紛争処理方針(UDRP / JP-DRP)と商標権

ドメイン名を巡る紛争

ドメイン名は、原則的に先登録された文字や数字、記号の配列として同一でなければ登録することも可能で、しかも商標登録と比較して簡単な手続で費用も安く登録することができます。このためサイバースクワッター(cybersquatter: ドメイン占拠者)やタイポスクワッター(typosquatter)のような不正目的であったり、高額での転売目的やブランドへの毀損を図る者が現れたりもします。ブランド価値を獲得した商標権者の長年の努力や保護のために必要な費用に比べて、ブランド価値に対する攻撃的なドメイン登録はあまりにも簡単に短時間で費用もかけずに可能です。そして悪意のドメイン占拠者に対する移転の要請手段を仮に裁判によるものだけとした場合には、奪還にそれなりの弁護士費用もかかり、時間もかかることになり、法的な保護が追いつかない状態ともなり得ます。紛争処理方針(UDRP / JP-DRP)は、裁判よる紛争解決の長時間化や費用増大などの諸問題を解決し得るADRとして機能します。

ドメイン名の紛争パターン

サイバースクワッティング(cybersquatting)

サイバースクワッティング(ドメイン占拠)は、他人のブランドや商標を含んだ文字などのドメインを取得して、高額での転売を図る行為が該当します。例えば、周知なブランド”WILLIAM HILL”が存在していた場合に、他人が”williamhill.org, williamhill.net, williamhillscasino.com”を登録してしまうケース(William Hill Organisation Limited v Seven Oaks Motoring Centre, WIPO Case No. D2000 0824)が挙げられます。一般にサイバースクワッティングは、インターネットのドメイン名に対する行為ですが、更にはSNSのtwitterやfacebookに対してもなりすましやサイバースクワッティングということが起こりえます。

タイポスクワッティング(typosquatting)

タイポスクワッティングはWebブラウザにユーザーがURLを入力する際に犯す打ち間違いを利用するサイバースクワッティングの一形態です。例えば、ゲームボーイの打ち間違いを狙った”gameb0y.com”「アルファベットの”o”と数字の”0”の打ち間違いを狙う}(Nintendo of America Inc. v. Max Maximus, WIPO Case No. D2000-0588)などがあります。予算に余裕があれば、起こりがちなミスタイプのパターンをリダイレクトするようにドメイン取得することは、良く行われている予防策でもあります。

リバースドメインネームハイジャッキング(reverse domain name hijacking)

ドメイン名ハイジャッキングは、ドメイン名の登録情報を不正に書き換えてドメインを支配し、攻撃者が準備したフィッシングサイトなどの偽サイトに利用者のアクセスを誘導したりします。これに対し、リバースドメインネームハイジャッキングは紛争処理方針を不正の目的で利用して、登録者からドメイン名を奪いとろうとする行為をいいます。攻撃者は。目標とするドメイン名を移転させるために商標権を取得し、取得した商標権を基にUDRPやJP-DRPなどの紛争処理方針を利用してドメイン名の移転を図ります。

ドメイン名を巡る紛争

紛争処理方針(UDRP / JP-DRP)

