米国連邦商標法 §32と§43の概要
1995年にランハム法(Lanham Act)43条(c)でダイリューション(希釈化:dilution)についてルールが制定され、また、連邦商標法 §43(a)によりトレードドレスについての法的救済があることは良く知られているところですが、連邦商標法 §43は実はもっと広い範囲をカバーする規定です。連邦商標法§43(a)は、虚偽広告、誤解を招く表示や原産地虚偽表示もその守備範囲としており、日本では不正競争防止法や不当景品類及び不当表示防止法の対象となる事案(例えば、優良誤認表示)も連邦商標法§43の適用対象となります。特に、日本の商標法は、登録した商標を商標法で保護し、未登録商標は主に不正競争防止法で保護するような感覚ですが、米国の連邦法では、§32が登録商標の法的保護のための規定とされ、§43が登録、未登録を問わず、広範囲に市場での不正な活動を排除して保護できるように法律が定められています。また、Trademark Cyberpiracy Prevention Act(1999)による改正で43条(d)も追加されており、ドメイン名にも手が届く規定内容となっています。
連邦登録商標の法的保護(§32)
連邦登録された商標権には、§32で法的な保護が与えられており、出所についての混同の可能性(likelihood of confusion)が存在していれば、責任を負うものとされ、侵害者に対して差し止めによる救済(Injunctive relief)が可能となりますが、損害賠償(damages)の請求には実際の混同(actual confusion)についての証拠が必要となります。商標権者に承認されていない、その使用が混乱を生ずるおそれがある態様で商品若しくは役務について販売、販売の申し出、配給、或いは宣伝する行為(§32(a))、或いはその商標を再生してラベルや包装に付する行為(§32(b))は、直接侵害或いは侵害の誘導(inducement)として責任を負います。侵害の誘導行為として、他人の商標を侵害するように誘導した者も責任があることとされ、例えば、ジェネリック医薬品製造会社が、元のカプセルに似せた色のカプセルでジェネリック薬品を販売することは侵害の誘導(或いは寄与侵害(contributory infringement))に該当すると判断されています。Inwood Laboratories Inc. v. Ives Laboratories, Inc. 456 U.S. 844, 853-54 (1982).米国の知的財産系の訴訟の1つの戦略は、有利に進めるためには先に訴訟を起こすという考え方があり、侵害訴訟が提訴されることで訴訟が始まることもあり、話し合いの途中で侵害していると指摘された側が素早く確認訴訟(declaratory judgment: DJ)を起こして商標権者側が反訴するという図式も多く見られます。侵害であることを言うためには、原告は被告の類似した商標の使用は混同の可能性をもたらすことを示す必要があり、被告の商品又は役務が原告のものと同じか、被告は原告と関連する、承認されている、支援されているなどの混同を与えるものとされます。
防御/抗弁(defense) 侵害行為として提訴された場合でも被告側にいくつかの防御/抗弁(defense)もあり得ます。連邦商標登録を侵害するとした主張に対し、防御手段としては、無効(invalidity)、独禁法違反(Antitrust Violation)、公正使用(Fair Use)、懈怠 (けたい)(Laches)、禁反言(Estoppel)、詐欺(Fraud)、権利不行使(acquiescence)などの手法があります。無効の理由としては、商標権は放棄された(abandoned)、識別力がない(not distinctive)、普通名称化した(became generic)、実体のない使用(token use)などが挙げられます。しかし商標権者が§15の不可争性(incontestability)の宣誓書(declaration)を提出している場合は、識別力がない等の無効理由は挙げられないことになります。独禁法は、米国では資本主義の生命線として非常に尊重されていて、市場の競争力を弱めてしまうような独占的な取引や取り決めを排除するように機能しています。もし商標権が不可争性を得ていても独禁法違反の場合には商標権を行使することはできないことになります。Timken Roller Bearing Co. v. United States, 341 U.S. 593 (1951)(商標登録の割り当てを基準に輸出入を制限することは独禁法違反と判示)。公正使用(Fair Use)は、著作権法では良く用いられる法理ですが、商標でも一般に記述的公正使用(descriptive fair use) と指名的公正使用*(nominative fair use)[*筆者訳]があるとされており、連邦法にも公正使用の抗弁についての規定(15 USC 1115(b)4)があります。記述的公正使用は自分の商品や役務の説明に他人の商標を使用する場合などが該当します(スローガンが商標として登録された場合でも、普通の表現や記述でその商標の使用となる場合や、”〇〇コンクール優勝の”という説明の〇〇は他人の商標の場合など)。指名的公正使用は他人の商標に関する実際の商品や役務の説明に他人の商標を使用せざるを得ない場合が該当します(全日空が運航する飛行機を”全日空機”、iPod修理専門店など)。懈怠(laches)は、権利行使のための提訴の非合理なタイミングの遅れがある場合に主張される抗弁で、連邦商標法には時効の規定(statute of limitations)がないために、非合理性な遅れと不利益(unreasonable delay plus prejudice)がある場合には連邦裁判所は懈怠(laches)か、あるいは侵害が生じた主要な場所の州法の時効規則に即した判断をします。禁反言(Estoppel)については、侵害者が権利者の言動により商標の使用を承認されたと信ずる場合に起こりうる抗弁となります。