商標・商標登録について
1.商標とは?
商標とは、簡単に言えば、自分と他人の商品や役務(サービス)を区別するマーク(専門的には“標章”と言います。)です。商標は、文字・図形・記号やそれらの組み合わせで構成することができ、平成26年からは、商標法改正により、色彩のみからなる商標、音商標、位置商標、動き商標など、これまで商標として登録し保護することができなかった商標についても登録可能となりました。日本では、視覚や聴覚では把握される標章が対象になりますが、米国では知覚され出所表示するもの(source designator)であれば商標とすることが可能です。標章の構成からの分類した例を挙げます。
a.文字商標
(word mark)
文字商標は文字からだけで構成される商標で、文字の書式(フォント)を問わず、使用できる文字には、特に制限はなく、数字、仮名、漢字、ローマ字、その他の外国語であっても言語を構成する文字列は文字商標です。2つの語を組みわせた文字商標を一般に結合商標と呼びます。また、文字商標の1つとして標準文字という形式を選択することができます。標準文字は文字や記号のフォントの形式を特殊なものとはせずに登録させるものであり、通常最も広い権利を確保できる形式になります。標準文字には選択することのできない文字もあり、例えば、α(アルファ)、β(ベータ)、γ(ガンマ)などのギリシャ文字や半角英字は選ぶことができません。文字自体を図案化、装飾化した標章を一般にロゴタイプと呼んでいます。英語とその読みの仮名を上下の2段で記載した商標を通称”2段書き”と呼びます。2段書きの商標のどちらか一方の段の商標の商標でも原則的には社会通念の同一の商標の使用と解釈できるとされています。文字商標の中には、pseudo mark (スゥード マーク/異綴商標*或いは疑似商標)というのもあります。これは本来のスペルとは意図的に異なるスペルの文字を使用したマークで、例えば、cとKを入れ替えたKrazyやFor youを4Uとする場合が例示されます。
*筆者試訳
b.図形商標
(figurative mark)
図形商標は、図形だけでどのような称呼が生ずるかは特定されない標章(figurative mark)から、広義には、図形と文字の組み合わせで融合した標章(figurative mark with letters)や文字部分以外の図形部分にも識別力がある標章までも図形商標に含まれます。図形商標については、ウィーン分類によって図形要素に番号が付与されていますので、調査時にはその番号を手がかりに検索を進めます。
c.立体商標
(three-dimensional(3D) or shape mark)
商標は平面的なものに限定されず、3次元的な形状でも平成8年商標法改正を経て登録可能とされています。立体商標は3次元的な形状から構成する場合もあり、商標の包装などの3次元的な形状と平面の商標を組み合わせとすることもできます。立体的な形状が通常採用し得る形状に過ぎない場合には、識別力なしとして登録できないこともあります。立体形状に文字や図形を組み合わせることもできます。
d.音商標
(sound mark)
音商標は耳で聞き分けることで自分と他人の商品や役務を区別する人工音、自然音、メロディ、声などの標章です。音商標だけが視覚を不要とします。詳しくは音商標のページへ。音自体に自他を識別する言葉が含まれる場合と、含まれない場合とがあり、後者では使用による特別顕著性が備わっていることが登録要件となります。
e.動き商標
(motion mark or animated mark)
動き商標は文字や図形等が時間の経過に伴って変化したり移動する商標です。例えば、テレビやコンピューターモニター等に映し出されて変化する文字や図形などが該当します。
f.ホログラム商標
(hologram mark)
ホログラム商標は文字や図形等がホログラフィーその他の方法により、例えば見る角度によって変化する商標です。ホログラム商標には、商標の詳細な説明の記載が加わり、例えば”商標登録を受けようとする商標(以下「商標」という。)は、見る角度により表示される内容が変わるホログラム商標である。商標には、「〇✕▽◆」の標章が連続して表示され、異なる角度から見ると光の反射により異なった色彩に見えるように構成され、それぞれ3つの写真(図)は、異なる角度から見た場合を示している。”の如き説明が掲載されます。
g.位置商標
(positional mark)
位置商標は文字や図形等の標章を商品等に付す位置が特定される商標です。特定の位置に標章を付することで自他商品識別力を発揮する構成することもできます。より詳しくは位置商標のページへ。施行日前から使用している新しいタイプの商標(音商標、動き商標、ホログラム商標、色彩のみからなる商標)については、商標登録をしなくても、従来の業務範囲内で使い続けることができる継続的使用権が認められていますが、位置商標については、従来から保護が認められていた商標について、その商標を付す位置が特定されるにすぎないため、継続的使用権が認められていません。
h.マルチメディア商標 [外国]
(multimedia mark)
音と映像の組み合わせで特定される商標で、欧州連合での導入は2017年10月からであり、欧州ではいくつかの登録例があります[2018年10月17日時点では5つの登録例があり、出願数は20です。]。日本では、出願方法として未だ設定されていない商標です。mp4のフォーマットによるファイルを提出するものとされています。映像分野、動画配信分野、ビデオゲーム分野での利用が期待されています。音商標と動き商標の同期した組み合わせになります。
EUTM 017451816
i.色彩のみからなる商標
(color per se mark)
