米国商標 法人名
日本国内では法人には登記の際に定めた名称があり、法人としての活動にはその名称が使用されます。法人の名称には、その法人格を示す「株式会社」や「合同会社」などの文字も使用されます。日本企業や日本の社団が米国商標登録出願をする場合には、商号を英語の名称にする必要がありますが、その法人格が誤解されないように手続することが求められます。
日本での法人・社団等の種類
株式会社(有限会社)
株式会社は、会社法を根拠として、その本店の所在地において設立の登記をすることによって成立します。営利目的での企業形態として最も一般的な組織ですが、細分化された社員権(株式)を有する株主から有限責任の下に資金を調達し、株主から委任を受けた経営者が事業を行い、利益を株主に配当するものとされています。株主総会では、株主を構成員とし、株式会社の基本的な方針や重要な事項が決定されます。株式を企業の外部から募った新たな出資者に譲渡することができる会社は公開会社と呼ばれ、その中で株式市場での株式の取引ができる会社は上場会社と呼ばれ、また株式が公開されていない会社は非公開会社と呼ばれます。2006年(平成18年)5月1日の改正会社法施行前では、株式会社は資本金1000万円以上で、有限会社は資本金1000万円未満とされていましたが、この資本金での区別は現行法では存在しないものとなり、有限会社も廃止されています。法改正前に設立された有限会社は、手続きにより株式会社に変更することもできますが、そのまま有限会社を維持することもでき、特定有限会社とも呼ばれます。
持分会社ーー合同会社・合名会社・合資会社
合同会社は、株式会社よりもその設立費用を抑えることができ、法的責任としては間接有限責任ですので、資者の出資額以上の責任を負うことはありません。合名会社では、その法的責任が無限責任となります。合資会社では、一部の社員が無限責任を負い、他の社員が有限責任となります。これらの合同会社、合名会社、及び合資会社は総称して持分会社と呼ばれます(会社法)。持分会社は、会社組織の意思決定機関を柔軟に設定することができる一方、株式や新株予約権を発行することはできません。
組合
組合の中には、法人格のない組合もありますが、法人格のある組合もあります。また、それぞれ組合には根拠となる法令があり、一般に組合(任意組合)の成立には、特定の共同事業を営むことを目的とすることと、複数の当事者が組合員として出資することが要件(民法667条ー688条)となっています。法人格のない組合としては、労働組合(法人格を取得することもできます。)や有限責任事業組合(有限責任事業組合契約に関する法律)があります。このような法人格のない組合が原告となって訴訟を提起することや異議申立などをすることは可能とされていますが、法人格のない組合は権利能力の主体となり得ず、商標権などの組合財産は代表名義で登記することが行われています。一方、法人格のある組合としては次の組合があります。
- 中小企業等協同組合(事業協同組合、事業協同小組合、信用協同組合、協同組合連合会、企業組合:中小企業等協同組合法を根拠)
- 商工組合(中小企業団体の組織に関する法律)
- 各種協同組合(生活協同組合(消費生活協同組合法)
- 漁業協同組合(水産業協同組合法)
- 農業協同組合(農業協同組合法)
社団法人・財団法人・相互会社
社団法人や財団法人は、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律を根拠法とし、社団・財団法人の設立には設立時社員が共同して定款を作成して、全員が記名捺印して公証人の認証を要します。事業により利益が出た場合には、社員に分配することはできず、利益は法人の活動目的のために使わなければならないと定められています。財団法人は個人や企業などの法人から拠出された財産の集合体であるため、社員(出資者)という概念は存在しないことになり、現行法では300万円以上によって法人格を取得することができます。一般社団法人及び一般財団法人の中で、特に公益に特化した法人が公益社団法人及び公益財団法人(根拠法:公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律)です。公益法人には内閣総理大臣又は都道府県知事の認定が必要で、認定を受ければ法人税および寄附金に関わる税金が優遇されます。相互会社は日本では保険会社で多く用いられている法人形式であり、相互保険では保険加入希望者が出資し合って団体を構成し、その団体が保険者となって保険事故発生時には保険加入者に保険料の支払いをします。根拠法は、保険業法であり、保険会社としての株式会社も規定されています。
医療法人・宗教法人・学校法人・更生保護法人・社会福祉法人・独立行政法人・独立地方行政法人