日本の商標実務であれば、禁反言は包袋禁反言(file wrapper estoppel)を指すことが多く、中間処理で類似でないと主張した場合に侵害事件で類似であると主張する場合や、一連称呼すると主張した場合に一部の商標部分について権利主張する場合があると思いますが、米国連邦法ではより広い範囲で禁反言が成立します。使用権者禁反言(licensee estoppel)という概念もありますが、ライセンス契約における不争条項を有効とするか無効とするかの争いに考慮される概念で、米国特許の場合はlicensee Estoppelは認められずに不争条項は無効となります(MedImmune LLC v. Genentech Inc.)が、米国商標では契約上有効とされています。詐欺(Fraud)については、米国連邦商標登録を維持するためには、5-6年目や9-10年目の節目で使用の宣誓(§8)と証拠を提出することになっているため、その宣誓書や使用の証拠について米国特許商標庁の審査官を誤誘導するものがあれば、防御として成立する可能性があります。また、連邦商標法の15 USC 1120は、偽又は欺瞞の登録による民事的な責任(civil liability for false or fraudulent registration)についての規定を設けています。
法的な救済手段(Remedies) 法的な救済手段(Remedies)としては、差し止めによる救済(Injunctive relief)と金銭的救済(Monetary relief)があり、前述のように、実際の混同(actual confusion)の要件の分だけ金銭的救済を認定してもらうための証拠のハードルは高くなっております。一般に、差し止めによる救済としては、差止命令(Permanent Injunction)、暫定的保全処分(Temporary restraining order)、暫定的差止命令 (preliminary injunction)がありますが、判決として出される侵害商標の使用の禁止や地域的は制限は差止命令(Permanent Injunction)であり、実際の混同についての証拠も必要がないために商標権侵害に対する救済としては典型的な救済手段となります。裁判所の命令としては、”○○とは関係ありません(not connected with)”というような権利不要求の使用(use of disclaimer)という決定もあったりします。暫定的保全処分や暫定的差止命令は、裁判の最終決定よりも早い段階で侵害行為を停止させる命令となりますが、これらの暫定的な差止命令を出させるために重要な要件は、裁判所にも依存しますが、金銭的救済だけでは回復不能な損害(irreparable harm/injury)の存在となります。また、暫定的保全処分や暫定的差止命令を裁判所に出してもらうためには、所定の担保金額を収める必要があります(Fed.R.Civ.P. 65)。金銭的救済には、損害賠償(damages)、逸失利益(lost profits)、訴訟経費(costs)があり、連邦商標法の15USC1117はこれらについて規定しています。(a)では、連邦登録商標や43(a)の未登録商標についての賠償請求として (1)被告の利益、 (2)原告が被った損害、及び(3) 訴訟費用となっていて、被告の利益の算定には原告は被告の売り上げ(sales)だけを証明すれば良く、被告は減額や費用の全ての要素を証明するものと規定されています。また、裁判所は損害賠償については実際の損害額(actual damages)の三倍を越えない程度に実際の損害額を越えた賠償を命じることもでき、被告の利益に基づく場合は裁判所は公平と思われる額に調整できるとも規定されています。また裁判所は、例外的な場合、弁護士費用を敗訴者負担にできます。無実の出版者や印刷者に対する差止による救済は未来の差し止めに限定するとする規定もあります(15 U.S. Code § 1114)。
未登録商標の法的保護(§43(a))
連邦登録の有無を問わず、或いは単なる商標の枠を超えてランハム法43(a)は、起源(origin)を誤認させる場合や虚偽の表示や説明をしている場合に、提訴できるように規定されています。ランハム法43(a)での規制対象として、虚偽広告(false advertising), 詐欺通用(passing off), 逆詐欺通用(reverse passing off), 独自の虚偽表示(sui generis false representation)のような類型があります。この不正競争分野の法律は、特許法や著作権法のような知的財産についての連邦法の分野とは異なり、連邦法優位の原則(federal preemption)の例外となっていて、連邦法の適用があると同時に州法の適用もあると解されており、州法のビジネス分野の不法行為(business torts、例えば州法の誹謗中傷(defamation)やパブリシティ権侵害(invasion of publicity)とも重なり合う領域でもあります。Steele v. Bulova Watch Co(時計をメキシコで販売)の判決にもあるように、ランハム法は米国領域外で発生した行為(extrateritorial activity)に対しても適用できるとした例もあります。
未登録商標(unregistered trademark) ランハム法の§43(a)の要件を見てみると、商品や役務、または商品の包装について、”uses in commerce any word, term, name, symbol, or device, or any combination thereof(どのような文字、用語、名前、シンボル、図形、若しくはこれらの組み合わせ)”となっていますので、連邦登録は必要ではなく、それも必ずしも著名である必要はありません。このような未登録の文字等であっても混同を生ずるおそれがあれば、侵害行為として提訴できると§43(a)では規定されています。そうなると連邦登録の意味ってどこにあるのという疑問も生じるところともなりますが、連邦登録がなければ、その未登録商標はそもそも有効なのかというところから裁判を始める必要となり、未登録商標との混同が生ずるおそれも証明する必要があって、それは仮に証明できたとしても、多分に地理的に限定されたものになります。予防的な観点からは、連邦登録は権利の存在を少なくとも全米的に知らせていることになりますので、インターネットにより州際通商活動が大きく多様化した今日では無駄な訴訟をしないために連邦登録は重要です。