色彩のみからなる商標は、図形等と色彩が結合したものではなく、輪郭のない(without delineated contours)色彩だけの商標です。輪郭のない色彩商標には、i)単一色の色彩(Single Color)と,ii)複数の色彩の組み合わせ(Color Combinations)の2種類があります。使用による識別性の獲得なしには識別標識としては認識されない場合があり、他の新しいタイプの商標に比べても登録が進んでいません。
j.地模様商標
(pattern mark)
商標が模様的に連続反復する図形等により構成されているため、単なる地模様として認識されることから、本質的な識別性を有していないとも考えられていますが、審査基準によれば、地模様と認識される場合であっても、その構成において特徴的な形態が見いだされる等の事情があれば、使用による顕著性(3条2項)があるものとして取り扱われます。日本や欧州連合商標の登録例では、バーバリーのチェック柄(EUTM 000377580)やルイヴィトンのエピの地模様やモノグラム(ETUM 000015602)の登録例があります。
k.匂い商標 [外国]
(scent mark or olfactory mark)
日本では、匂い商標の導入を見送られていますが、商標の定義が広い国では既に登録例(アメリカ合衆国、欧州連合、韓国、オースラリアなど)があります。匂いを特定するために使用する原材料の成分などを記載します。
オースラリアの匂い商標の登録例
Number 1241420
ENDORSEMENT ONLY, EUCALYPTUS SCENT
Registered/Protected Priority date 20 May 2008 (Lodgement)
Class 28 Golf tees
Kind Device, Scent
Owner E-Concierge Australia Pty Ltd (http://www.aromatee.com.au/)
Endorsements: The mark consists of a Eucalyptus Radiata scent for the goods.*
l.味商標 [外国]
(taste mark)
日本では、勿論、外国でも登録例は知られていないとされていますが、外国の商標法の制度では理論的には可能なところがあり、米国では最近ニューヨークのピザ屋が登録を試みましたが、未だ登録するほどの識別性がないということで、登録には至っておりません。日本では味は対象ではなく、まだ登録はないです。
n.触覚商標 [外国]
(touch mark or tactile mark)
触覚商標としては、米国にワインボトルの手触り感覚を商標としたものがあり、ファッションブランド(Louis Vuitton MalletierやDooney & Bourke)ではバックの手触り感を商標登録したものがあります。また、コロンビアは固く、皺が寄って、ひび割れたようなウイスキーのOld Parrのボトルに触覚商標を付与しています。
m.ジェスチャー商標 [外国]
(gesture mark)
ロックグループKISSのシモンズ氏がデビルホーンと呼ばれる指サインを米国特許商標庁に登録しようとし取り下げていたことが話題となりましたが、ジェスチャー商標は身振りや手振りなどの体の動作で表現することで他人との区別を識別させる商標ということになるかと思われます。現状としては、一般的な身振りなどを含まないなどの要件については未だ確立されていない商標です。
2.商標権とは
A.商標権の内容は標章と商品・役務の組み合わせ
登録商標とは登録された商標であり、その権利内容は、選択された文字や図形などの標章と指定商品・指定役務によって定められます。言い換えれば、商標登録はマークそのもの(標章)と選んだ商品・役務の組み合わせで構成されています。市場で流通する商品や現状行われている役務は下記の省令別表の第1類から第45類の各区分のどこかに記載されているものとされ、出願時には、全く斬新的でどこにも記載がない場合以外は、使用する予定の商品・役務を選んで記載します。一般的には、或る商標が登録されていても通常全部の商品・役務について権利が取得されている訳ではありません。他人の競合する先登録商標が存在する場合は、商品・役務の組み合わせで権利が取得されていない部分を探すことも行われています。商標出願は、一旦出願した後は、指定商品・指定役務の一部削除は補正により可能ですが、指定商品・指定役務の追加はできません。もし出願時に含めていなかった指定商品・指定役務を追加したい場合には、別出願にして登録を図ることになります。文字商標により法人の名前である商号や屋号も登録することができます。また、法人に限らず、例えば芸能人やスポーツ選手、文化人、芸術家などはその活動が役務となり、その個人名も商標登録可能です。
3.商標登録する場所は?
日本では、商標登録を行っているのは特許庁だけです。場所は東京都千代田区霞ヶ関3丁目4−3、電話:03-3581-1101になります。電子出願の際には、特許庁と特許事務所の間でインターネットを経由して“商標登録願”と言う書類を電子ファイル形式で送ります。このような電子ファイルの送信後、直ぐに特許庁からプルーフという形で出願の受領が電子ファイルで送信され、このときに商標登録出願の出願番号が与えられます。電子ファイルを送信するパソコン出願の代わりに、郵送や特許庁の窓口でも出願することもできます。郵送の場合には、受領証となる書類名と日付を記載した葉書を同封します。窓口での提出の場合には1枚目のコピーか書類名と日付を記載した帳面などに受領印を押してもらうことになると思います。郵送や窓口提出の場合には、出願番号は後日葉書により通知されます。ちなみに、電子出願を開始するためには、申請人の証明書となる電子証明書との入手とパソコンへのインターネット出願ソフトのダウンロードが必要で、特許庁に対して予納口座も準備することも必要となります。
4.出願から商標登録までの期間は?
