商標審査基準改訂第12版 45年ぶり基準改定

特許庁は、商標の審査の商標審査基準を改訂した第12版をリリースしております。今回の第12版は、45年ぶりの基準改定を盛り込んだ内容となっていまして、キャッチフレーズ(商品若しくは役務の宣伝広告又は企業理念・経営方針等)も商標登録できるとしています。この第12版の商標審査基準は平成28年4月1日からの審査に適用となります。

主な改正点

特許庁のウエブサイトによると主な改正点は、
(1) 商標の使用について、法令に定める国家資格等が必要な場合において、当該資格を有しないことが明らかなときは商標法第3条第1項柱書に該当することを明記(商標法第3条第1項柱書)
(2) 書籍等の題号について、その商標が商品の内容等を認識させる場合について、具体的事情を明記(商標法第3条第1項第3号)
(3) 商標がその商品若しくは役務の宣伝広告又は企業理念・経営方針等を普通に用いられる方法で表示したものとしてのみ認識させる場合等の具体的事情を明記(商標法第3条第1項第6号)
(4) 使用による識別力に関し、近時の裁判例等を踏まえ商標や商品又は役務の同一性等について明記(商標法第3条第2項)
(5) 国・地方公共団体の著名な標章等と同一又は類似の商標の取り扱いについて、具体例とともに判断基準を明確化(商標法第4条第1項6号)
(6) その他
1.近時の裁判例等を踏まえて、商標法第3条第1項各号に該当する例示を変更
2.用語の統一化

商標審査基準〔改訂第12版〕について

商標審査基準〔改訂第12版]PDF

以下、審査基準より該当箇所を抜粋

商標法第3条第1項柱書

(例)指定役務に係る業務を行うために法令に定める国家資格等を有することが義務づけられている場合であって、願書に記載された出願人の名称等から、出願人が、指定役務に係る業務を行い得る法人であること、又は、個人として当該国家資格等を有していることのいずれの確認もできない場合。

商標法第3条第1項第3号

3.商品の「品質」、役務の「質」について
(1) 商品等又は役務の提供の用に供する物の内容について
商品等の内容を認識させる商標が商品の「品質」、役務の「質」の表示と判断される場合
商標が、指定商品又は指定役務の提供の用に供する物の内容を表示するものか否かについては、次のとおり判断する。
(ア) 「書籍」、「電子出版物」、映像が記録された「フィルム」、「録音済みの磁気テープ」、「録音済みのコンパクトディスク」、「レコード」等の商品について、商標が、著作物の分類・種別等の一定の内容を明らかに認識させるものと認められる場合には、商品の「品質」を表示するものと判断する。
(例)商品「書籍」について、商標「商標法」、「小説集」 商品「録音済みのコンパクトディスク」について、商標「クラシック音楽」
(イ) 「放送番組の制作」、「放送番組の配給」の役務について、商標が、提供する役務たる放送番組の分類・種別等の一定の内容を明らかに認識させるものと認められる場合には、役務の「質」を表示するものと判断する。
(例)役務「放送番組の制作」について、商標「ニュース」、「音楽番組」、「バラエティ」
(ウ) 「映写フィルムの貸与」、「録画済み磁気テープの貸与」、「録音済み磁気テープの貸与」、「録音済みコンパクトディスクの貸与」、「レコードの貸与」等
の役務について、商標が、その役務の提供を受ける者の利用に供する物(映写フィルム、録画済みの磁気テープ、録音済みの磁気テープ、録音済みのコンパクトディスク、レコード等)の分類・種別等の一定の内容を明らかに認識させるものと認められる場合は、役務の「質」を表示するものと判断する。
(例)役務「録音済みコンパクトディスクの貸与」について、商標「日本民謡集」役務「映写フィルムの貸与」について、商標「サスペンス」
(エ) 「書籍」、「放送番組の制作」等の商品又は役務について、商標が、需要者に題号又は放送番組名(以下、「題号等」という。)として認識され、かつ、当該題号等が特定の内容を認識させるものと認められる場合には、商品等の内容を認識させるものとして、商品の「品質」又は役務の「質」を表示するものと判断する。題号等として認識されるかは、需要者に題号等として広く認識されているかにより判断し、題号等が特定の内容を認識させるかは、取引の実情を考慮して判断する。例えば、次の①②の事情は、商品の「品質」又は役務の「質」を表示するものではないと判断する要素とする。
①定期間にわたり定期的に異なる内容の作品が制作されていること
②当該題号等に用いられる標章が、出所識別標識としても使用されていること
(オ) 新聞、雑誌等の「定期刊行物」の商品については、商標が、需要者に題号として広く認識されていても、当該題号は特定の内容を認識させないため、本号には該当しないと判断する。
(2) 人名等の場合
商標が、人名等を表示する場合については、例えば次のとおりとする。
(ア) 商品「録音済みの磁気テープ」、「録音済みのコンパクトディスク」、「レコード」について、商標が、需要者に歌手名又は音楽グループ名として広く認識されている場合には、その商品の「品質」を表示するものと判断する。