虚偽広告(false advertising)の成立要件(prima facie case) 虚偽広告は、現在では非常に適用範囲の広いものと考えられていて、原告の商標は連邦登録されている必要はありません。例えば、製品や役務の内容(Federal Exp. Corp. v. US Postal Service, 40 F. Supp. 2d 943、価格を含むクーリエサービスのFedExの2dayサービスをUSポスタルサービスのプライオリティメールと比較した広告、”世界中に配達”の文言にpuffery defenseを適用できるか否か、Wildlife Internationale, Inc. v. Clements, 591 F. Supp. 1542、”低品質の美術印刷を今日市場の美術印刷のうちの最高のもの”と称することは虚偽)、製品の人気、製品のデザイン、製品の改善、薬品の安全性、製品の効能(McNeil-P.C.C., Inc. v. Bristol-Myers Squibb Co., 938 F.2d 1544 (2d Cir. 1991), “エキセドリンはタイレノールより頭痛に良く効く”)、使用の容易さ、承認(POM Wonderful LLC v. Coca-Cola Co., 134 S.Ct. 2228, 2231-32 (2014), コカ・コーラの柘榴(ざくろ)とブルーベリーのジュースは1%より少ないがFDAの承認から消費者を誤誘導するものではない。)、製品や役務のの等価性(Radio Today, Inc. v. Westwood One, Inc., 684 F. Supp. 68, 74 (S.D.N.Y.1988)、新番組”Backtrack”は古い番組”Flashback”の改良バージョンとするのは誤誘導か否か)、製品の支持、製品の製造法(The Coca-cola Company v. Tropicana Products, Inc., 690 F.2d 312, TVコマーシャルでオリンピック選手がオレンジの絞りたてをアピールするも、実際は加熱殺菌したもの)、特許による保護などの虚偽広告が過去には争われています。一般的に、虚偽広告とするための要件として、1)被告は、製品の商用広告で虚偽の告知/記述を行い、或いは事実について誤った告知/記述をした。2)その告知/記述は潜在的な顧客の実質的な部分を騙した、或いは騙すことができ、3)その欺瞞は主要部に及んで顧客の購買決定に影響を与える蓋然性があり、4)製品は州際取引にかかり、5)その告知/記述の結果は原告は損害を受け若しくは受ける蓋然性がある。となっています。特に虚偽の告知かどうかについては、その広告が文言上虚偽であるか、或いは文言上正しいか不明瞭であっても顧客を誤誘導若しくは混乱させることを要件としています。虚偽広告であるとするには、実質的な数の潜在的顧客が虚偽の或いは誤誘導の印象を受けることとする要件があり、その証明には調査による調査証拠(Survey evidence)が多用される傾向にあります。
虚偽広告の防御/抗弁(defense) 虚偽広告では、原告適格(standing)がしばしば争点として挙げられており、原告はその原告適格を証明するため、2014年に米国最高裁は、(1)その損害がランハム法で保護される”利益の領域(zone of interests)”内のものであり、(2)その損害が被告の不実表示(misrepresentation)に直接に依存すること。を示す必要があると判決で判示されています。Lexmark International, Inc. v. Static Control Components, Inc., No. 12-873 (U.S. March 25, 2014) また、原告適格として競争相手である必要はないものの、一般の消費者は原告適格がないとも米国最高裁判決で判示されています。また、虚偽広告事件の原告適格の要件として、ランハム法§32の登録商標の侵害については米国通商での原告の商標の使用を要件とするが、ランハム法§43(a)の侵害については、米国通商での使用や権利の所有は要件とされない旨を判示しています。Belmora LLC v. Bayer Consumer Care AG 819 F.3d 697 (4th Cir. 2016) 虚偽広告の防御/抗弁としては、登録した権利に基づくものではないために、無効(validity)と使用(use)の抗弁はないものの原告適格の他に上述の§32と共通の一般的な抗弁もあり、特筆すべきものとして意見(Opinion)、称賛(Puffery)、パロディ(Parody)があります。意見は米国の法律では事実(fact)と対比されるものであり、その事実を曲げて伝えるのが虚偽ということですので、意見であれば騙す騙さないの問題とはならないと考えます。また、真実(truth)も虚偽とはならないので同じく防御/抗弁(defense)となります。称賛(Puffery)は、誇張されることで消費者目線では信じる者はないような表現や表示が該当します。Pizza Hut, Inc. v. Papa John’s Intern., 80 F. Supp. 2d 600 (N.D. Tex. 2000), スローガン “Better Ingredients, Better Pizza,” は単なる称賛(mere puffery)と判断されています。米国ではパロディ(Parody)を社会的な嗜好の1つのように扱っているところがあり、虚偽広告に対してパロディによる反論も可能です。Schieffelin & Co. v. Jack Co. of Boca, Inc., 850 F. Supp. 232 (S.D.N.Y. 1994) ドンペリポップコーンはパロディと主張しましたが、十分でないとして認められませんでした。” パロディとして認定するためには、パロディは同時に反駁する2つのメッセージを伝えなければならない。1つはオリジナルで、もう1つはオリジナルではなくそれがパロディだということ。” Cliffs Notes v. Bantam Doubleday Dell Pub. Group, Inc., 886 F.2d 490 (2d Cir.1989)と判断した事件があります。