商標登録願を作成して特許庁に提出した日が出願日となりますが、その出願日から7,8ヶ月から1年2ヶ月の期間、平均すると11か月から13か月の期間を経て審査官による審査が着手され、その審査の結果、商標登録すべきものだけが登録査定となります。即日利用可能となるドメイン名や、法務局への申請となる商号と同じように考えている方もいらっしゃいますが、商標に関しては年間16万前後の出願を1つ1つ審査していることから即日登録になることはありません。また、出願日から出願公開日までは、およそ3週間です。なお、一旦登録すると、分納するものを除いて商標登録には登録日から原則10年の存続期間が与えられます。
特許庁:商標審査着手状況(審査未着手案件)
理想は出願から半年程度はないかと思いますが、現状から速くなるとしても急には改善しないものと予想されます。
審査室 | 区分 | 審査着手までの期間 (2021.2.1) |
化学 | 1,2,3,4,5 | 11か月~13か月 |
食品 | 29,30,31,32,33 | 12か月~14か月 |
機械 | 6,7,8,9,10,11,12,13,19 | 11か月~13か月 |
雑貨繊維 | 14,15,16,17,18,20,21,22,23,24,25,26,27,28,34 | 8か月~10か月 |
産業役務 | 35,36,37,38,39,40 | 10か月~12か月 |
一般役務 | 41,42,43,44,45 | 11か月~13か月 |
国際商標登録出願 | 全部 | 12か月~14か月 |
特許庁、商標審査着手状況(審査未着手案件)より抜粋
5.商標登録の種類
商標登録の種類(kind or nature of trademark)としては、種々のタイプの商標があり、国や地域によって異なっています。
a.(通常の)商標
(trademark, or individual mark)
定義からは、人の知覚によつて認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるものであって、業として商品を生産し、証明し若しくは譲渡する者がその商品について使用するもの、又は業として役務を提供し若しくは証明する者がその役務について使用するものとなります。日本の商標法上、一般に商標という概念には、商品商標と役務商標の2つ含めています。
b. 役務商標
(service mark)
役務商標は、特に役務(”えきむ”と読みます。)について使用される商標であり、登録商標としては、指定役務35類から45類までの区分の1つ若しくは複数を選択した商標です。商標法上は、役務商標も商標の1つですが、役務商標に対して指定商品だけの商標を商品商標と称したりもします。
c. 団体商標
(collective mark)
団体商標は、事業者を構成員に有する団体が、その構成員に使用させるための商標です。平成9年より運用されており、商標権者は、社団(法人格を有しないもの及び会社を除く。)、特別の法律により設立された組合(またはこれらに相当する外国の法人)がなることができます。標章自体には特に制限はなく、周知性などの登録要件もありません。団体商標では、自己の商品または役務について使用する商標でなくても、商標登録を受けることができます。パリ条約では、同盟国に対して、団体商標の登録出願の受理および団体商標の保護を義務づけています(パリ条約7条の2)。[米国]特定の団体のメンバーシップを表示するものは、団体構成員商標(collective membership mark)と呼ばれます。また、[ドイツ]団体商標の登録要件として、商標であること、取引上の表示であることに加えて、地理的原産地表示であることが明示的に規定されています。
d. 地域団体商標
(regional collective mark)
地域団体商標登録制度とは、地名と商品名とを組み合わせた商標がより早い段階で登録を受けられるようにすることにより、地域ブランドの育成に資することを目的として、平成18年4月1日より導入された制度です。商標権者としては、1)特別の法律によって設立された法人格を有する組合であり、構成員となる資格を有する者の加入の自由が設立根拠法によって担保されているもの、2)商工会、3)商工会議所、4)特定非営利活動法人のいずれか、またはこれらに相当する外国の法人のみとされています(商標法7条の2第1項)。標章には自由度が低く、地域名と商品の普通名称若しくは慣用されている名称の組み合わせに限ります。また、登録には周知性が必要となります。同一地域における複数の周知の団体が、同一商標および同一指定商品について商標登録出願をした場合には、出願の順序が問われることなく、すべての団体の商標登録出願が拒絶されます。これはすべての団体の共有名義による1つの商標登録出願をすることが必要なためです。
地域団体商標として特許庁に登録されていることを示すマークとして”地域団体商標マーク”が2018年1月から設定されています。地域団体商標の登録を受けた団体事業者は、特許庁から使用許可をもらって地域団体商標であることの宣伝とその証明につかうことができます。
e. 防護標章
(defensive mark)
防護標章登録制度とは、登録商標が商標権者の業務に係る指定商品(役務)を表示するものとして需要者の間に広く認識されている場合において、他人がその商標をその指定商品(役務)と類似しない商品(役務)について使用すると当該商標権者の取扱う商品(役務)であるかのように出所の混同を生じさせるおそれのあるときは、商標権者に、その混同のおそれのある商品(役務)について、その登録商標と同一の標章についての防護標章登録を受けることを認め(第64条)、商標権の禁止的効力を上記非類似の商品(役務)にまで拡大することとした制度です。防護標章制度は、著名な商標を保護するため、非類似の商品・役務まで同一標章を他人名義では認めない制度ですので、まず、著名な登録商標を有していることが前提となります。防護標章登録をするためには、所定の防護標章登録願を特許庁に提出します。
f. 証明商標/証明標章[外国]
(certification mark or geographical certification mark)
証明商標 は日本にはない制度です。[米国]文字,名称,シンボル若しくは図形又はこれらの結合で,(1) その所有者以外の者により使用され,又は,(2) その所有者が,所有者以外の者が市場において使用することを許可する真正な意思を有し,本法に基づいて設けられた主登録簿への登録出願をするもの(米国)で,商品や役務の地域的その他の出所,材料,製造方法,品質,適性若しくは他の特徴を、又は商品・役務に係る作業又は労働がある連合体又は団体の構成員によりなされていることを証明するものを言います。また、[英国]証明商標は,当該商標が使用される商品又は役務についてその原産地,原材料,製造方法若しくは提供方法,品質その他の特徴が商標の所有者によって証明されていることを表示する商標(第50条)と定義されています。[中国] 証明商標は、特定の商品又は役務に対して監督能力を有する組織が管理しており、当該組織以外の事業単位又は個人がその商品又は役務について使用し、当該商品又は役務の原産地、原料、製造方法、品質又はその他の特定の品質を証明するための標章(第3条)と定義されています。
g. 保証商標[外国]
(guarantee mark)
保証商標は、他人の商品や役務を指定するために使用される標章であり、共通の品質、地理的起源、製品の製造法、他の商品や役務の特徴などを保証するための標章です。日本では、農林水産省が進める地理的表示(GI)に近いものがあります。
h. 連合商標[外国]
(association mark)
日本では、平成8年の改正により廃止となった制度であり、類似関係にある商標を連合商標としてつながっている関係におき、その分離移転を制限する制度でした。最近では、カナダやタイも連合商標制度を廃止しております。
i. 連続商標[外国]
(series mark)
英国、香港、インド、シンガポール、ニュージーランド、オーストラリアなどの国で認められている制度で、商標の同一性に影響を及ぼす重要な要素(識別力を発揮する要部)について互いに類似しているが、商標の同一性に実質的に影響を及ぼさない要素についてのみ異なる複数の商標を一出願で登録できる制度をいいます。複数の共通した要素を有する標章の出願を1つにまとめて出願できることになります。
6.商標の機能とは?
