特許庁審査官等から受けた拒絶理由通知等に対し、反論した「意見書、審判請求書」の具体例を小川特許商標事務所のサイトから転載しております。
本願商標:「グランドロースト/GRAND ROAST(審判)
1.出願番号 商願2006-23915(不服2007-2812)
2.商 標 「グランドロースト/GRAND ROAST」
3.商品区分 第30類 茶,コーヒー及びココア
4.適用条文 商標法第3条第1項第3号
5.拒絶理由 本願商標は、「グランドロースト」「GRAND ROAST」の文字を上下二段に書してなるところ、その構成中「GRAND」「グランド」の文字は、「見事な,一流の」ほどの意味を表す英語とその表音であると認められ、また、「ROAST」「ロースト」の文字は、「コーヒー豆などを煎ること」の意味を表す英語及びその表音で有ると認められるので、これを本願指定商品に使用しても、全体として「見事に煎られた商品」ほどを認識させるにすぎず、商品の品質の誇称表示と認められる。
不服審判における反論(請求の理由)拒絶理由通知
【手続の経緯】
出 願 平成18年 3月16日
拒絶理由の通知 平成18年10月20日
同 発送日 平成18年10月24日
意 見 書 平成18年11月15日
拒 絶 査 定 平成19年 1月11日
同 謄本送達 平成19年 1月15日
【拒絶査定の要点】
拒絶査定の理由は、『この商標登録出願は、平成18年10月20日付けで通知した理由によって、拒絶をすべきものと認めます。なお、出願人は意見書において、本願商標は、特定の意味合いを持たない一種の造語であり、品質の誇称表示として取り扱われている事実もない旨主張しています。しかしながら、本願商標は「グランドロ-スト」「GRANDROAST」の文字を上下2段に書してなるところ、その構成中「GRAND」「グランド」の文字は「見事な」ほどの意味合いを表す英語とその表音であり、品質等を誇称して表す際に一般的に使用されているものとして認められます。また、「ROAST」「ロースト」の文字は、「コーヒー豆などを煎ること」の意味を表す英語とその表音であると認められますので、これを本願指定商品に使用しても、全体としても「見事に煎られた商品」であるほどを認識させるにすぎないとみるのが相当です。したがって、さきの認定を覆すことはできません。なお、出願人は過去の登録例を挙げて本願商標は登録されるべきである旨主張していますが、いずれも本件と事案を異にしますので、その主張は採用できません(商標法第3条第1項第3号に該当)。』というものであります。
【本願商標が登録されるべき理由】
然るに、本出願人は、先の意見書において、本願商標「グランドロ-スト/GRANDROAST」は、単に「見事に煎られた商品」であることを認識させるのではなく、十分に識別力を備え、識別標識として機能する商標である旨説明したにも拘わらず、今般拒絶査定をされたことに対しては納得できないところがあり、ここに審判を請求し再度の御審理を願う次第であります。
(a)本願商標の構成
本願商標は、「グランドロースト」及び「GRAND ROAST」の文字を上下二段に書してなり、第30類「茶,コーヒー及びココア」を指定商品とするものであります。
(b)審査官の認定に対する反論
(b-1)
然るに、本願商標は、なるほど構成中の「GRAND」「グランド」の文字部分から「見事な、一流の」ほどの意味合いを、また「ROAST」「ロースト」の文字部分から「コーヒー豆などを煎ること」ほどの意味合いを、それぞれ生じさせるのかもしれません。そして、全体として「見事に煎られた商品」というような意味合いを暗示させるのかもしれません。
しかしながら、「見事に煎られた商品」とは、具体的には、一体如何なる煎り具合(品質)の商品を指すのでしょうか。見事に煎られたと言われても、どう見事なのか不明であります。審査官は、「GRAND」「グランド」の文字は、品質等を誇称して表す際に一般的に使用されているとしておりますが、それによって、具体的には、「コーヒー」のどのような品質を表示すると言うのでしょうか。漠然としていて具体的に定まるものではありません。
焙煎は、収穫した生豆を火力により焼き上げることであり、焙煎の種類には、煎り具合に応じて「ミディアムロースト」、「ハイロースト」、「シティロースト」、「フルシティロースト」、「フレンチロースト」、「イタリアンロースト」等あることは、先の意見書でも述べましたが、「焙煎は見事な煎り具合でお願いします」とか、「焙煎はグランドローストでお願いします」とか言われて、焙煎者はどう煎ってよいのか分かるものでしょうか。分かるはずはないと思います。だとすれば、「グランドロースト\GRAND ROAST」は特定の具体的品質内容を表示するものではありません。
(b-2)
そして、本願の指定商品を取り扱う業界においても、「グランドロースト」及び「GRAND ROAST」の文字が、商品の品質を表すものとして取引上、普通に使用されている事実はありません。「グランドロースト\GRAND ROAST」という焙煎の種類もありません。
このように、本願商標の「グランドロースト\GRAND ROAST」は、見事に煎られた商品ほどの意味合いを暗示するとしても、本願指定商品「コーヒー等」の品質を具体的に表示し得ないものであり、特定の意味合いを持たない一種の造語商標であります。そして、これが取引市場において品質の表示又は品質の誇称表示として取り扱われている事実もありませんので、十分に識別標識として機能するはずであります。
(b-3)
繰り返しますが、本出願人は、「グランドロ-スト/GRANDROAST」が「見事に煎られた商品」を間接的に表示する文字であることを否定するものではありません。しかし、そのことが直ちに、本願商標が、品質・内容表示にすぎない(即ち、品質を普通に用いられる方法で表示する標章にすぎない)と言うことにはならないと考えます。商標法第3条第1項第3号の商標審査基準にも、『指定商品の「品質」、「効能」、「用途」等又は指定役務の「質」、「効能」、「用途」等を間接的に表示する商標は、本号の規定に該当しないものとする。』と明確にうたっています。この審査基準に照らし合わせてみても、今般の審査官の認定には承服することができません。
(b-4)