詐欺通用(passing off) 詐欺通用はpassing-off或いはpalming-offとも呼ばれる行為で、”自分で作った商品に他人の商標を付与して販売する”行為を言います。詐欺通用の成立要件は、ランハム法43(a)では記載されていないものの、1)問題となる商品若しくは役務の出所若しくは起源について虚偽若しくは誤誘導させる表示、2)このような虚偽若しくは誤誘導させる表示の結果、商品若しくは役務の出所若しくは起源について公の混同や欺瞞の蓋然性があり、3)問題となる商品若しくは役務は州際取引で使用される。典型的な詐欺通用は、類似の商品に同一若しくは類似の商標や誤誘導となる商号等を付与する行為(著名商標に対する周知表示混同惹起行為を含む。)とされますが、例えば比較広告で競合する商品名を挙げて関連があるように見せかけて消費者を惑わせるのも詐欺通用の一例とされます。また、黙示の詐欺通用(implied passing off)と呼ばれる概念もあり、例えば競争相手の製品の販促品や試供品、写真などを使用して競争相手の製品と見せかけて製品を売る行為が該当します。
逆詐欺通用(reverse passing off) 逆詐欺通用はreverse passing-off或いはreverse palming-offとも呼ばれる行為で、”他人が作った製品を承認なく再販売する前に、元の商標を取り除く或いは消す”行為を言います。逆詐欺通用の成立要件は、詐欺通用と同様に、ランハム法43(a)では記載されていないものの、1)問題となる商品若しくは役務から原告の商号若しくは商標を代替し若しくは除去する、2)このような代替若しくは除去の結果、商品若しくは役務の出所若しくは起源について公の混同や欺瞞の蓋然性があり、3)問題となる商品若しくは役務は州際取引で使用される。典型的な逆詐欺通用の行為は、原告の商標を承認なく剥し或いは消して、被告の商標を付与して商品等を再販する行為です。例えば、Roho, Inc. v. Marquis, 717 F. Supp. 1172 (被告はマットから原告の特許、商標等を消してマットを販売)、Matsushita Electric Corp. v. Solar Sound Systems, Inc., 381 F. Supp. 64 (被告は原告のラジオ製品から商標等を削除して被告のプレートを付与し、部品の一部を交換して再販)
独自の虚偽表示(sui generis false representation) 全ての不正な商業上の干渉行為を提訴可能とするものではありませんが、誤解させる表示や起源を虚偽表示させるものに由来するような不正行為はランハム法43(a)で提訴可能と考えられています。そっくりさんや物真似などの概念も不正行為に通じることがあります。(Allen v. National Video, Inc., 610 F. Supp. 612 (S.D.N.Y. 1985), 著名な映画監督アレン氏に似せた人物がVIPメンバーカードを持つ広告を使用)人物だけではなく、ドラマ、映画の登場人物や、漫画の主人公や有名は動物なども可能性があります。芸能人やスポーツ選手などの著名人の場合は、人物の真似だけではなく、写真や人物名だけでも不正な商業上の干渉行為となる可能性があります。Smith v. Montoro 648 F.2d 602(映画でスミス名は消され、クレジットでは他人の名前に置き換えられた)
法的な救済手段(Remedies) 法的な救済手段(Remedies)としては、連邦登録商標の法的救済(§32)と同様に、差し止めによる救済(Injunctive relief)と金銭的救済(Monetary relief)があり、差し止めによる救済には、差止命令(Permanent Injunction)、暫定的保全処分(Temporary restraining order)、暫定的差止命令 (preliminary injunction)があります。ここでも差し止めによる救済(Injunctive relief)を得るためには、金銭的救済だけでは回復不能な損害(irreparable harm/injury)の存在が鍵となります。また、ランハム法43(a)の金銭的救済としては、連邦登録商標の法的救済(§32)と同様に、連邦商標法(15 U.S. Code § 1117)に、その条項があり、損害賠償(damages)、逸失利益(lost profits)、訴訟経費(costs)による救済が可能です。損害賠償(damages)や逸失利益(lost profits)を受けるためには、一般に実際の損害(actual injury)を示すことが要求されます。金銭的救済の一形態として、合理的な使用権料(reasonable royalty)を損害額とするケースもあります。他人の登録商標”Thirst-aid”をスローガンに使用したとして、下級審では24Mドル(侵害時期の売り上げの10%)を賠償額としたケースは、侵害者の不当利得(unjust enrichment)と商標権者の利益(interests)によって減額されるべきと判断したケースもあります。Sands, Taylor & Wood Company, Plaintiff-appellee, v. the Quaker Oats Company, Defendant-appellant, 978 F.2d 947 (7th Cir. 1992) 特許侵害で利用される合理的な使用権料の算出方法として、Georgia-Pacific factor(Georgia-Pacific Corp. v. United States Plywood Corp., 318 F. Supp.1116 (S.D.N.Y. 1970))というものがあり、Georgia-Pacific factorの要素を検討することで商標権侵害についても合理的な使用権料の計算が行われることがあります。