商標の本質的な機能は、自他商品識別機能ないし出所表示機能です。商標は、標章(マーク)を目印として自分や自社の商品と他人や他社の製品を識別するように機能します。例えば、店頭に同じ種類の商品が数多く並んでいた場合に、商標を目印として出所を把握することができます。この出所は必ずしも製造元の名前までを呼び起こすものではなくとも、他人や他社の商標と識別するのに用いられます。自他商品識別機能ないし出所表示機能に加えて、品質保証機能や宣伝広告機能を挙げる方もおりますが、これらは商標の使用に付随する機能に過ぎず、例えば、同じ商標を使っていてもリコールなどが発生することが実際はありますので商標自体には品質保証機能はありません。外国では、商標は”source designator”若しくは”source indicator”として機能するものとして認識されています。
7.なぜ商標を登録するのでしょうか?
A.そもそも商標登録しないで商品を販売してもいいのでしょうか?
答えは意外かもしれませんが、条件付きで、商標登録しないで商品を販売しても問題ありません。言い換えれば、商売をするのに商標登録は不可欠とは言われていますが、その条件さえ満たしていれば、わざわざ特許庁に出願書類を提出して半年後の登録査定を待つ必要性もなく、絶対必要という訳ではありません。しかしながら、ここで満たすべき条件は、他人の権利を侵害しないことなのです。従って、他人の権利を侵害しない限りは商標登録をせずに商売をすることは問題ないのですが、商売を守るべく商標登録をしておかないと、後から商売を始めた他人がその商標登録を横取りしてしまうことがあります。そんな時には、看板を取り換えて商標を違うものに代えれば侵害状態から抜け出すこともできますが、いままで贔屓にしていた顧客を失うことにもなります。下記に示すように先使用の抗弁も要件が厳しいものです。そこで、他人には商標権を与えないために商売には商標登録が必要という結論にたどり着きます。
B.出願や商標登録をしないでマークを使っている場合、そのマークを商標と呼んでも良いのでしょうか?
商品や役務(サービス)にマーク(標章)や呼び名をつけて販売したり、ウエブ上に広告を掲載することは、他人の権利を侵害しない限りは商標登録をせずに自由に行うことができ、出所を他人からかどうかを区別させる様に商品等に付けられた印や呼び名、マークなどは、登録の有無に拘わらず、商標となります。同様に、出願中かどうかも関係なく、出所を他人からかどうかを区別させる様に商品等に付けられた印や呼び名、マークなどは商標を構成します。ただ商標が登録されれば登録商標となり、商標が出願されれば、商標登録出願中という状態になります。
C.安全な業務遂行
例えば、車を買って乗る場合、もしものことを考えて通常損害保険に入ります。商標登録も同様で、商品を売り始めて、売れ始めたところで事故ってしまいましたという悲劇を防ぐための保険と考えていただければ分かり易いように思います。一般に、他人の商標登録によって自分の商標が使用できなくことが良くあり、商標登録出願をして登録査定が出れば、その範囲では他人の邪魔になるような権利はないとのお墨付が貰えたことになります。つまり、この先、安心して商標を使用できることになります。さらに商標登録すれば、商標権の効力範囲で他人の使用が禁止され、他人は紛らわしい商標を使用できなくなります。
D.先使用の主張には周知が必要
よく商標を先に使い始めれば登録しなくとも大丈夫と考えている方がいますが、それは正しくありません。先に使用していてそれが周知となった場合に初めて後から出願された登録商標に対抗できます。周知とは、簡単には県境を越えて知名度があるような場合です。言い換えると、周知となっていない未登録商標は、後から出願された他人の登録商標に負けてしまい、先に使用を開始していたとしても看板などの取替えを余儀なくされることになります。これは商売熱心で誠実さでお客様の高い信頼を得ている場合でも同じです。特許庁や裁判所にとっては商売の誠実さよりも商標登録が先かどうかが決め手となります。
E.商標登録の重要性
商標を長い目で見た場合には、商売やビジネスをする上で最も重要な知的財産になります。商標を登録することで取得される商標権は、特許権、著作権と並び、無体財産権である知的財産権の1つです。商標に人々の信用が蓄積されていない場合では、模倣を防ぐのは特許や意匠などの知的財産権になりますが、良い製品を市場に出し続けて業務の信用も高くなり、商標自体の市場での認知度があがってくれば商標登録という知的財産が業務に最も重要な役割を担うようになります。即ち、企業のブランドとして、業務上の信用や価値が年月とともに商標などの知的財産に集約されて行くことになり、その商標がついているだけで、通常よりは高い値段で売れたりします。
F.商標登録出願により生じた権利
特許や著作権と共に商標登録も知的財産権の1つになりますが、その中で商標だけが考えた時点や創作した時点に権利が発生するのではなく、出願によって”商標登録出願により生じた権利”を発生させます。商標登録出願により生じた権利は特許を受ける権利と同様な財産権の1つであり、商標登録出願により生じた権利は必要に応じて移転することもできます。商標登録出願により生じた権利は金銭的請求権(商標法13条の2)を発生させるものと規定されていて、商標登録出願人が商標登録出願をした後に当該出願に係る内容を記載した書面を提示して警告をしたときは、その警告後商標権の設定の登録前に当該出願に係る指定商品又は指定役務について当該出願に係る商標の使用をした者に対し、当該使用により生じた業務上の損失に相当する額の金銭の支払を請求することができます。商標登録出願により生じた権利は、商標権の設定の登録により消滅すると考えられており、商標登録出願が放棄され、取り下げられ、若しくは却下されたとき、商標登録出願について拒絶をすべき旨の査定若しくは審決が確定したとき、登録異議申立により取消決定が確定したとき、商標登録を無効にすべき旨の審決が確定したときについても、商標登録出願により生じた権利は消滅します。
8. 商号さえ登記しておけば安全でしょうか?
