特許庁審査官等から受けた拒絶理由通知等に対し、反論した「意見書、審判請求書」の具体例を小川特許商標事務所のサイト から転載しております。
本願商標:「マルチファイル」
1.出願番号 平成6年商標登録願第15441号(拒絶査定に対する審判事件/ 審判8-5722)
2.商 標 「マルチファイル」
3.商品区分 第20類:フロッピーディスク収納ケース,ロム収納ケース,その他の家具,木製・竹製又はプラスチック製の包装用容器
4.適用条文 商標法第3条第1項第3号
5.拒絶理由 「マルチファイル」は単に商品の品質用途を表示するにすぎない。
出願商標 |
審判における反論(請求の理由)意見書、拒絶理由通知
(1)手続の経緯
出願 平成 6年 2月21日
住所(居所)変更届 平成 6年 4月13日
物件提出命令書 平成 6年11月18日
物件提出書 平成 6年12月 1日
拒絶理由の通知 平成 7年12月 1日(起案:平成7年11月10日)
意見書 平成 8年 1月 5日
拒絶査定 平成 8年 3月14日
同謄本送達 平成 8年 4月12日
(2)拒絶査定の理由の要点
原査定の拒絶理由は、「本願は、平成7年11月10日付けで通知した理由によって、拒絶をすべきものと認める。おって出願人は意見書において種々述べているが、本願商標中「マルチ」の語は商品の多様性の意で又、「ファイル」の語は整理して保存するの意で、広く一般に親しまれているばかりでなく、キャビネット類、FD収納ケース等においても同様の意として用いられているから、このような語を連続して書しても「多様に整理して保存ができること」を示したにすぎない。よって先の認定を覆すことはできない。それ故、本願は、商標法第3条第1項第3号に該当し、同法第15条の規定に基づき、拒絶する。」というものである。
(3)本願商標が登録されるべき理由
しかしながら、本願商標は、決して「多様に整理して保存ができること」を表す品質用途表示として普通に用いられている態様のものではなく、十分に識別力を有する商標であって、商標法第3条第1項第3号に該当せず、登録適格なものと思料する。
(3-1)本願商標の構成
本願商標は、カタカナ文字で、一連に「マルチファイル」と横書きした態様である。
(3-2)審査官の認定に対する反論
審査官が指摘するように、本願商標は、なる程、「多様性」の意を持つ「マルチ」の文字と、「整理して保存する」の意で、広く一般に親しまれ、キャビネット類、FD収納ケース等においても同様の意として用いられている「ファイル」の文字を一連に書して「マルチファイル」と表記してなるものであることは事実である。
しかしながら、本願商標の「マルチファイル」は、本願指定商品との関係において、一般的に通用し確立された意味を有する言葉とはなっていない。例えば、研究社の「新英和辞典」(第1号証)を紐解いても、「multifile」という単語は存在していない。
また、各社の販売商品及び商品カタログ類をみても、「マルチファイル」の言葉は存在していないし、取引市場において通用しているということもない。
それ故、審査官の指摘は、当を得たものということはできない。つまり、一連に書した本願商標「マルチファイル」は「多様に整理して保存ができること」を表す品質用途表示として普通に用いられている事実はないし、ましてそのような意味として、広く一般に親しまれている事実はない。
第2号証乃至第8号証は、1995年ビジネスショーにおける主要各社(sedia セキセイ(株),ぺんてる(株),(株)キングジム,スライデックス(株),(株)LIHIT LAB.)のカタログ類の写しであるが、これらを見てもわかるように、この種の商品を表す言葉としては、「フロッピーディスクファイル」、「FDファイル」、「フロッピーディスクホルダー」,「フォロッピーディスクバインダー」,「FDホルダー」,「MOホルダー」,「FDバインダー」,「MOバインダー」などが一般的であって、決して、「マルチファイル」の言葉は用いられていない。
それ故、この「マルチファイル」はあくまで特定の観念を有しない造語と理解すべきであって、上記した商品群と共に使用された場合であっても、十分に識別性を発揮するものと思料する。つまり、この「マルチファイル」は、その構成各文字の意味からして商品の品質用途等を間接的に表示することはあっても、直接的に「多様に整理保存する(できる)」といった意味あいを生ずる言葉として確立されている訳ではないし、まして、商品の品質用途表示として確立されている言葉でもない。
