商標権は税法上、無形固定資産として償却
商標権は税法上、識別可能な資産のうち物理的実体を欠く無形固定資産とされ、貸借対照表の資産の部に計上されます。無形固定資産については、通常定額法で減価償却を行います。すなわち、無形固定資産は、資産計上後毎期均等額ずつ償却され、償却額を控除した残額が貸借対照表の無形固定資産の期末値となります。商標権を取得した場合、権利発生後に途中で他人から譲渡された場合を除いて、その償却期間は10年で、残存価額が0円となるように処理します。商標権とのれんは、厳密には区別される権利で、のれんの方は20年以内の一定期間で(定額)償却が求められます。
商標 会計処理(勘定科目・取得価額)
取得価額の原則
購入した資産の取得価額は、次の金額の合計額です(法人税法施行令54条➀)。
1.購入の代価(引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税その他当該資産の購入のために要した費用がある場合には、その費用を加算した額)
2.当該資産を事業の用に供するため直接に要した費用の額
例えば、商標権を他人から有償で譲受したときは、その取得費用や付随する費用を定額法で減価償却を行うようにします。法人が他から出願権を有償で譲渡された場合も未償却残額に相当する金額が取得価額とされます。
法人税法基本通達7-3-15(出願権を取得するための費用)
“法人が他から出願権(工業所有権に関し特許又は登録を受ける権利をいう。)を取得した場合のその取得の対価については、無形固定資産に準じて当該出願権の目的たる工業所有権の耐用年数により償却することができるが、その出願により工業所有権の登録があったときは、当該出願権の未償却残額(工業所有権を取得するために要した費用があるときは、その費用の額を加算した金額)に相当する金額を当該工業所有権の取得価額とする。(昭46年直審(法)21「4」により改正)”
取得価額に算入しないことができる費用
法人税基本通達7-3-3の2(固定資産の取得価額に算入しないことができる費用の例示)。次に掲げるような費用の額は、たとえ固定資産の取得に関連して支出するものであっても、これを固定資産の取得価額に算入しないことができます。
(1)次に掲げるような租税公課等の額
イ 不動産取得税又は自動車取得税
ロ 特別土地保有税のうち土地の取得に対して課されるもの
ハ 新増設に係る事業所税
ニ 登録免許税その他登記又は登録のために要する費用
法人税法基本通達7-3-3の2から、登録費用(印紙代及び弁理士への成功報酬並びに登録手数料)は、上記ニに該当すると考えられるため、商標権の取得価額に算入しなくてもよいと考えられます。また、出願費用(印紙代)、弁理士 への出願代理手数料も、実務上、損金の額とすることが容認されています。言い換えれば、通常の商標登録出願及びその登録手続で特許事務所から出される請求書に含まれる費用は勘定科目として取得価額に算入しないことができる費用にすることが可能です。一方、ロゴの作成のために支払ったデザイナーへの外注費用、商標権の取得の可能性を調べるための商標調査費用は、登録のために要する費用とならず、取得価額に含まれるものと考えられます。また、早期審査費用や意見書、補正書は登録のためにかかる弁理士費用ですので、固定資産の取得価額に算入しないことができるものと考えられます。自己創成にかかる商標権の場合、取得価額に算入されるのは、例えばデザイン料や調査料であり比較的に高額なデザイン料でなければ10万円以下に収まると思いますので、少額の減価償却資産として一括損金処理が可能と思います。
少額減価償却資産
取得価額が10万円未満の少額の減価償却資産は、事業の用に供した事業年度においてその取得価額の全額を損金経理している場合に、損金の額に算入することができます。また、取得価額が20万円未満の減価償却資産については、各事業年度ごとに、その全部又は一部の合計額を一括し、これを3年間で償却する一括償却資産の損金算入の規定を選択することができます。さらに、中小企業者等が、取得価額が30万円未満である減価償却資産を平成18年4月1日から平成32年3月31日までの間に取得などして事業の用に供した場合には、一定の要件のもとに、その取得価額に相当する金額を損金の額に算入することができます。詳しくは中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例のページへ。
商標権の譲渡
譲渡所得