A.商標登録と商号登記
商号の登記では、同じ商号が認められないとされているのは同一の住所内のみです。何人も、不正の目的をもって、他の商人や他の会社であると誤認されるおそれのある名称又は商号を使用してはならないとされていますが、極端な話、不正競争の話を別にすると隣に同じような名前の新しい会社があっても登記が認められる可能性もあります。これに対し、商標権の効力範囲は日本全国に及びます。このため他人に取りたい商標を登録されてしまった場合では、ある程度の営業活動の停止に追い込まれる可能性も出てきてしまいます。一般に、会社の名前をそのままブランドとして商品やサービスに使う場合には、商号登記だけでは十分ではなく、使用する商品やサービスについての商標権を確保する必要があります。従いまして、会社の名前をブランドとして商品やサービスに使う場合には早い段階で、できれば他人が出願するよりも一足早く、株式会社○○や有限会社△△の○○や△△の部分を商標登録しておかれることをお勧めします。
9. 誰が商標登録できますが?
商標登録出願をする者(主体的要件)は、商標を使用する自然人若しくは法人になります。自然人はそれぞれの個人で、法人は法人格を有する会社等を指し、法人格のない任意団体は権利主体となることができません。外国の法人や自然人に対しては、一定の制限があり、わが国と相互主義の下権利享有が認められる国か、パリ条約、WTO、その他の2カ国条約などで権利享有が認められる国の国民に対しては商標登録出願をすることができる者となります。また、手続的能力の側面からは、未成年者の場合は、親権者が法定代理人となることで手続きをすることができ、この点は特許や意匠登録の出願と同じです。日本に住所、居所のない者、法人においては本店や営業所を有しない会社等は在外者と呼ばれていまして、この在外者は代理人などの商標管理者によらなければ手続をすることができないとされています。商標登録出願をする者が2人以上の場合は、それぞれ項目を設けて、その複数の出願人を願書に記載します。自然人と法人の組み合わせで出願して権利を取得することもできます。複数の出願人の間で持ち分が決まっている場合には、その持ち分を記載します。特許や意匠登録の場合には、発明者や意匠の創作者について願書に記載しますが、商標の場合には、ロゴなどのデザインをした人や会社があったとしても、創作者などを記載する欄はなく、造語の場合をその文字を考えた人も願書に記載されることはありません。すなわち願書には発明者や創作者について記載することはなく、商標権を取得する予定の出願人だけを記載します。また、マドリッド制度を利用する国際登録出願の場合には、その締約国の国民が本国に出願することが原則となっており、日本人が日本の商標登録を基礎に中国商標局に中国を本国として出願することはできず、日本の特許庁に国際登録出願することになります。
10. 商標登録するのに必要な情報は?