トレードドレスの法的保護(§43(a))
連邦商標法で特にトレードドレス(Trade Dress)について直接定義を設けている訳ではないのですが、米国での多くの判例がトレードドレスの存在を肯定し、またトレードドレスに含まれると思われるものについての連邦登録も可能です。逆に定義がないためにトレードドレスとして数多くの類型があり、定義がそれほど明確ではないものを連邦商標法§43(a)は登録商標と並行して保護しており、この点で日本の立法とは大きく異なっているように思います。日本の不正競争防止法は、何が不正競争行為というところから始まっているので、米国の方が不正競争について柔軟に対応できるでしょう。トレードドレスは、元来、製品の包装やラベルというところから始まり、色、レストランや商業施設の装飾、製品自体のデザイン、雑誌や本の装幀なども含まれると解されています。判例からは、トレードドレスは製品の全体的な印象若しくは全体の外観であって、大きさ、形状,色や色の組み合わせ,質感、画像、さらには或る販売技法のような特徴を含む(trade dress as a product’s “total image” or “overall appearance” and “may include features such as size, shape, color or color combinations, texture, graphics or even certain sales techniques.” John H. Harland Co. v. Clarke Checks, Inc., 771 F.2d 966, 980 (11th Cir. 1983))と判示した例があります。包装やラベル、雑誌や本の装幀などは著作権での保護対象ともなり、法的救済を求める場合に連邦商標法と共に著作権法での提訴も可能です。また、ランハム法での法的救済は、連邦法と州法の共同管轄(concurrent jurisdiction)となっていて、連邦裁判所と州裁判所のどちらでも提訴可能です。トレードドレスを連邦登録する際には、審査官は(1) 機能性(functionality)と (2) 識別性(distinctiveness)を考慮する必要があります(TMEP 1202.02)。
保護対象となるトレードドレス
連邦商標法の§43(a)(3)は、原告は,保護すべきトレードドレスが「機能的でない(not functional)」ことを立証する責任を負うと規定しています。この非機能性(non-functionality)の要件に加えて、未登録商標のトレードドレスの侵害では、(1)保護すべきトレードドレスが本来的な識別力(inherently distinctive)を有するか、2次的意味(secondary meaning)を獲得しており、(2)混同の蓋然性(likelihood of confusion)があることを証明する必要があります。要件(1)はトレードドレスが連邦登録を受けるための要件でもあり、連邦登録を受けていれば商標権者・原告の挙証責任は要件(1)の証明を不要とする分だけ提訴しやすくなります。本来的な識別力は、獲得した識別力が得られる以前に既に自他商品を識別する力があることを意味していますが、色のトレードドレス及び製品自体のデザインのトレードドレスについては、本来的な識別力が存在するということないと判示されており、色のトレードドレス及び製品自体のデザイン(product design)のトレードドレスについては獲得した識別力を証明する必要があります(製品デザイン(Wal-Mart Stores, Inc. v. Samara Bros., Inc., 529 U.S. 205, 212 (2000))、色のトレードドレス(Qualitex Co. v. Jacobson Products Co., Inc., 514 U.S. 159 (1995)))。製品の包装(package)と店舗の装飾については、2次的意味の獲得についての証明を要せずに本来的な識別力が存在する可能性があり、もし本来的な識別力がなければ2次的意味の獲得を証明すれば良いとされています(店舗の装飾(Two Pesos, Inc. v. Taco Cabana, Inc., 505 U.S. 763, 776 (1992)))。なお、2次的意味と獲得した識別力は同義で用いられているものと思います。
トレードドレスの連邦登録要件 (registable TD) USPTO | 未登録トレードドレスの侵害成立要件 (protectable TD) US Courts | |
本来的な識別力 (inherent distinctiveness) | あれば登録可能(製品の包装と店舗の装飾)Seabrook factors | ● |
2次的意味 (secondary meaning)/ 獲得した識別力 (acquired distinctiveness) | 本来的な識別力がなくとも2次的意味/獲得した識別力があれば登録可能 | |
非機能性 (non-functionality) | 考慮されます。(TMEP 1202.02(a))Morton-Norwich factors | §43(a)(3) |
混同の蓋然性 (likelihood of confusion) | ‐ | 原告に挙証責任 ● |