- 医療法人は、病院、医師若しくは歯科医師が常時勤務する診療所、介護老人保健施設又は介護医療院を開設しようとする社団又は財団であって、医療法を根拠法として法人格を与えられた団体です。
- 宗教法人は、神社、寺院、教会、修道院その他これらに類する団体であって、宗教法人法を根拠法として法人格を与えられた団体です。
- 学校法人は、私立学校法を根拠に私立学校の設置を目的として法人化された団体です。
- 更生保護法人は、犯罪や非行をした人たちの改善更生を助けることを目的とする団体で、更生保護事業法を根拠とします。
- 社会福祉法人は、社会福祉事業を行うことを目的として設立される民間企業であり、社会福祉法を根拠法とします。
- 独立行政法人は、各府省の行政活動から政策の実施部門のうち一定の事務・事業を分離し、これを担当する機関に独立の法人格を与えたもので、独立行政法人通則法を根拠とします。
- 独立地方行政法人は、独立行政法人の地方公共団体版になり、根拠は地方独立行政法人法です。
士業法人
資格に基づいた士業が個人事業から法人化によるメリットを受けられるようにした組織が士業法人です。具体的な士業法人は、税理士法人・弁護士法人・監査法人・特許業務法人・土地家屋調査士法人・司法書士法人・社会保険労務士法人・行政書士法人になります。法人格を有するので法人税が課税されますが、債権者に対しては経営する社員は無限責任を負うことになります。士業法人には、それぞれ次のような根拠法があります。弁理士は令和4年4月から特許業務法人から弁理士法人が正式な士業法人名となりました。
- 税理士法人は税理士法(税理士)
- 弁護士法人は弁護士法(弁護士)
- 監査法人は公認会計士法(公認会計士)
- 弁理士法人は弁理士法(弁理士)
- 土地家屋調査士法人は土地家屋調査士法(土地家屋調査士)
- 司法書士法人は司法書士法(司法書士)
- 社会保険労務士法人は社会保険労務士法(社会保険労務士)
- 行政書士法人は行政書士法(行政書士)
特定非営利活動法人(NPO法人)
NPO法人は特定非営利活動促進法を根拠法とします。特定非営利活動とは、特定非営利活動促進法第2条の別表に掲げる17の分野に該当する活動で、不特定かつ多数のものの利益の増進に寄与することを目的とするものと定義されています。
法人格なき社団
法人格なき社団は権利能力がないことから、商標権を享有することはできないことは規定されていますが、異議申立は可能となっています。また、下記判例を踏襲すれば、社団の代表者が、社団の構成員全員の受託者たる地位において、個人の名義での登録はできるものと思います。法人格なき社団の例としては学会や同窓会、互助会、町内会、ボランティア団体が挙げられます。
個人事業
法人格を用いずに事業を行っている個人の事業を示すものであり、事業には所定の反復性継続性が必要となります。個人事業の場合は、通常税務署への開業届が提出され、そこに法人の商号に該当する屋号が記載されます。屋号を自分だけの名前にしたい方は商号登記をすることも可能です。但し、同一商号が排除されるのは、有名となる場合を除くと、同市町村内・同一営業目的という限定があります。
日本法人の英文表記
日本での商号登記
平成14年の商業登記規則等の改正により,商号の登記にローマ字を使用できますので、翻訳ではなく、もともと英文字で登記されていることもありかと思います。しかし、法令により商号中に使用が義務付けられている文字,例えば,会社の場合は,会社の種類に従い株式会社,合名会社等の文字を用いなければなりません(会社法第6条第2項)ので,これらを「K.K.」等に代えることはできません。法人格を示す部分については、そのまま株式会社,合名会社等の文字を用いる登記が必要です。
法人名の翻訳
会社名のような商号についての翻訳は、特に決まったルールはなく、その企業や組織が適当なものとして選ぶことができる事項と思います。良くある翻訳例は次の通り。
- 株式会社→Kabushiki Kaisha (K.K.), Corporation (Corp.), Incorporated (Inc.), Limited (Ltd.), Company Limited (Co., Ltd)
- 合同会社→Godou Kaisha 又は Godokaisha (G.K.)
- 合資会社→Goshi Kaisha 又は Goshikaisha (GSK)
- 合名会社→Gomei Kaisha (GMK)
- 有限会社→Yugen Kaisha (YK)
日本企業名の翻訳例(2021年特許登録数ランキングから)
キヤノン株式会社→Canon Inc.
三菱電機株式会社→Mitsubishi Electric Corporation
株式会社三共→SANKYO CO., LTD.