商標登録をするには、商標とその商標を使う商品やサービス(役務:えきむ、と言います。)を指定して特許庁に商標登録出願をします。現在はインターネットを経由した出願をしますので、HTML形式の願書に、JPEGなどの商標見本を貼り付けたり、或いは標準文字を記載したりして出願します。願書の記載事項について詳しくは、
- 商標登録出願人の氏名又は名称—自然人の場合は氏名ですが、法人の場合は名称で、登録された場合の権利者を記載します。稀に著作権の著作者のように、自然人とした方が死後何年も権利あるように考えている方もいますが、自然人の場合の商標権は相続などで移転しますので、著作権とは異なります。法人か個人かの選択の場合、経費処理の有無で考えることも有効です。
- 商標登録出願人の住所—必ずしも住民票や会社登記に記載された本社住所に限らず、居所で良いとされています。また、特許庁に出願書類を提出したことのある方は、識別番号が付与されていますので、識別番号を記載して住所の記載を省略することも可能です。
- 商標見本—JPEGなどの画像データや、標準文字を用いる場合はテキストデータを、HTML形式の願書にリンク付け若しくは書き込みします。また音商標の場合は、音のデータをCD-ROMに入れて提出することも行います。
- 指定商品・指定役務の区分—第何類をいくつか選択し、その類の具体的な商品、役務を列挙します。実務上は、省令別表の短冊の記載に沿って願書に記載することを行っていますが、例えば、前例のない画期的な商品の場合や、4条1項16号の拒絶理由が予想される場合などでは、さらに具体的な商品や役務を記載することも可能です。また、1つの区分内で23個*以上の類似群コードに亘る商品・役務を指定している場合には、使用意志の確認が行われますので、拒絶理由を予め回避するために22個以下の類似群コードに亘る商品・役務にしておくことも有効です。(*新しい類似群のカウント方式での計算)
- 新しいタイプの商標の出願の際には、出願する商標のタイプに合わせて、【動き商標】、【ホログラム商標】、【色彩のみからなる商標】、【音商標】又は【位置商標】の項目を記載し、商標登録を受けようとする商標を特定するように、【商標の詳細な説明】の欄を設けて商標の詳細な説明を記載します。音商標の場合は、商標の詳細な説明の記載は任意となります。
- 優先権主張の場合には、基礎となる出願の出願国と出願番号と出願日を記載します。
- 商標登録出願には、特許庁に提出する際に、出願料(いわゆる印紙代)がかかります。出願料は、区分数に応じて増加するようになっており、3,400円+(区分数×8,600円)で計算されますので、1区分の商標出願の場合は、12,000円となります。また、代理人による場合には、代理人の手数料もかかります。商標登録出願は全件審査されることになっておりまして、特許のような審査請求は不要です。
願書を紙で書いて郵送したり、或いは特許庁の窓口に提出しても出願可能ですが、電子化手数料が余計にかかることになります。電子化手数料については、紙での書類提出後、1か月ぐらい後に金融機関の振り込み用紙が送られてきます。なお、紙出願の場合に、願書に貼付する印紙は特許印紙(全国の大きな郵便局で購入可能)で、収入印紙ではありません。特許印紙に割印は不要です。
11. 商標登録出願手続の流れ
商標登録出願から商標登録までの手続の流れは以下のようになります。
商標登録出願をした場合に、電子出願では出願番号は即座に付与されますが、方式審査を経て、出願公開までは2、3週間程度かかります。出願から5~7か月前後で実体審査が行われ、審査で何も問題がなければ登録査定が出されます。登録査定が出された出願に対して30日以内に登録料を納付すると商標登録されることになります。なお、審査を急ぐ事情のある方は、請求により早期審査をすることも可能です。審査で登録要件を満たさないと判断された場合には拒絶理由通知が出され、出願人が意見書や補正書で対応することで登録査定に導くことができます。
商標出願に対する補正ではできないことが主に2つあります。補正ではできないことの1つは商標見本の変更です。商標自体を変えることは審査のやり直しになるので、原則認められません。補正ではできないことのもう1つは指定商品・指定役務の追加です。指定商品・指定役務を追加しない範囲での変更や減縮は可能ですが、指定商品・指定役務の追加はできないことになっています。なお、指定商品・指定役務の類が正しくない場合には、正しい区分に補正できます。この場合に区分数が増加した場合は、増額分を払うことになります。
もし拒絶理由を覆すことができなかった場合には、拒絶査定が送達されます。拒絶査定に不服の出願人は拒絶査定不服審判を請求することができます。一方、登録された後では、電子的なWebsiteへの掲載により商標公報が発行され、2か月の異議申立期間となります。何人も異議申立理由により登録に納得いかない人は、商標登録異議申立をすることができます。商標公報の発行と平行して、商標権者には登録証が送付されます。登録証には、商標登録の登録日が記載されています。この登録日が更新期間の起算日になりますので、しっかりと記録することが必要です。登録日は公報を見ることでも知ることができます。一般に、10年の存続期間が与えられますので、登録日から10年後の6か月前から更新可能となります。登録料の納付の際に、分納を選択すると5年ごとの2回とすることができ、5年目で不要となれば後期分納分を納めないという選択もあります。
12. 商標登録出願をする前にすべきことは?
A.他人の商標登録や商標登録出願を確認
商標登録出願をしても先に同じような商標が登録されていると審査で出願が拒絶されることになります。そこで、一般的には出願前に先の登録商標の有無や先の商標登録出願の有無などを検索する商標調査を行います。実際に、調査をしないで出願をする場合と、調査をした場合とでは、先登録の商標を引用される確率が明らかに違います。検索結果によって、一部の商品を削除すれば良い場合や、そもそも他の登録要件が審査で指摘される可能性がある場合もあります。、
B.商標調査によって抵触しそうな商標を検索
特許庁のWebsite、J-Platpatでは無料の商標検索が可能です。出願前の商標調査にはちょっとしたコツ(区分の選択や類似群コードなど)がありますが、それほど複雑な調査ではないので、誰でも簡単に商標調査は可能です。また、国内の商標登録だけではなく外国の商標登録もその多くを無料の商標データベースの中の幾つかのデータベースを使用して検索することができます。商標出願は、特許庁に出願されても直ぐに公開されるものではなく、出願公開までは2、3週間程度かかります。従いまして、先週出願した商標や、昨日出願した他人の商標は検索しても見つからないことになり、調査にはこのようなブラックアウト期間が必ずあります。障害となるような先行商標が見つからない場合でも、調査結果に絶対はないことになります。
13. 商標登録出願しても登録にならない商標とは?