●は消費者調査(獲得した識別力の有無、混同の有無)が使用される可能性あり。
USPTOでトレードドレスの登録をする際に審査される機能性(functionality)のテストでは、Morton-Norwich factors(In re Morton-Norwich Prods., Inc., 671 F.2d 1332, 1340-1341, 213 USPQ 9, 15-16 (C.C.P.A. 1982).)と呼ばれる要素が試されることになります。Morton-Norwich factorsは、(1)登録を求められたデザインの実用の利点を開示する実用の特許の存在、(2)出願人によりデザインの実用的な利点を強調する宣伝、(3)代替デザインの入手可能性についての事実、(4)デザインが比較的簡素若しくは安価な製造方法による結果かどうかについての事実、とされていて、これらに該当するか否かで判断されます。また、USPTOで製品の包装と店舗の装飾についてのトレードドレスの登録をする際に、本来的な識別力の存在については、Seabrook factors (Seabrook Foods, Inc. v. Bar-Well Foods, Ltd., 568 F.2d 1342, 1344, 196 USPQ 289, 291 (C.C.P.A. 1977))を用いて審査されます。
未登録トレードドレスについては、上の表にも示すように、非機能性(non-functionality)と混同の蓋然性(likelihood of confusion)について原告が挙証責任があるものとされ、それぞれ争点とされる場合には、各裁判所(主に連邦裁判所)は独自の機能性についてのtestや混同の蓋然性についてのtestを当て嵌めて、争点について判断します。連邦商標法の§43でのどのような要因で混同の蓋然性を成立させるということには規定はなく、各巡回裁判所独自の決定となりますが、一般には(1) 問題となっているトレードドレスの特徴の類似点、(2) トレードドレスが使用される商品の類似点、(3) 顧客の習熟度、(4)トレードドレスの強さ などについて検討が行われます。また、機能性の問題も最も重要な争点として争われることがあり、「物品の使用又は目的に不可欠であるかどうか、又は物品のコスト又は品質に影響を与えるかどうか」というTrafFix 最高裁判決(TrafFix Devices v. Marketing Displays,121 S. Ct. 1255 (2001))を用いて機能性を判断した判例(Apple Inc. v. Samsung Electronics Co. Ltd. et. Al.,(Fed. Cir. 2015))もあります。獲得した2次的意味については、Converse, Inc. v. International Trade Commission,(Fed. Cir. 2018)では、連邦登録によって2次的意味は認められるが、それは登録時から後についてであり、侵害が登録前に発生している場合は、商標権者は登録前に2次的意味を得ていたことを証明する必要があるとし、その獲得した2次的意味があるかないかのテストとして、(1)実際の購入者による或る出所とトレードドレスの関連(典型的には顧客調査により測られる)、(2)使用の期間、頻度、及び排他性、(3)広告の量と方法、(4)販売量と顧客の数、(5)故意の模倣、(6)商標を使用する製品についての勧誘のないマスコミ報道を用いて判断しています。
トレードドレスの防御/抗弁(defense) 未登録のトレードドレスの侵害については、本来的な識別力/獲得した識別力、非機能性、混同の蓋然性の3つの要件を証明することになり、被告側としてはこれらの要件が成立しないように抗弁することになります。非機能性の要件については、原告が特許を有することが機能的であるとの証拠になり易く、原告がその製品について保有する特許を特定したりすることもあります。本来的な識別力/獲得した識別力と混同の蓋然性の要件に対しては、しばしば調査証拠(survey evidence)が使用されることがあり、消費者調査なども利用されます。訴訟で調査が利用される分野として最も多いのが知的財産権分野で、特に商標の2次的意味とトレードドレスの争点に関して利用されることが多いというデータもあります。調査証拠は、油断すると連邦証拠法の伝聞証拠(hearsay)に陥る可能性もあり、専門家に雇って争点に関してどのような設問とするかを慎重に選ぶ必要があります。トレードドレスの特有の抗弁として著名ブランド(brand name)というものがあり、問題とされるトレードドレスの中に著名なブランドを認識させる文字やロゴがあれば混同が発生する可能性はなくなるという論理となります。これら抗弁に加えて、懈怠(laches)や公正使用(fair use)の抗弁もあります。
トレードドレスの法的救済(remedies) トレードドレスの法的救済としては、通常の商標の侵害事件と同じであって、差し止めでの救済(injunctive relief)、金銭的救済(monetary relief)、例外的は弁護士費用(attorney’s fee)、侵害資材等の没収(impoundment of infringing materials)の各救済を受けることが可能です。
連邦希釈化防止法§43(c)