日本電気株式会社→NEC Corporation
トヨタ自動車株式会社→TOYOTA MOTOR CORPORATION
本田技研工業株式会社→Honda Motor Co., Ltd
富士通株式会社→FUJITSU LIMITED
株式会社デンソー→DENSO CORPORATION
京セラ株式会社→KYOCERA Corporation
ソニー株式会社→Sony Corporation
富士フイルム株式会社→FUJIFILM Corporation
株式会社三洋物産→SANYO BUSSAN CO.,LTD.
JFEスチール株式会社→JFE Steel Corporation
日本製鉄株式会社→NIPPON STEEL CORPORATION
富士ゼロックス株式会社→Fuji Xerox Co., Ltd.
コニカミノルタ株式会社→Konica Minolta, Inc.
日本電信電話株式会社→Nippon Telegraph and Telephone Corporation
大日本印刷株式会社→Dai Nippon Printing Co., Ltd.
株式会社ニューギン→NewGin Co. Ltd.
株式会社リコー→Ricoh Co., Ltd.
日本法令外国語訳データベースシステム(法務省)からのフィードバック
一般社団法人→General Incorporated Associations
一般財団法人→General Incorporated Foundations
株式会社→Stock Company
合名会社→General Partnership Company
合資会社→Limited Partnership Company
合同会社→Limited Liability Company
農業法人→agricultural corporation
事業協同組合→business cooperative
事業協同小組合→minor business cooperative
火災共済協同組合→fire mutual aid cooperative
信用協同組合→credit cooperative
協同組合連合会→federation of cooperatives
企業組合→joint enterprise cooperative
宗教法人→religious corporation
医療法人→medical corporation
学校法人→Incorporated Educational Institution
弁護士法人→Legal Professional Corporation
監査法人→Audit Corporation
弁理士法人→Patent Attorney Corporation
行政書士法人→Certified Administrative Procedures Legal Specialist Corporation
投資法人→Investment Corporation
独立行政法人→Incorporated Administrative Agency
米国商標 法人名等の記載
米国商標 法人名として出願の際には、出願人情報を正確に記載する必要があります。出願人情報の欄には、初めに商標の所有者について記載する欄があり、ここには正確な名称を記載する必要があります。個人であれば、姓、名の順で記入します。法人の場合は、商号を記載します。この名称欄では、日本企業の場合、一例として、株式会社はKabushiki Kaishaと記載すれば良く、〇〇Kabushiki Kaisha、或いはKabushiki Kaisha〇〇と記載すればように思います。次に、通称の指定をする欄があり、ここで翻訳した名称、一般に取引に使用している名称を記載できます。米国商標 法人名の通称の指定方法としては、4つのチェックボックスが示されており、それはDBA (doing business as), AKA (also known as), TA(trading as), Formerlyの4つです。DBAとTAは通称としてどちらも同じような意味ですが、取引を伴わない職業などの場合はDBAを選択できます。AKAは別称、Formerlyは元の名称という指定になります。4つのチェックボックスの後に、記入窓があり、そこに通常の業務で使用している商号(日本企業であれば翻訳で作成した商号)を記載できます。その結果、TESSのデータとしては、次のような記載が表示されます。例“TOYOTA JIDOSHA KABUSHIKI KAISHA TA TOYOTA MOTOR CORPORATION”, “Kabushiki Kaisha Hitachi Seisakusho DBA Hitachi, Ltd.”, “Kabushiki Kaisha Shueisha TA Shueisha Inc.” 日本企業の株式会社として、Kabushiki Kaishaを用いない方法も可能であり、通称の指定の項目は使用せず、会社の種類で「corporation」を選択します。自社の英文表記に「corporation」があれば、内容と表記が一致しますので、審査官からの問い合わせはない様に思います。自社の英文表記に「Limited、Co., Ltd、Inc.」の場合は、その会社が米国でもよく知られた会社でもない際には法人の種類について問い合わせがある可能性があり、それに対応した説明をすれば良いと思われます。
米国商標 法人名として米国商標出願をする社団に法人格は必要か?