ところで、過去の商標登録例をみますと、本願商標と似たような構成の仕方から成る(A)商標「グランドブレンド」がユーシーシー上島珈琲株式会社(UCC)により第1133962号として商標登録されております(指定商品:茶、コーヒー、ココア等、昭和50年7月17日登録)(第1号証)。
この点に関し、審査官は、本願に対する今般の拒絶査定の中で、「出願人は過去の登録例を挙げて本願商標は登録されるべきである旨主張していますが、いずれも本件と事案を異にしますので、その主張は採用できません。」というようなことを述べています。しかし、この審査官のような解釈をすれば、このUCCの「グランドブレンド」などは「見事にブレンドされた商品」を意味する品質表示と言うことで、拒絶されてしかるべきということになるはずですが、現実にはそうなっておりません。
然るに、このUCCの「グランドブレンド」が登録できて、本願の「グランドロースト\GRAND ROAST」が登録できないとされる謂われは全くありません。「グランドブレンド」も「GRAND BLEND」の表音であることは明らかで「見事にブレンドされた商品」を暗示させますが、識別力があるとして商標登録されております。事案を異にするということで、画一的に片付けられる問題ではありません。過去の審査に束縛されることはないとしても、それなりの審査を経て登録されて来ているわけですので、「グランドブレンド」が登録されている事実を全く無視するのも如何かと思います。この「見事にブレンドされた商品」を暗示させる「グランドブレンド」が登録できるのであれば、本願の「見事に煎られた商品」を暗示させる「グランドロースト\GRAND ROAST」が登録できて何の不思議もないはずです。
(b-5)
また、過去の商標登録例をみると、(B)明治製菓株式会社の商標「トラディショナルロースト」が登録第4880779号として商標登録されている事実が発見できます(指定商品:茶,コーヒー及びココア等、平成16年9月16日出願、平成17年7月15日登録)(第2号証)。そして、この商標が存在するにも拘わらず、その後願に係る(C)サントリー株式会社の商標「Traditional/トラディショナル」が登録第4972168号として商標登録されております(指定商品:茶,コーヒー及びココア等、平成17年12月7日出願、平成18年7月21日登録)(第3号証)。
この(B)(C)の併存関係から言えることは、
(i)伝統的な方法で焙煎した商品を暗示する(B)の「トラディショナルロースト」も、伝統的な商品を暗示する(C)の「Traditional/トラディショナル」も、品質表示ではないと理解されており、また、
(ii)双方とも、全体として一定の識別力を有すると理解されており、更には(iii)「トラディショナルロースト」は本願と同じく二語を連結した商標でありますが、前後分離できない一連一体の造語商標であると理解されている、ということであります。
然るに、本願の「グランドロースト\GRAND ROAST」(「見事に煎られた商品」を暗示)とて、この「トラディショナルロースト」(「伝統的な方法で煎られた商品」を暗示)と同様のことであります。前後分離することのできない一連一体の造語商標であり、全体を一つのものとして把握し、称呼すべき性質の自他商品識別標識であります。決して審査官の言うような品質表示ではありません。
【むすび】
以上の次第でありますので、本願商標は商品の品質を普通に用いられる方法で表示する商標ではなく、自他商品識別力を有していて登録適格性を備えたものであり、商標法第3条第1項第3号には該当するものではないと考えます。
よって、原査定を取り消す、本願の商標は登録をすべきものであるとの審決を求める次第であります。
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(参考)ケース86の「審決」
商願2006- 23915拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。
結 論
原査定を取り消す。
本願商標は、登録すべきものとする。
理 由
1 本願商標
本願商標は、「グランドロースト」及び「GRAND ROAST」の文字を二段書きしてなり、第30類「茶,コーヒー及びココア」を指定商品として、平成18年3月16日に登録出願されたものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定は、「本願商標は、「グランドロースト」「GRAND ROAST」の文字を上下二段に書してなるところ、その構成中「GRAND」「グランド」の文字は、「見事な,一流の」ほどの意味を表す英語とその表音であると認められ、また、「ROAST」「ロースト」の文字は、「コーヒー豆などを煎ること」の意味を表す英語及びその表音で有ると認められるので、これを本願指定商品に使用しても、全体として「見事に煎られた商品」ほどを認識させるにすぎず、商品の品質の誇称表示と認められる。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。」旨認定、判断し本願を拒絶したものである。
3 当審の判断
本願商標は、前記のとおり「グランドロースト」及び「GRAND ROAST」の文字を書してなるところ、全体の文字より、原審説示の意味合いを認識するものとはいい難いものである。そして、本願商標の指定商品を取り扱うこの種業界において、本願商標を構成する前記文字が原審説示のような商品の品質又は品質の誇称を表示するものとして、取引上普通一般に使用されている事実を発見することもできない。そうしてみると、本願商標は、その指定商品の具体的な品質を表示するものとはいえないものである。
したがって、本願商標が商標法第3条第1項第3号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、妥当なものとはいえず、取消しを免れない。その他、政令で定める期間内に本願について拒絶の理由を発見しない。よって、結論のとおり審決する。
平成19年11月14日
審判長 特許庁審判官 山口 烈
特許庁審判官 寺光 幸子
特許庁審判官 小田 明
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