希釈化は簡単にはブランドとして認識される力が弱まってい行くことを意味しています。連邦商標法では、1996年に§43(c)が追加されて、それまで州法止まりであったルールが連邦レベルでのルールに改正されています。どのような行為が希釈化とされるかについては、(c)項のタイトルにも挙げられているように、典型的には2つの類型があり、1つは不鮮明化による希釈化(dilution by blurring)ともう1つは毀損による希釈化(dilution by tarnishment)です。東京では、頻繁に見受けられる”マリカー”ですが、現在はdisclaimerとして”任天堂とは無関係”の文字を大きくウイング部分に表示して営業しています。和解が未だないことを前提にながらもし同じことを米国で行った場合は、任天堂が観光客相手に商売を始めたとも受け取られ兼ねないため、その営業行為は連邦希釈化防止法違反として訴因の1カウントにできると推測されます。また、面ファスナーで有名なベロクロもあまりにも有名で、普通名称化(genericide)し易いことから、たびたび商標であるとのキャンペーンを行ったりしています。毀損による希釈化行為としては、低品質の製品に似たような商標を表示する場合や、有名商標を模した表示を成人向けサイトや製品に使用する場合などがあります。原告としては必ずしも連邦商標登録は必要ではなく、未登録商標でも有名であれば提訴が可能です。2006年10月6日の改正法では、§45に存在していた”dilution”の定義が削除されています。
米国法での希釈化 | 日本法での不正競争行為 |
不鮮明化による希釈化(dilution by blurring) [有名商標の識別性を害する] | 周知表示混同惹起行為(不競法2条1項1号)、著名表示冒用行為(不競法2条1項2号)、商品形態模倣行為(不競法2条1項3号)
所謂フリーライド、ダイリューション |
毀損による希釈化 (dilution by tarnishment) [有名商標の評判を害する] | 著名表示冒用行為(不競法2条1項2号)、競争者営業誹謗行為(不競法2条1項15号)
所謂ポリューション |
希釈化行為の成立要件 希釈化の要件としては、先ず対象となる商標が有名(famous)であることが求められており、商標の所有者の商品や役務の出所として米国内で広く一般消費者に認識されていることが、商標は有名とされる条件になります。その認識の度合いには、実際の混同や混同の蓋然性、競争、或いは実際の経済的な損害の有無には関係しないと規定されています。§43(c)では、有名か否かの認識の度合いを決定する場合の要因として、1)商標を広告し若しくは公にされた期間や広がり、地理的な範囲、そして広告或いは公にする行為が商標権者か或いは第3者によるものかどうか、2)その商標が付された商品若しくは役務の販売の数量、地理的範囲、3)商標の実際の認識の程度、4)商標が1881年2月の法律、1905年2月20日の法律、若しくは主登録簿に登録されているかどうか の4つのファクターが挙げられています。また、不鮮明化による希釈化(Dilution by blurring)は、有名商標の識別性を害する、商標若しくは商号と有名商標の間の類似性に起因する関係であり、商標若しくは商号が不鮮明化による希釈化に因果関係があるか否かを決定する場合には、裁判所は次の要因を含むすべての関連する要因を考慮する[§43(c)(2)(B)]。これらの要因は i)商標若しくは商号と有名商標の間の類似性の程度、ii)有名商標の本来的若しくは獲得した識別性の程度、iii)有名商標の所有者がその商標の実質的な排他的使用をした程度、iv)有名商標の認識の度合い、v)商標若しくは商号の使用者が有名商標との関連性を作ろうとしたか否か、vi)商標若しくは商号と有名商標の間の実際の関連性 となります。一方、毀損による希釈化(dilution by tarnishment)は、有名商標の評判を害する、商標若しくは商号と有名商標の間の類似性に起因する関係とされています[§43(c)(2)(C)]。
除外理由(Exclusion) 希釈化行為に対して次のような場合では訴追すべきではないとする例が挙げられています。A)他人による著名商標の、その者の商品若しくは役務の出所表示以外の、記述的公正使用(descriptive fair use) と指名的公正使用(nominative fair use)を含む公正使用(Fair Use)若しくはそのような公正使用の援助(*例えばインターネットプロバイダーが該当)であって、i)消費者が商品や役務を比較すことができる広告や販促行為、或いはii)著名商標所有者又は著名商標所有者の商品若しくは役務のパロディ、批判、意見をする行為、B)あらゆる形式の報道やニュースでの意見、C)商標の非商業的使用 の各行為は希釈化行為としては提訴できないと規定されています。
トレードドレスの場合の挙証責任(Burden of proof) 主登録されていないドレードドレスの希釈化事件では、ドレードドレスの保護を主張する者に挙証責任があり、そのトレードドレスが全体として、機能的ではなく、且つ有名であり、もし保護すべきトレードドレスに主登録された商標が含まれる場合には、そのような登録された商標の名声を離れて登録されていない事項が有名であることを証明する必要があります。
追加できる法的救済(Additional remedies) この希釈化行為に対する救済について、有名商標の所有者は、先に説明した15USC §1116(Lanham Act§32)に記載された差し止めによる救済(Injunctive relief)を受けることができると規定されています[§43(c)(5)]。また、有名商標の所有者は、次の条件に従って15USC §1117(a)(Lanham Act§43(a))と15USC §1118(Lanham Act§44)の法的救済を受けることができる。その条件とは裁判所の裁量と衡平法の原則に従い、もし不鮮明化による希釈化或いは毀損による希釈化を生じさせようとする商標若しくは商号が、差し止め請求を行う対象の者によって2006年10月6日よりも後に最初に取引に使用され、且つ不鮮明化による希釈化においては、差し止め対象者が有名商標の識別性の上に取引をする悪意がある場合、又は毀損による希釈化においては、差し止め対象者が有名商標の評判を害する悪意がある場合にLanham Act§43(a)とLanham Act§44の救済を受けることができます。