商標法第3条第1項第6号

2.指定商品若しくは指定役務の宣伝広告、又は指定商品若しくは指定役務との直接的な関連性は弱いものの企業理念・経営方針等を表示する標章のみからなる商標について
(1) 出願商標が、その商品若しくは役務の宣伝広告又は企業理念・経営方針等を普通に用いられる方法で表示したものとしてのみ認識させる場合には、本号に該当すると判断する。
出願商標が、その商品若しくは役務の宣伝広告又は企業理念・経営方針等としてのみならず、造語等としても認識できる場合には、本号に該当しないと判断する。
(2) 出願商標が、その商品又は役務の宣伝広告としてのみ認識されるか否かは、全体から生じる観念と指定商品又は指定役務との関連性、指定商品又は指定役務の取引の実情、商標の構成及び態様等を総合的に勘案して判断する。
(ア) 商品又は役務の宣伝広告を表示したものとしてのみ認識させる事情
(例)
① 指定商品又は指定役務の説明を表すこと
② 指定商品又は指定役務の特性や優位性を表すこと
③ 指定商品又は指定役務の品質、特徴を簡潔に表すこと
④ 商品又は役務の宣伝広告に一般的に使用される語句からなること(ただし、指定商品又は指定役務の宣伝広告に実際に使用されている例があることは要しない)
(イ) 商品又は役務の宣伝広告以外を認識させる事情
(例)
① 指定商品又は指定役務との関係で直接的、具体的な意味合いが認められないこと
② 出願人が出願商標を一定期間自他商品・役務識別標識として使用しているのに対し、第三者が出願商標と同一又は類似の語句を宣伝広告として使用していないこと
(3) 出願商標が、企業理念・経営方針等としてのみ認識されるか否かは、全体から生ずる観念、取引の実情、全体の構成及び態様等を総合的に勘案して判断する。
(ア) 企業理念・経営方針等としてのみ認識させる事情
(例)
① 企業の特性や優位性を記述すること
② 企業理念・経営方針等を表す際に一般的に使用される語句で記述していること
(イ) 企業理念・経営方針等以外を認識させる事情
(例)
① 出願人が出願商標を一定期間自他商品・役務識別標識として使用しているのに対し、第三者が出願商標と同一又は類似の語句を企業理念・経営方針等を表すものとして使用していないこと

商標法第3条第2項

(例1)同一性が認められる場合
① 出願商標と使用商標が文字の表記方法として縦書きと横書きの違いがあ るに過ぎない場合
② 出願商標と使用商標が共に一般的に用いられる字体であり、取引者又は需要者の注意をひく特徴を有せず、両者の字体が近似している場合
③ 出願商標と使用商標の立体的形状の特徴的部分が同一であり、その他の部分にわずかな違いが見られるに過ぎない場合
(例2)同一性が認められない場合
① 出願商標が草書体の漢字であるのに対し、使用商標が楷書体又は行書体の漢字である場合
② 出願商標が平仮名であるのに対し、使用商標が片仮名、漢字又はローマ字である場合
③ 出願商標がアラビア数字であるのに対し、使用商標が漢数字である場合
④ 出願商標が P のような態様であるのに対し、使用商標が 〇にP 、 □にP 、△に P である場合
⑤ 出願商標が立体商標であるのに対し使用商標が平面商標である場合、又は出願商標が平面商標であるのに対し使用商標が立体商標である場合
(2) 商品又は役務について
出願商標の指定商品又は指定役務と使用商標の使用する商品又は役務とが異なる場合には、指定商品又は指定役務について出願商標を使用しているとは認めない。ただし、指定商品又は指定役務と使用する商品又は役務とが厳密には一致しない場合であっても、取引の実情を考慮して、指定商品又は指定役務と使用する商品又は役務の同一性が損なわれないと認められるときは、指定商品又は指定役務について出願商標を使用しているものと認める。