初めて商標登録をしようとする場合に特に重要です。
A.普通に用いられている商標
既に他人によって登録されている商標と同一又は類似の商標については指定商品・指定役務同士が競合する範囲では原則として登録できないものとなっています(商標法第4条第1項第11号)。また、商品の普通名称そのものや、その商品の材料名や性質、機能、効能、産地、用途などを表すにすぎない商標は、出願しても登録にならない商標とされています(商標法第3条第1項)。例えば、普通名称そのものとは、”指定商品:コーヒー”について“珈琲”、”指定商品:ビール”について“ビール”のような場合です。
B.登録にならない商標
登録にならない商標としては、例えば“指定商品:コーヒー”について“炭焼き”、“指定商品:清酒”について“寒造り”、“指定役務:洗濯”について“ドライクリーニング”、“指定商品:ラジオ”について“ポケット”などです。”スーパー” ”よく効く”の如き形容詞だけの商標も登録にならないものと思います。また、その商品の材料名や性質、効能などと普通名称を組合わせただけの商標も登録にならない可能性が大です。例えば“指定商品:コーヒー”について“炭焼きコーヒー”、“指定商品:ラジオ”について“ポケットラジオ”などがその例となります。但し、以上は原則であり、メディアでの宣伝などを通じて商標登録される可能性もあります。
C.商標登録が困難とされる例
指定商品(役務) | 商標 |
コーヒー | 炭焼き |
清酒 | 寒造り |
ラジオ | ポケット |
洗濯 | ドライクリーニング |
D.公共の機関の標章と紛らわしい等公益性に反する商標
外国、国際機関の紋章、標章等であって経済産業大臣が指定するもの等(商標法第4条第1項2~5号)国、地方公共団体等を表示する著名な標章(商標法第4条第1項第6号)、公の秩序、善良な風俗を害するおそれがある商標(商標法第4条第1項第7号)、商品の品質又は役務の質の誤認を生じさせるおそれのある商標(商標法第4条第1項第16号)の規定があり、これらに該当する商標は登録することができません。商品の品質又は役務の質の誤認を生じさせるおそれのある商標とは、例えば、指定商品:ヨーグルトに”〇〇バター”のようなバターかなと勘違いするように商標を登録することはできません。
E.他人の登録商標又は周知・著名商標等と紛らわしい商標
他人の登録商標と同一又は類似の商標であって、指定商品・役務と同一又は類似の商標(商標法第4条第1項第11号)は、登録することができません。先の登録商標と競合するような商標の出願には、拒絶理由が通知されます。また、 他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれのある商標(商標法第4条第1項第15号)も、登録することができません。著名商標が非類似の指定商品・指定役務でも混同生ずるおそれがある場合に、その登録を阻止するように機能する規定です。
なお、特許庁のサイトにはどのような商標が登録にならないのか についての詳しい解説があります。
F.例外—使用による特別顕著性を獲得した商標
先のA~Cの例では、普通名称や商品の材料、材質、機能などを記載しただけの商標は登録が難しいと説明しましたが、実は例外もあります。それは使用により特別顕著性を獲得した商標は、自分と他人の商標を区別することができるため、商品の材料名や性質、効能などと普通名称を組合わせただけの商標やありふれた人名だけの商標でも登録される可能性があります。例えば、TOYOTAやHONDAは、その黎明期では小さな会社で町工場であった(勝手に想像していますが)筈で、その規模も単なる創業者の名前を冠した商号に過ぎない程度でまだ一般の人々の認知度が低い段階では、特許庁としてはそんな人名に由来する商号に商標権を与えて特定の者には独占させないという拒絶理由も考えられます。しかし、業務上の信用を大切にしながら長年業務を行うことで、今日では多くのメディア露出や宣伝広告により、TOYOTAやHONDAは単なる人名ではなく大きな自動車会社の社名であることが日本人であれば殆どの人が認識するまでに至っています。使用による顕著性は英語ではsecondary meaning(2次的意味合い)やacquired distinctiveness(獲得した識別性)とも呼ばれていて、商標法では該当する条文は第3条第2項になります。使用による顕著性の獲得は、結局のところ程度問題ですので、時間や広告量、一般への情報量などが影響し、実際例えば拒絶理由がありふれた商品の機能を示すにすぎないというような場合でも、そのようなメディア露出や宣伝広告の情報についての資料を提出して識別力が商標には備わっている旨の反論することになります。
14. 商標登録出願はいつまでに?
A.商標登録出願の期限?
商標登録出願をいつまでに出願しなさいという規定はありません。起業する際や起業前に、出願しておくことも可能ですし、十分に経済的な基盤ができた後や、商品がたくさん売れた後で出願することも可能です。しかし商標でトラブルが起こるのは、大部分の場合、十分な調査をしていなかった場合や出願するのをためらっていて他人に似たようなものを先に取られてしまったと言う場合で、出願が他人よりも遅れた場合は手の打ち様が無いのが現実です。こちらも先に出願しておけば良かったのにとは言えずにお気の毒ですがマークの変更が良いのではというアドバイス?を提供させて頂くときもあります。このあたりが先願主義(先に出願した者に権利が付与される。)の厳しいところかと思います。
B.最良のタイミング
例えば飲食店やレストランの名称についての商標を出願しようと思っている場合に、どの段階での出願が良いかと言うと、呼び名(名称)を決めて、それをデザイナーがデザイン化すると言う作業がある場合では、呼び名(名称)を決めた時や名称の選択時で調査や出願をするのが法的には有利となります。これは先に出願した方に権利が与えられる点と、デザイン化されたマークもその呼び名が読める状態である限り、審査がその呼び名で主に判断される点から、デザイン化の期間だけ出願を遅らせるのは得策ではないと思われるからです。端的に言うと呼び名が決まったら、ロゴにするのを待たずにその呼び名(文字)について直ぐに調査、出願を進めるのが良いと思います。
15. パッケージごとの商標登録は可能ですか?