特許権や商標権などの無体財産権の譲渡も資産の譲渡に該当しますので、資産を売ったときの譲渡所得は、給与所得や事業所得などの所得と合わせて総合課税の対象となります。総合課税の譲渡所得は、取得したときから売ったときまでの所有期間によって長期と短期の二つに分かれますが、自分が研究して取得した特許権や実用新案権などの工業所有権が所有期間が5年以内の場合でも長期譲渡所得となりますので、商標権も長期譲渡所得に該当すると思われます。長期譲渡所得の金額はその2分の1が総合課税の対象になります。また、法人についても、各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とされます。
収益の帰属の時期
法人税法基本通達2-1-16(工業所有権等の譲渡等による収益の帰属の時期)
工業所有権等(特許権、実用新案権、意匠権及び商標権並びにこれらの権利に係る出願権及び実施権をいう。以下この節において同じ。)の譲渡又は実施権の設定により受ける対価(使用料を除く。以下2-1-16において同じ。)の額は、原則としてその譲渡又は設定に関する契約の効力発生の日の属する事業年度の益金の額に算入する。ただし、その譲渡又は設定の効力が登録により生ずることとなっている場合において、法人がその登録の日の属する事業年度の益金の額に算入しているときは、これを認める。(昭55年直法2-8「六」により追加)
(注) その対価の額がその契約の効力発生の日以後一定期間内に支払を受けるべき使用料の額に充当されることとなっている場合であっても、当該事業年度終了の日においていまだ使用料の額に充当されていない部分の金額を前受金等として繰り延べることはできないことに留意する。
法人の受贈益
法人が、他から資産を贈与された場合は、資産を時価でもらったことになり、その資産の時価が受贈益となります。法人が、他から資産を低額譲渡された場合は、資産の取得価額は時価となり、その資産の時価から売買価格を差し引いた金額が受贈益となります。受贈益には、原則として法人税がかかります。
消費税
国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡は、消費税の課税の対象となります。この資産とは、販売用の商品、事業等に用いている建物、機械、備品などの有形資産のほか、特許権、実用新案権、意匠権、商標権などの権利やノウハウその他の無体財産権など、およそ取引の対象となるすべてのものをいいます。なお外国法人への譲渡の場合、“国内において”の要件で判断されるのが原則ですが、輸出免税の適用があると考えられています。
商標の使用権
商標権を譲渡するのではなく、”その商標を使用しても良いですよ”と許諾することをライセンスするとも言います。この場合はライセンス契約を結んで使用権を設定することになります。商標権についてライセンス契約をした場合、その使用料(ライセンス料やロイヤリティとも称します。)については、ライセンサー(使用許諾者)が国内居住者と非居住者で扱いが異なることになります。まず、ライセンサーが国内居住者の場合、受け取るライセンス料には消費税がかかります。従って、契約書には税額も明記することが望まれます。ライセンサーが非居住者の場合、受け取るライセンス料には消費税がかかりません。しかし、ライセンサーが非居住者の場合、ランセンシー(使用権者)は源泉徴収(基本20%、非居住者の国が租税条約締約国の場合10%等)を行って管轄税務署への支払いが必要となります。使用料が消費税の対象となるには、その商標の登録が国内であることが要件です。マドリッド制度による国際登録自体は、国内登録ではありませんが、日本国特許庁は、国際事務局から料金納付に関する通知を受領後、国際登録を設定登録とみなして、国内原簿を作成するため、日本を指定国した国際商標登録のライセンス料は消費税の対象と解されます。非居住者の居住国により源泉徴収される率が変わりますが、その率は租税条約に依存します。例えば日本とアメリカで締結している日米租税条約では免除が可能で、所定の書類(租税条約に関する届出書)を税務署に提出します。限度税率は、アメリカ合衆国、英国、フランスは免除、ドイツ、中国、韓国、インドは10%、オーストラリア、香港は5%となっていますが、ブラジルは商標のライセンスについて25%だったりします。商品化権やエンドースメント契約の支払いについては、租税条約の内容を吟味する必要があり、商標権の使用料に準ずるか否かはケースバイケースになります。
法人税法基本通達 2-1-30(工業所有権等の使用料の帰属の時期)
