原産地表示・原産地名称の保護については、2つの条約があり、それらは、i)1891年にポルトガルのリスボンにおいて作成された原産地名称の保護及び国際登録に関するリスボン協定(条約発効1966年9月25日、日本未加入)、ii)1891年にスペインのマドリードにおいて作成された虚偽の又は誤認を生じさせる原産地表示の防止に関するマドリッド協定(条約発効1892年7月15日、日本加入1953年7月8日)です。
リスボン協定 (The 1958 Lisbon Agreement on the Protection of Appellations of Origin and Their Registration)
日本未加入のリスボン協定は、原産地名称(APPELLATION OF ORIGIN)を国際事務局(International Bureau)で登録することで保護するように規定されています。WIPOの登録数を国別にみるとフランス(509)、チェコ共和国(76)、ブルガリア(51)、イタリア(33)、ジョージア(28)、ハンガリー(28)が主なところで全部で816件の登録となっています。その保護の内容は、”生産物の真正な原産地が表示されている場合又は当該名称が翻訳された形で若しくは「kind」,「type」,「make」,「imitation」等の語を伴って使用されている場合であっても,権利侵害又は模倣に対抗して保護が保証される。” とされていますので、登録された原産地の〇〇産は表示できないことになります。日本法の枠内では、地理的表示(GI)を条約批准して国際登録していく関係になりそうです。
マドリッド協定 (The 1891 Madrid Agreement for the Repression of False or Deceptive Indications of Sources on Goods)
日本が半世紀以上前に加入したマドリッド協定(商標の国際登録出願についてもマドリット協定(Madrid Agreement Concerning the International Registration of Marks of 1891)がありますが、別の協定です。尚、国際登録出願のマドリット協定はプロトコル(議定書)をつけて、「マドプロ」と呼ぶのが一般的です。)は、主な内容は、税関での輸入差押えや輸入禁止(第1条、第2条)、原産地を偽る広告的表示の禁止(第3条)、マドリッド協定では、原産国又は原産地として直接又は間接に表示している虚偽の又は誤認を生じさせる表示を有する全ての生産物を対象としています。原産地を偽る広告的表示の禁止では、生産物の原産地について公衆を欺くおそれがある看板、広告、送り状、ぶどう酒目録、商業用の書状又は書類その他のすべての商業用の通信などの媒体利用形態を禁止しています。
日本の法律
不正競争防止法第2条第1項第14項(定義)
商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信にその商品の原産地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量若しくはその役務の質、内容、用途若しくは数量について誤認させるような表示をし、又はその表示をした商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供し、若しくはその表示をして役務を提供する行為が不正競争である旨(虚偽表示)規定されています。従いまして、その不正競争差止請求権に基づく差し止めが可能です。その他、JAS法、景品表示法(優良誤認表示)、食品衛生法などでも法的な保護が可能です。
酒税法
酒類を製造しようとする場合には、酒税法に基づき、製造しようとする酒類の品目別に、製造場ごとに、その製造場の所在地の所轄税務署長から製造免許を受ける必要があります。酒税法第7条、第10条 国税庁の管轄です。
特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(地理的表示法)
特定の産地と品質等の面で結び付きのある農林水産物・食品等の産品の名称(地理的表示)を知的財産として保護し、もって、生産業者の利益の増進と需要者の信頼の保護を図ることを目的としています。生産者団体が定めた生産地や生産方法等の基準(明細書等)を満たす産品にのみ当該産品の名称の表示(=地理的表示(GI))を使用することができます。農林水産省の管轄です。
関税法
(原産地を偽った表示等がされている貨物の輸入)
第71条 原産地について直接若しくは間接に偽つた表示又は誤認を生じさせる表示がされている外国貨物については、輸入を許可しない。
2 税関長は、前項の外国貨物については、その原産地について偽った表示又は誤認を生じさせる表示がある旨を輸入申告をした者に、直ちに通知し、期間を指定して、その者の選択により、その表示を消させ、若しくは訂正させ、又は当該貨物を積みもどさせなければならない。
例えば、衣類に”Made in U.S.A.” と記載されたタグが偽りであるときは、そのタグを除いたり、訂正することで、輸入が可能となります。すなわち、直ちに全部廃棄とはならない規定になっています。