを公募する場合には、その応募の段階から、譲渡契約や人格権の不行使処理について知らせる必要があります。また、地方自治体は、平等の原則があり、利益を追求して誰かと契約するような場合や侵害が疑われる第3者を訴えるという点で遅れる傾向もあり、特にライセンス料を取っている場合には素早い侵害対応は必要となります。
5-3. 広告代理店
スターボ事件では、裁判所は広告代理店の義務についても言及しており、1)被告の広告代理店は、イラストなどが広告、リーフレット及びパッケージに使用することができるように、著作者から翻案の許諾を得、かつ著作者人格権が行使されないように権利処理を行う義務があり、2)このような権利処理が行われていなかったことを認識し又は認識し得たときは、契約による信義則上、原告の依頼者にその使用をしないよう連絡するなどの方法により、依頼者に発生する被害の拡大を防止する義務があり、3)さらに広告代理店は、自己の履行補助者の立場にある孫請け制作会社に製作過程等を確認するなどして、著作権法上問題が生じないように権利処理を行う義務もあると判示しています。すなわち、著作権の仲介を行う広告代理店は、i)制作過程の確認による制作者側での著作を確認、ii)著作者人格権の不行使と2次著作物の利用の確保、iii)万一、権利処理ができない場合、依頼者に連絡するという善管注意義務があると述べています。また、キャラクターに名前がある場合には、特に他人の商標権に抵触しないかどうかを注意する必要があり、抵触する場合には、名前を変更するなどの対策が重要です。商品化権を設定する場合には、Tshirtなどの被服(第25類)や、文房具(第16類)などが販売促進用商品として設定される場合が多く、他にも菓子・パン(第30類)や、アプリ(第9類)などの多く出願されています。この辺りの商品についてのライセンスを図る場合には事前の商標クリアランス調査が必要となります。
5-4.商品製造販売業者
商品化権契約を結んでキャラクターを利用する業者の方は、通常、商品化権の管理者から書面の商品化権設定契約書などの何等かの契約書が準備されていて、許諾期間、ライセンス料、許諾商品、許諾地域などの諸条件について話し合いを行って、書面に数字が入れられ署名捺印して契約書が完成する形式が多いものと思います。ライセンシー側からすれば、ライセンス料と利用する期間や商品や役務以外にはあまり交渉の余地はないようですが、いくつかのチェック事項は挙げられます。1)許諾がその商品及びそれに類似する商品に関して独占なのか非独占なのかを確認すること。非独占であれば、競合する商品も現れますので、要注意です。2)数量の特定方法は、自己申告なのか、検数証紙方式なのか、通し番号なのか、IDをサーバー等で管理する方式なのかを判断し、あまりに負担とならない方法かを確認します。3)サブライセンス又は再許諾は可能なのかを確認します。一般にサブライセンスはNGか、事前の合意という条件になると思います。4)翻案の範囲を業務上支障のない範囲としているのかを確認します。これは27条さらには28条についても、管理者が権利を有しているのかということでもあり、余りにその範囲が狭い場合には、少しの翻案(改変)もできないため、商品化が難しくなります。また商品サンプルの提出を義務付ける契約も存在します。5)商標権、意匠権の取得についての規定があるかどうかを確認します。キャラクターの名前や絵の商標権を管理者が取得していない場合、他人にとられることで、ライセンシーの利用が大幅に制限される可能性があります。そのあたりの手当てがどのようになっているかが重要です。6)第3者の権利侵害の対処 第3者の権利侵害が横行するようでは、ライセンスした意義も失われることになりますので、原則、ライセンス料の支払いを受けている著作権者若しくは著作権管理者が侵害行為に対処すべきです。この場合、商標権侵害や不正競争防止法(形態模倣など)による救済も可能な場合もあります。一般的は、ライセンシーが他人の侵害行為を知ったときには、著作権者若しくは著作権管理者に通知する義務があるとする契約が多いものと思います。
5-5.ゲーム会社
例えばインターラクティヴゲームなどの登場人物をゲーム制作会社内で社員が内製した場合には、原則職務著作の規定が当てはまると思いますが、キャラクターのデザインを外注により制作した場合、特に外注先が個人のデザイナーの場合には、著作権人格権の問題が生じる可能性があり、契約等で著作権人格権の不行使特約がなければ2次著作物(Tシャツや文具など)に展開する場合の障害となり得ます。直接外注でなくとも、下請けのさらに孫請けが個人の場合もありますので、下請けがデザイン会社でも制作過程のチェックは必要です。ビデオゲームはプログラムの著作権でもありますが、同時に映画の効果に類似する視覚的または視聴覚的効果を生じさせる方法で表現される動画等は、映画の著作物にもなることから、ビデオゲームは映画の著作物にもなります(中古ゲームソフト事件 最高裁 平成14年4月25日、但し頒布権は消尽)。映画の著作物の著作権は、著作者が映画製作者に対し当該映画の直作物の製作に参加することを約束しているときは、当該映画製作者に帰属するとの規定があります(著作権法第29条)。すなわち、映画の著作物については、著作者の権利のうち「財産権」の部分が、参加契約があれば自動的に監督等の著作者から映画会社(映画製作者)に移ることになっています(法定譲渡)。この場合、著作権人格権は、映画会社の社員で制作された場合には職務著作となり、映画会社が人格権も有しますが、独立した監督など(所謂モダンオーサー)により製作された場合には著作権人格権は監督などが享有したままとなります。なお、映画の原作部分の著作者はクラシカルオーサーと呼ばれ、映画の著作物の著作者からは除外されます。
5-6.出版社
小説家や漫画家、随筆家などは出版社との間に出版権を設定する出版契約が結ばれることが多いと思われます。出版権者は、その目的である著作物を原作のまま印刷その他の機械的又は化学的方法により文書又は図画として複製する権利を専有します(著作権法第80条第1項)。出版権は、著作権のうちの複製権を有する者が出版社との契約を締結して発生します。通常は、出版権の契約書は、対価と交換した複製権の専有が基本事項ですので、商品化権については別途の契約となるものが多いと思われます。著作者に支払われる印税は刷り部数に本の本体価格を乗じた金額の10%が多いとされ、刷部数に対して印税を払う生産印税方式と、欧米では売れた部数に対して払う販売印税方式があります。なお、出版権の設定を受けた出版者は、原稿の引渡し等を受けた日から6ヶ月以内に著作物について出版、電子出版を行う義務や継続して出版、電子出版を行う義務を負います。また、出版権の設定については、登録しなければ第三者に対抗することができないというルール(第79条~第88条)になっています。