商標法第3条第1項第3号では、「その商品の…品質、…用途、…を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」を拒絶することとしているが、「マルチファイル」は「多様に整理保存する(できる)」といった意味で普通に用いられている訳ではないから(*但し、間接的に観念させるかもしれないが)、一連一体に書した「マルチファイル」は十分に識別標識として機能し得る商標であり、商標法第3条第1項第3号の要件には該当しないと考える。
(3-3)過去の商標登録/公告例
このことは、過去の商標登録/公告例を見ても言い得ることである。即ち、まず、本願商標と同一の
(a)「マルチファイル」は、過去において、商標登録第1095464号(商公昭48-49056号)(第9号証)として登録された経緯があり、これはその後の更新手続きを採らずに消滅したものの、10年間識別標識たる商標として登録され機能していたことは、厳然たる事実である。
審査官においては、商標の識別力は時代の変遷により変わり得るものであるとの認識があって、過去に「マルチファイル」の登録例があるにも拘らず、この度のような品質用途表示であるとの判断をされたのであろうが、果たしてその認識が正しかったのかは、はなはだ疑問である。
本審判請求人は、むしろ次の登録例や公告例を見る限りこの間にそれほどの変遷があったとは思われず、審査官の判断は法の適用を誤ったものであると考えざるを得ない。
つまり、昭和60年代以降最近に至るまで、審査官指摘の如くに構成各文字を分析すれば「マルチファイル」と同様の意味合いを有するであろう商標が以下の如く多数存在するが、これらの商標は拒絶されることなく、登録され又は出願公告されているのである。即ち、
(b)「マルチワーク」(登録第1858931号、商公昭60-62967号)(第10号証)
…これなどは審査官指摘の如くに解釈すれば、「多様な働きを有する」程度の意味ということになるのであろうが、現実には登録されている。
(c)「マルチサイド」(登録第1923201号、商公昭61-37508号)(第11号証)
…これなども審査官指摘の如くに解釈すれば、「多様な側面(収納)を有する」程度の意味ということになるのであろうが、登録されている。
(d)「マルチスペース/MULTISPACE」(登録第1997184号、商公昭62-27530号)
(第12号証)…これなども審査官指摘の如くに解釈すれば、「多様な空間、余地を有する」程度の意味ということになるのであろうが、登録されている。
(e)「MultiBinder」(商公平6-20751号)(第13号証)…これなども審 査官指摘の如くに解釈すれば、「多様に綴じ込みできる」程度の意味ということに なるのであろうが、公告されている。
(f)「マルチバインダー」(商公平6-20752号)(第14号証)…同じく、「多様に綴 じ込みできる」程度の意味ということになるのであろうが、公告されている。
(g)「MOFILE」(商公平7-54242号)(第15号証)…これなども審査官
指摘の如くに解釈すれば、「MO(Optical Memory=光磁気ディスク)を整理保存する」程度の意味ということになるのであろうが、公告されている。
このように、審査官指摘の如くに商標の意味合いを解釈すれば、登録乃至公告にならなかったであろうはずの商標が、現実には登録され、又は公告されているのである。しかも、これらの商標に商標法第3条第2項の規定が適用された形跡もない。
しかるに、本願商標もこれら登録乃至出願公告された商標と同様の意味合いを持つ商標であり、殊に、前記未更新の登録第1095464号(商公昭48-49056号)商標「マルチファイル」とは、全く同一なのであるから、本願商標もこれらの商標と同様に、識別力ある商標として登録されてしかるべきであって、拒絶される理由はない。よって、この意味で、今般の審査官の認定は最近の登録乃至公告例を無視したものであって、容易に納得できるものではない。
(4)むすび
以上のように、本願商標「マルチファイル」は、品質用途表示として普通に用いられる態様のものではなく、十分に識別力を有する商標であると考えますので、商標法第3条第1項第3号の規定には該当せず、登録適格なものと思料致します。