商品名が普通名称に近い場合(例えば、最中に”最中”)では、名称部分だけでは拒絶される可能性が高いため、その商標を包装するパッケージの外装デザインごと出願するという実務があります。パッケージの一部に屋号や社名があれば、その屋号や社名などが幾分小さく且つ商品名自体には特別識別力がなくともパッケージ全体としては自他商品を識別できるため登録可能性を高めることが可能です。材料名や製法などをそのまま商品名にした場合に、取られる登録方法です。
16. キャラクターも商標登録できますか?
A.キャラクターと著作権
一般にキャラクターは、著作権で保護されますが、商標登録出願によって商標法上の保護を受けることも可能です。例えば、アニメーションの登場人物などのキャラクターは、それぞれ多様に商品展開され、お菓子や文具、日用品などのさまざまな商品にデザインとして付与され、その商品の販売促進に寄与します。著作権は創作によって発生し、登録や審査はありません。すなわち、誰が創作者なのかは創作の時期や、侵害品の似ている度合いなどで決められて行くもので、画一的な判断にはならないのが現状です。
B.キャラクターと商標権
これに対して商標は、商標権を有する者が何時出願したかが分かるようになっていて、権利としては行使し易く、ライセンスも明確です。これらの点を踏まえ、有力なキャラクターは例外なく種々の商品について商標権の確立を図っており、多区分なため費用もかさみますがライセンス料で稼げるからと思います。また、他人に出願されると困ると言う防衛的な意味もあります。著作権は創作者の死後50年という制限がありますが、商標登録は更新することで永久的に権利を保持できるという利点があります。
17. キャッチフレーズやスローガンも商標登録できますか?
A.商標審査基準改定
特許庁は長年キャッチフレーズ、キャッチコピーやスローガンについて企業名が入った場合に、例外的に商標登録を認め、原則は商標登録を認めない方針でしたが、平成28年4月からはキャッチフレーズ、キャッチコピーやスローガンについての審査基準を大きく変更しております。今回の45年ぶりの商標基準改定により、スローガン等がその商品若しくは役務の宣伝広告又は企業理念・経営方針等としてのみならず、造語等としても認識できる場合には拒絶理由にはならなくなります。また、スローガン等が、その商品又は役務の宣伝広告としてのみ認識されるか否か、或いは企業理念・経営方針等としてのみ認識されるか否かが商標登録と拒絶の分かれ目になります。これらは全体から生じる観念と指定商品又は指定役務との関連性、指定商品又は指定役務の取引の実情、商標の構成及び態様等を総合的に勘案して判断されます。そのスローガン等が自他商品の識別力を発揮できるのかが重要ですが、スローガン等が第三者が出願商標と同一又は類似の語句を企業理念・経営方針等を表すものとして使用していないことも参酌されます。
B.スローガンの商標登録例
18. 商標調査・商標登録出願の費用や申し込みは?
A.特許事務所
商標の調査や出願は、専門的なことから一般に外部に依頼することが多く行われていて、その依頼先は通常、弁理士が業務を行っている特許事務所となります。宣伝になりますが、当ページを提供する 有明国際特許事務所も日本弁理士会に登録された特許事務所の1つです。商標調査・商標登録出願の費用についてのお尋ねやお申し込みについては、お問い合わせ のページから可能です。また、出願時には、商標登録出願料(印紙代)という特許庁に納める金額も必要です。
19. 自分で商標登録出願した場合の注意すべき点
A.本人出願
本人でも商標登録出願できますか?とのご質問も良くいただきます。答えとしては、ご自分で出願した方が費用も安く済むという利点はありますが、出願してもおよそ40%は拒絶理由を通知され、意見書の提出なしでは権利化できないというデータがあり、専門家でない方が自分で出願した場合はおそらく半分以上は拒絶理由が通知されるものと思います。拒絶理由に対する応答には、通常40日の期限が切られていますので、意見書の提出は専門家以外や商標の取り扱いがない方が準備するには余り時間の猶予はないと思われます。相対的な理由の場合は相手との交渉が必要になることがありますが、慣れた方を除き交渉して覚書や契約まで持ち込むのは専門家の仕事と思います。後からファイルの履歴を見ると、弁理士に頼めばたぶん権利がとれただろうという例も散見します。
B.商標権は出願時だけではない
また商標権をとれば他人は侵害してこないという保障もありません。商標権の権利を行使するためには専門的な知識が必要とされ、そのためには弁理士・弁護士などの専門家にできれば出願前から相談する状況にしておくことが重要と思います。警告状や他人の無断使用をやめさせると言うような差止請求や損害賠償、さらにはライセンシングなど商標権の活用には駆け引きの要素があり、時には取消や異議申立などの攻撃的な手段も必要な場合があります。商標権は長期に亘り保護されますが、途中で法律も改正されることがあり、弁理士などの専門家への相談がブランドの確立には不可欠です。
C.代理人なしは狙われることも
無事に商標を登録できた後で、特に国際出願の場合には、世界中のあらゆるところから偽の請求書が手紙などの形式で届くことがあります。手紙は商標出願や商標登録を公開したりデータベースに載せるので、所定の口座に送金して下さいというような内容で、既存の政府機関と似たようなマークをレターヘッドに載せたりしています。これらは全く意味のない請求書ですが、専門家でない方には見破るのが容易ではなく、多分詐欺と気づかずに払ってしまっていることも考えられます。払ったところで損金以外に直接損害が生ずるものでもないと思いますが、代理人なしは狙われることもありますので、注意が必要です。
関連ページ:商標登録とは–登録された商標の権利やその内容について詳しく説明しています。
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