工業所有権等又はノウハウを他の者に使用させたことにより支払を受ける使用料の額は、その額が確定した日の属する事業年度の益金の額に算入する。ただし、法人が継続して契約により当該使用料の額の支払を受けることとなっている日の属する事業年度の益金の額に算入している場合には、これを認める。(昭55年直法2-8「六」により追加)
商標権侵害を理由に受け取った損害賠償金が権利の使用料に相当する場合は、通常の権利使用料と結果的には同じ効果があるため、消費税がかかる課税取引になります。
更新登録の費用
更新登録の費用も商標権取得時の費用に準じて考えることができます。特許庁に納付すべき更新登録料(印紙代)は、取得時と同じく、登録免許税や登記または登録のために要した費用として、取得価額に算入せずに損金として償却することができます。また、弁理士への更新登録の出願代理手数料も損金とすることが容認されています。結果として支出額全額を損金計上できることになります。更新登録に際して、登録された商標の不要となった区分を削除することや、住所などの表示を変更することもでき、これらの手続の印紙代や弁理士手数料も損金算入できます。
係争事件の和解金
商標権侵害、不正競争防止法による損害賠償などの支払い金額(和解金)は、使用料としての性質を有するものと税法上は解されています。また、その請求に係る和解金の明細が明らかでない以上、その全額が所得税法第161条第1項第11号イに規定する工業所有権又はこれに準ずるものの使用料として取り扱われます(所得税基本通達161-35)。所得税法 第161条 国内源泉所得 十一 国内において業務を行う者から受ける次に掲げる使用料又は対価で当該業務に係るもの〔通達161-33~〕の「イ 工業所有権その他の技術に関する権利、特別の技術による生産方式若しくはこれらに準ずるものの使用料又はその譲渡による対価」と規定されていますので、外国法人等に対しては所得税法 第161条 国内源泉所得に該当することになります。
不正競争防止法に基づく損害賠償金を支払った場合(国税庁)
No.6257 損害賠償金(国税庁・タックスアンサー)
消費税基本通達 第2節 5-2-5(損害賠償金)
平15.11.19裁決、裁決事例集No.66 国税不服審判所 裁決事例集(著作権・和解金)
米国会計基準でのブランド評価法
知的財産権の評価法としては、一般的な他の資産の評価方法と同様、大きく分類してコスト・アプローチ、マーケット・アプローチ及びインカム・アプローチの三方法が用いられており、特に米国会計基準でのブランド評価法としては、インカム・アプローチのうちのロイヤルティ免除法が多く使用されています。ロイヤルティ免除法の基本的な考え方は、商標権の場合、「評価対象の商標権の所有者が、その使用は第三者より使用許諾されているものと仮定した場合に、当該第三者に対して支払うことが想定される使用料を、類似するライセンス契約から推定する」方法とされています。例えば、販売計画をもとに、仮に対象商品を販売するために必要な商標=ブランドをを保有していない場合に支払わなければならないロイヤルティ(使用権料)の見積額を算定し、評価対象期間内で当該金額の現在価値を算出することにより商標権の価値を検討します。
減損会計
減損会計とは、資産の収益性が低下して投資額の回収が見込めなくなった場合、当該資産の帳簿価額にその価値の下落を反映させる手続です。減損会計は、有形固定資産のみならず、無形固定資産においても、商標権や特許権に代表される知的財産権、のれん及び自社利用のソフトウエアなども対象となります。減損処理は、帳簿価額と回収可能価額との差額を当期の損失(減損損失)として処理されるものであり、回収可能価額は、資産または資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額と定義されています。商標の使用を中止して、別ブランドに切り替えることで減損処理することも可能です。
Global Intangible Low-Taxed Income
米国の税法では、1つまたは複数の支配する外国企業の少なくとも10%の価値または議決権を有する米国企業は、株主に金額が分配されているかどうかに関係なく、現在の課税所得に外国企業からのグローバル無形低課税所得(global intangible low-taxed income)を含める必要があります。一般的にグローバル無形低課税所得は特許、商標、著作権などの海外資産からの収入で、該当する米国企業は毎年課税所得として計上する必要があります。