米国商標近代化法 (TMA, Trademark Modernization Act 2020)の概要

1.米国商標近代化法 不使用による取消手続

米国商標近代化法は2つの不使用を理由とする取消手続を設定しており、1つはexpungement(抹消)でもう1つはReexamination(再審査)です。以前は不使用を理由とする取消はTTABに請求する当事者系の取消手続でしたが、このTTABに請求する不使用取消手続はそのまま残して、新しい不使用取消手続を創設しています。新しい不使用取消手続は、例えばDefault(欠席裁判)でも6か月は時間がかかる当事者系のTTABによる手続よりも早く、当事者系よりも費用(特に弁護士費用)を抑えて効率の良い手続を目指しています。また、少し複雑なのはexpungementを訴因とするTTAB手続も新たに設定されています。従前の不使用を理由とする取消は不使用による放棄(abandonment)に加えて使用再開の意志についても争点となっていましたが、Expungement(抹消)については使用の再開については問われないものとなります。

1-a Expungement(抹消)

抹消手続は一度も州際取引で使用されていないことを理由に請求する手続とされ、抹消手続の請求については、期間が決められており、長官(Director)に対する請求では3年経過から10年目の期間内での請求となります。しかしTTABに対する抹消手続(new ground of expungement)では10年で終了とはならず、それ以降での請求も可能です。また、今回の改正には、過渡期の特例があり施行から2年間の2023年12月27日までは少なくとも3年以上の全ての登録を対象として長官(Director)に対して請求できるとされています。抹消請求の日よりも前に使用していることが取消を免れる要件となります。例えば、外国登録のベース(44)やマドプロベース(66)の登録をした者は、一部の商品役務について不使用の場合には、抹消の請求を受けることになります。

1-b Reexamination(再審査)

再審査は、1aベース若しくは1b1ベースで使用しているとして登録された商標が一部または全部の商品役務について特定の関連日以前において使用されていない場合に申し立て可能な手続きで、登録から最初の5年の間に申立することができます。特定の関連日は、1aベースでは出願日であり、1bベース(ITU)では使用の証明が可能であった期間の最終日です。

1-c 手続

請求人適格(standing)の要件はなく誰でもpetitionを請求できます。また、USPTO長官は第3者からの請求がなくても確からしい不使用の証拠(prima facie of nonuse)があれば自身で抹消手続や再審査手続を進めることも可能です。費用は1クラス当たり400ドル(当初600ドルでしたが最終案で変更)となっています。外国人が請求人或いは登録人となる場合には、米国でのライセンスを有する弁護士の代理が必要です。請求に際しては、書面での不使用の合理的調査についての証拠(reasonable investigation of nonuse)を必要としており、そのような証拠としては、州及び連邦の商標登録、商品や役務を提供し登録者が管理するウエブサイトや商品や役務についての宣伝がなされる印刷物など、関連する商品の他のサイト、登録人の市場で活動、その他の司法や行政での手続を含めることができます。取消を請求された登録者は、2か月の期限で答弁する機会があり、この点で厳密には査定系ではなく、請求人自身が手続の主体から外れることでEx parteとされています。請求を受けた登録者は、商標の使用の証拠を提出したり、外国登録のベース(44)やマドプロベース(66)の登録者に限っては、正当理由による不使用を申し立てることができます。請求を受けた登録者は、不使用とされた商品・役務を削除することでも応答することもできます。請求を受けた登録者が応答しなかった場合には、不使用の申立にかかる商品・役務が削除されます。最終的な決定に対しては再検討要求(reconsideration)かTTABに不服を申し立てることできます。一度不使用が申立られ且つ使用していることが証明されて不使用の申立が退けられた場合には同じ理由での申立はできないもの(Estoppel)とされています。

米国商標近代化法 不使用による取消手続
TMA: ExpungementとReexaminationのの違い
*1 施行から2年間の2023年12月27日まで全ての登録を対象として請求可能

2. Letter of Protest (情報提供制度)

従来から存在していた情報提供制度と本質的に変わるものではないのですが、今回のTMAの改正でその一部が明文化されています。50ドルの情報提供の費用が設定され、第3者からの証拠を採用しそれを審査官に送るか否かを2ヶ月の期限で決定するという規定が設けられています。この情報提供の決定については、最終で不服を申し立てることはできません。

3. Flexibale Response Period(柔軟な応答期間)

柔軟な応答期間は2022年12月1日から開始されますが、出願審査の際の応答と登録後の審査の応答の両方に適用され、従前の6か月の応答期間に代えて、原則3か月の標準応答期間と1回の延長期間が設定されます。延長期間を得るためには、125ドルの費用が必要です。この規則はマドリッド制度の利用者には適用されません。従って、マドリッド制度の利用者は6か月の応答期間があります。

4. Attorney Recognition (弁護士の代理)

弁護士の代理についての規則は、TMAの一部ではないルールですが、代理権はその代理の辞任若しくは取り下げまで続くとする新ルールに代わります。すなわち、現状で自動的に消滅するとされていた代理人の代理権については、辞任若しくは取り下げの書面を提出する必要があります。虚偽、不正、または誤って行われた弁護士の指定は有効ではありません。たとえば、出願人が弁護士の事前の許可または知識なしに弁護士を指名した場合、米国特許商標庁は、弁護士ではなく、出願人とのみ連絡を取ります。

5. 裁判所命令

登録を抹消したり、登録に影響する裁判所令は、そのような影響を与えるために、その認証されたコピーを米国特許商標庁に提出する必要があります。

6. Rebuttable presumption of irreparable harm (回復不能な損害の反証可能な推定)

TMAは合衆国法典第15編のランハム法のセクション34(a)を改正して、差止請求の際の要件の1つである回復不能な損害を反証可能な推定を与えます。

7. 施行日

2020年商標近代化法(TMA)の施行日は、2021年12月27日ですが、2020年商標近代化法(TMA)を実施する規制は、2021年12月18日に発効します。よって、抹消及び再審査手続、情報提供制度、TTABへの新しい理由の取消請求は2021年12月18日から利用可能です。また、抹消手続は施行から2年間の2023年12月27日までは少なくとも3年以上の全ての登録を対象に請求可能です。柔軟な応答期間については約1年の猶予期間が設けられ、2022年12月1日から開始されます。

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Chicago Lakefront

Changes To Implement Provisions of the Trademark Modernization Act of 2020 (11/17/2021) Federal Register 86 FR 64300

Regulations implementing the Trademark Modernization Act of 2020 and two new ex parte proceedings will go into effect on December 18, 2021.

情報源: USPTO implements the Trademark Modernization Act | USPTO

商標登録insideNews: USPTO implements the Trademark Modernization Act | USPTO
米国 商標近代化法(Trademark Modernization Act of 2020)
Expungement or reexamination forms (USPTO Website)
Decisions on trademark Petitions to Director | USPTO

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