紛争処理方針はドメイン名の登録に際して同意するものとされた手続であり、不正の目的によるドメイン名の登録・使用があった場合に、権利者からの申立に基づいてそのドメイン名の取消または移転を実現するための紛争解決手続として機能します。.comや.net、.org 等の gTLD の登録に対しては、UDRP (Uniform Domain Name Dispute Resolution Policy:統一ドメイン名紛争処理方針)が用意され、これに対してJP-DRPは、co.jpなどのJP ドメイン名に関するあるドメイン紛争の解決法となります。UDRPは、裁判では長期化や訴訟費用の増大が避けられない場合でも。悪質性が高いドメイン名登録を排除することに機能を限定して簡易・迅速な手続となるように仕組みが採用されており、それはminimal approach(ミニマル・アプローチ)と呼ばれています。登録されたドメイン名について不服が申し立てられた場合に、当該登録者が登録を認められるべきではない濫用的な者か否かの実質審査が紛争処理パネルによって行われます。UDRPでは、申立人は次のことを申立ます。1)登録者のドメイン名が、申立人が権利を有する商標と同一または混同を引き起こすほどに類似しており、2)ドメイン名登録者が、そのドメイン名についての権利または正当な利益を有しておらず、かつ3)登録者のドメイン名が悪意で、登録かつ使用されていることの3つです。紛争処理パネルは、3)の悪意の登録の認定には、高額での販売、貸与または移転することを主たる目的としていることや、商標権者がドメイン名として使用できないよう妨害するために、そのドメイン名が登録され、そのような妨害行為がパターン化されているとき、競合者の事業を妨害することを主たる目的としてドメイン名が登録されているとき、出所や取引提携関係等について申立人の商標との混同が生じているか、などを考慮して悪意の認定を行います。また、ドメイン名の登録に正当な権利または正当な利益を有するかどうかも考慮されます。JP-DRPでは、日本の制度、習慣に合わせた調整が行われており、たとえば、申立の基礎として商標だけではなく、有名人の名前なども申立の基礎となります。また、申立の条件として、JP-DRPではドメイン名の登録時点または使用時点のいずれかに不正の目的があれば申立できるとされています。紛争処理方針の手続の開始前、さらに 裁定結果に不服の場合において、当事者は不正競争防止法や商標法を根拠に裁判所に提訴することは可能です。JP-DRP及びUDRPにおける救済は、 ドメイン名登録の移転および取消に限定されており、 損害賠償請求は認められていません。UDRPとJP-DRPは次のように見ることができます。

UDRP JP=DRP
ドメイン gTLD (.com, .org, .net, etc.) ccTLD (.co.jp, etc.)
処理機関 WIPO 日本知的財産仲裁センター
言語、申立 英語、直接e-filing、若しくはダウンロードしたWordファイルに記入後電子メールに添付 日本語、ダウンロードしたWordファイルに記入後電子メールに添付
期間 最大60日程度 最大60日程度
費用 1名:1500USドル [Panelist: 1000; WIPO Center: 500]

3名:4000 [Presiding Panelist: 1500; Co-Panelist: 750; WIPO Center: 1000]

1名:180,000円(+税)

3名:360,000円(+税)

web-site https://www.wipo.int/amc/en/domains/ https://www.ip-adr.gr.jp/

紛争についての裁定例

1.Hiroyuki Nishimura v. Contact Privacy Inc. Customer 0111730701 / Jim Watkins, Race Queen, Inc WIPO Case No. D2016-1025the Complaint is denied. ”The Disputed Domain Name has been used by the Respondent in relation to the “2channel” business, which is a bulletin board system in Japan, operated by the Respondent. The Respondent acquired the Disputed Domain Name and began operating it a number of years before the Complainant obtained his registered rights in the 2CH trademark, upon which the Complainant is basing his claim.”

2.ムーミン キャラクターズ オサク ユキチュア リミテッド v. 株式会社ユー・コム, JIPAC JP2019-0001 (MOOMIN.JP) 裁定:棄却  登録者も「夢眠工房」の名称で平成13年よりオーダー寝具を販売しており、関連のチラシ広告、或いはツイッター、Facebookを発信していることが認められるので、本件ドメインの取得の主たる目的が本件ドメインの販売又は移転が目的であるとまでは認定できない。

3.株式会社ラビトン研究所 v. 株式会社システム企画, JP2006-0006 (RABITON.CO.JP) 裁定:棄却 不正使用目的でなく登録をした登録者が申立人に対して譲渡対価(500万円)等を要求した事実は、紛争処理方針第4条b(i)に定める事情に該当せず、よって本件ドメイン名が登録者により不正の目的で登録されていたものと認めることはできない。

UDRP/JP-DRP 関連動画

Uniform Dispute Name Dispute Resolution Policy: Introduction, 5:52

Uniform Dispute Name Dispute Resolution Policy: Introduction

gTLDと商標
In principle, a domain name can be registered as long as it is not the same as the previously registered sequence of letters, numbers, and symbols. Moreover, compared to trademark registration, registration is simpler and cheaper. . For this reason, there are cybersquatters (domain occupiers) and typosquatters who have fraudulent purposes, resell at a high price, or try to damage the brand. Trademarks that have acquired brand value Aggressive domain registration to brand value is too easy, short and costly compared to the years of effort of the owner and the cost of protection.

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