米国商標出願をする社団に法人格は必要かどうかについては、必ずしも必要とされません。法人格がない協会や組合、組織などでも米国商標出願をすることができます。例えば、法人格のない協会の場合は、unincorporated associationのようなEntity Typeとすることができます。法人格のない労働組合は、unincorporated labor organization とすることができます。また、個人事業者もSolo ProprietorshipのEntity Typeを選択して、その屋号で出願、登録することが可能です。
名称についての記入に次に個人・法人の種類について入力します。これらの指標の中の1つを選択します。
Individual
出願人が個人のときに選択します。国籍(citizenship)を選択して入力します。
Corporation
Corporationは広義には法人を意味し、米国法では営利法人(business corporation)を意味します。日本の株式会社であれば、Corporationを選択すれば誤りではないと思われます。公益法人にはeleemosynary corporationの訳があり、宗教法人にはecclesiastical corporationの訳があり、士業法人にはprofessional corporationの訳があります。こちらを選択した時には米国の州か或いは外国の国名を入力します。
Limited Liability Company
Companyについては、株式会社(corporation)であっても良く持分会社(partnership)であっても良いとされています。こちらを選択した時には米国の州か或いは外国の国名を入力します。
Partnership
日本の持分会社は法人ですが、米国法では構成員から独立した法人格は有しないとされています。こちらを選択した時には米国の州か或いは外国の国名を入力します。
Limited Partnership
合同会社(合資会社は一部)有限責任とされるため、こちらを選択した時には米国の州か或いは外国の国名を入力します。
Joint Venture
合弁企業 複数企業が或る事業目的を達成するための共同事業で、会社の合弁よりは一時的な結合となります。
Solo Proprietorship
個人事業を指標します。選択した場合には、その事業体について米国国内か否かの選択となり、外国の場合はその国名を選択し、米国国内は個人事業者の名前と国を選択します。
Trust
信託を指標します。米国国内の場合に限り、管理者、会員、寄託者、執行者などの情報を記載します。
Estate
遺産管理団体などを指標します。米国国内の場合に限り、管理者、会員、寄託者、執行者などの情報を記載します。
Other
その他 上記のいずれにも該当しない場合に選択することができ、”Specify Entity Type” の欄で、プルダウンメニュー(Appedix Dと同じです。)から選択したり、プルダウンメニューになければ記載用の窓に書き込むことができます。また、”State or Country Where Legally Organized”の欄に国名を記載します。
米国特許商標庁での外国法人についてのルール
米国特許商標庁は外国法人については商号の法人格を示す部分自体が同じ語句でも異なる意味になる可能性があると認識しています。外国人の出願人が法人の種類を選択する際に、受け入れられる用語は必ずしも米国の出願人と同じではありません。米国で使用されている「corporation」という言葉は、必ずしも外国の法人では同じ意味で用いられていない可能性もあります。また外国法人については「company」という言葉の方が正確な場合があり、例えば出願人が英国または他の連邦国(カナダやオーストラリアなど)から来ており、「company」(または略語「co.」)という用語が使用されている場合には問い合わせは不要です。「Limited Company」は、例えば中国(有限公司)、大韓民国、および英連邦諸国でも受け入れられます。更に「Limited corporation」も或る国の出願人には許容できる法人格の指標となります。TMEP §803.03(i)
出願人の名称や略称がAppendix Dに含まれる文字を含んでいて、出願人の法人の種類の選択が出願人の名称又は略称と異なる場合
出願人の名称や略称がAppendix Dに含まれる文字を含んでいて、出願人の法人の種類の選択が出願人の名称又は略称と異なる場合、米国特許商標庁の審査弁護士は、出願人の法人格について明確にするように説明を求めます。
出願人の法人の種類の選択や略号、その説明がAppendix Dに含まれない場合
出願人の法人の種類の選択や略号、その説明がAppendix Dに含まれない場合も、米国特許商標庁の審査弁護士は、出願人の法人格について明確にするように説明を求めます。必要な場合には、その外国法人の法人格の内容について説明を求めることができます。
外国の或る地方の条例などを根拠法とする法人の場合
TEASの様式のなかでは、外国の国名だけを入力することになっていますので、外国の或る地方の条例などを根拠法とする法人の場合は、Otherを選択し、”Specify Entity Type” の欄に、法人格についての指標とその地方の条例などを根拠法の地方名の両方を記載します。例”corporation of Ontario” その次の”State or Country Where Legally Organized”の欄に国名(例えばCanada)をプルダウンメニューから入力します。
TEAS Nuts and Bolts 02: Applicant Information, 3:24
TMINシリーズにも同様の動画があります。米国特許商標庁(USPTO) 商標_動画(embedded) vol.2
下記のスポイラー内のAppendix Dには、日本として株式会社と3つの持分会社、及び有限会社についての記載があります。これはOtherのプルダウンメニューに現れます。