有効な登録の所有権による抗弁(Ownership of valid registration a complete bar to action)と適用免除条項(Savings clause) 商標が1881年2月の法律、1905年2月20日の法律、若しくは主登録簿に有効に登録されている者の所有権は、次に場合に、その者に対する完全な抗弁となります。その条件は、コモンロー若しくは州法に基づく提訴であって、且つ不鮮明化による希釈化或いは毀損による希釈化を防止を求めて提訴する場合、又は商標、ラベル、若しくは広告の形式についての識別性若しくは評判についての実際若しくは蓋然性のある損害や危害を主張して提訴する場合、その者に対する完全な抗弁となり得ます。また、本項のいかなる条項も、米国の特許法の適用性を損なう、修正する、またはそれに優先するものと解釈されるものではありません。
サイバーパイラシー防止法(Cyberpiracy Prevention Act) §43条(d)
サイバーパイラシー防止法(サイバー海賊防止法)は、1999年に商標法を改正して施行された連邦法であり、商標の所有者がドメイン名所有権をサイバースクワッター(cybersquatter:ドメイン占拠者)から商標所有者に移転させる裁判所命令を得られるように規定されています。サイバーパイラシー防止法では、ドメイン名の保護のため商標法§32と§45も修正されています。ドメイン名はその取得に費用がそれほどかからない場合でも、著名ブランドのドメインを取得したサイバースクワッターから高額な買取価格を要求されたり、有名商標と同じドメイン名がアダルトコンテンツサイトにされたりする事例があり、例えば著名人ではない第3者が著名人になりすまして、その著名人と同じか略称、或いはそれを連想させるドメイン名のURLでホームページを開設したり運営するようなケースも考えられます。規定内容によると、個人名として保護される商標を含む商標の所有者は、その商標からの利益を得ようとする悪意があり、且つドメイン名が、そのドメイン名の登録時に識別力があった場合にはその商標と同一若しくは類似であり、そのドメイン名の登録時に有名であった場合にはその有名商標と同一若しくは類似又はその商標を希釈化し、或いはドメイン名が18USC§706(赤十字)若しくは36USC§220506(オリンピック委員会)の故に保護される商標、語若しくは名前である場合、そのドメイン名を登録し、流通させ、若しくは使用することは、その所有者の商品や役務に拘わらず、民事手続でその者の責任を負わせられると規定されています。悪意の有無についての判断に裁判所が考慮すべき要因も例示列挙されており[§43(d)(1)(B)]、(I)そのドメイン名に、もしあれば、当事者の商標若しくはその他の知的財産権、(II)ドメイン名が当事者の氏名若しくはその者を示すのに一般的に使用されている名前を構成する程度、(III)商標若しくは役務の真正な申出に関連するドメイン名の当事者の従前の使用、(IV)そのドメイン名でアクセスできるサイト内の商標の真正な非商業的使用若しくは公正使用、(V)サイトの出所、提供、提携、若しくは推奨について混同の蓋然性を作り出すことで、商業的利益若しくは商標を毀損若しくは価値を下げる目的で、その商標に代表される業務上の信用を損ね得るドメイン名でアクセスできるサイトへ消費者を商標所有者のオンラインの場所から転向させる当事者の意図、(VI)商品若しくは役務の真正な申出においてドメイン名を使用若しくは使用する意図もなく、金銭的利益のために商標の所有者若しくは第3者にドメイン名を移転、売却、或いはその他の譲渡する申出、又は当事者のそのような行動パターンを示す過去の行動、(VII)ドメイン名の登録を申請した際に主要で誤解させる偽の連絡先情報についての当事者の提供、正確な連絡先情報を維持することの当事者の意図的な欠如、或いは当事者のそのような行動パターンを示す過去の行動、(VIII)他人の商標若しくは役務についての考慮なく、ドメイン名の登録時に識別性を有しその他人の商標と同一若しくは類似であること、或いはそのドメイン名の登録時に有名である有名商標を希釈化することを当事者が知る複数のドメイン名を当事者が登録若しくは取得すること、(IX)当事者のドメイン名の登録に内在する商標が識別性を有し、又は本条(c)項(dilution)の意味の上で識別性を有しないが有名である度合い。その当事者がドメイン名の使用は公正使用若しくは適法であると信じ、若しくはその合理性のある理由があると決定した場合には、本項(A)の悪意はあるものとすることはできないと規定されています[§43(d)(1)(B)(ii)]。
ドメイン名の登録、流通、若しくは使用に関わる民事訴訟において、裁判所はドメイン名の没収、無効、若しくは商標の所有者への移転を命ずることができます[§43(d)(1)(C)]。
また、当事者がドメイン名の登録者若しくは登録者の正規のライセンシーである場合に限り、その当事者はドメイン名の使用について法的な責任を負うものと規定されています[§43(d)(1)(D)]。“traffics in” の用語は、これに限定されるものではないが、販売、購入、借用、担保設定、ライセンス、為替、その他の約因の移転、約因の交換の受領を含む取引に言及する[§43(d)(1)(E)]。また、商標権者は、ドメイン名に対する対物的民事訴訟(in rem civil action against a domain name)を提起することができます。裁判所にドメイン名の紛争を持ち込む前に、UDRP(Uniform Domain Name Dispute Resolution Policy:統一ドメイン名紛争処理方針)のよる紛争解決方法があり、その決定では、悪意がなければドメイン名登録の移転および取消がなされないことになっています。しかし、一旦善意と判断された後に、競合するようなサイトに内容を変更して金銭を請求する場合では、裁判所が損害を認めた事例もあります(Newport News Holdings Corp. v. Virtual City Vision, Inc., 4th Cir. Apr. 18, 2011) 。
米国商標制度 vol.1
米国商標制度 vol.2
米国特許商標庁(USPTO)