商標法第4条第1項6号

1.「国、地方公共団体若しくはこれらの機関」について
(1) 「国」とは日本国をいう。
(2) 「地方公共団体」とは、地方自治法一条の三 にいう普通地方公共団体(都道府県及び市町村)及び特別地方公共団体(特別区、地方公共団体の組合及び財産区)をいう。
(3) 「これらの機関」とは、国については立法、司法、行政の各機関をいい、地方公共団体については、これらに相当する機関(司法を除く。)をいう。
2.「公益に関する団体であって営利を目的としないもの」について「公益に関する団体であって営利を目的としないもの」であるか否かについては、当該団体の設立目的、組織及び公益的な事業の実施状況等を勘案して判断する。この場合、国内若しくは海外の団体であるか又は法人格を有する団体であるか否かを問わない。
(例)
① 公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律による認定を受けた公益社団法人又は公益財団法人 (例:日本オリンピック委員会)
② 特別法に基づき設立された社会福祉法人、学校法人、医療法人、宗教法人、特定非営利活動法人、独立行政法人(例:日本貿易振興機構)など
③ 政党
④ 国際オリンピック委員会
⑤ 国際パラリンピック委員会及び日本パラリンピック委員会
⑥ キリスト教青年会
3.「公益に関する事業であって営利を目的としないもの」について「公益に関する事業であって営利を目的としないもの」であるか否かについては、当該事業の目的及びその内容並びに事業主体となっている団体の設立目的及び組織等を勘案して判断する。この場合、事業が国内又は海外のいずれにおいて行われているかを問わない。
(例)
① 地方公共団体や地方公営企業等が行う水道事業、交通事業、ガス事業
② 国や地方公共団体が実施する事業(施策)
③ 国際オリンピック委員会や日本オリンピック委員会が行う競技大会であるオリンピック
④ 国際パラリンピック委員会や日本パラリンピック委員会が行う競技大会であるパラリンピック
4.「表示する標章」について
国若しくは地方公共団体若しくはこれらの機関、公益に関する団体であって営利を目的としないもの又は公益に関する事業であって営利を目的としないもの(以下、「国等」という。)を「表示する標章」には、国等の正式名称のみならず、略称、俗称、シンボルマークその他需要者に国等を想起させる表示を含む。
(例1) 公益に関する団体であって営利を目的としないものを表示する標章
① 国際オリンピック委員会の略称である「IOC」
② 日本オリンピック委員会の略称である「JOC」
(例2)公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章
① 国際オリンピック委員会や日本オリンピック委員会が行う競技大会であるオリンピックを表示する標章としての「オリンピック」及び「OLYMPIC」、その俗称としての「『五輪』の文字」、そのシンボルマークとしての「五輪を表した図形(オリンピックシンボル)」
② 国や地方公共団体が実施する事業(施策)の略称
5.「著名なもの」について
(1) 「著名」の程度については、国等の権威、信用の尊重や国等との出所の混同を防いで需要者の利益を保護するという公益保護の趣旨に鑑み、必ずしも全国的な需要者の間に認識されていることを要しない。
(2) 「著名なもの」に該当するか否かについては、使用に関する事実、例えば、次の①から④までの事実を総合勘案して判断する。この場合、標章によっては、短期間で著名となる蓋然性が高いと認められる場合があることに留意する。
① 実際に使用されている標章
② 標章の使用開始時期、使用期間、使用地域
③ 標章の広告又は告知の方法、回数及び内容
④ 一般紙、業界紙、雑誌又は他者のウェブサイト等における紹介記事の掲載回数及び内容
6.「同一又は類似の商標」について
本号における類否は、国等の権威、信用の尊重や国等との出所の混同を防いで需要者の利益を保護するという公益保護の観点から、これら国等を表示する標章と紛らわしいか否かにより判断する。

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