ルブタン レッドソール 拒絶不服審判は理由なし
「クリスチャン ルブタン(CHRISTIAN LOUBOUTIN 以下、ルブタン)」が靴底に用いる“赤色”の商標登録(ルブタン レッドソール)を目指している件について、特許庁は「ルブタン」の請求を退け、登録を認めない判断を下した。「ルブタン」は2015年、アイコニックな“レッドソール”に使用される赤い色を「色彩のみからなる商標」として登録出願するも、19年に登録を拒絶された。「ルブタン」は拒絶査定に対して不服審判を請求したが、特許庁は「色彩としてはありふれたもの」「広く認識されるに至っているとまでは認められない」として、6月7日に「ルブタン」の請求を退けた。
情報源: ルブタン レッドソールの商標登録に暗雲 拒絶査定不服審判でも認められず – WWDJAPAN
Christian Louboutin: the Nude Collection、0:30
商標登録insideNews: 東京地裁がルブタン レッドソールを「一般的なデザイン」と判断 エイゾーコレクションに対する約4200万円の損害賠償請求も棄却 – WWDJAPAN
商標登録insideNews: ルブタンの「赤い靴底」訴訟、独占商標に暗雲
請求人 クリスチャン ルブタン
商願2015-29921拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審
決する。
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理 由
1 本願商標及び手続の経緯
本願商標は、別掲1(1)のとおりの構成よりなり、商標法第5条第4項
に基づく「商標の詳細な説明」を別掲1(2)のとおりに記載して、第25
類「女性用ハイヒール靴」を指定商品として、平成27年4月1日に色彩の
みからなる商標として登録出願されたものである。
原審では、平成28年4月27日付けで拒絶理由及び協議指示書の通知、
同年7月28日受付及び同30年5月7日受付で意見書の提出、令和元年7
月29日付けで拒絶査定されたもので、これに対して同年10月29日付け
で本件拒絶査定不服審判が請求されている。
2 原査定の拒絶の理由(要旨)
(1)商標法第3条第1項第3号
本願商標は、別掲1(1)のとおり、色彩のみからなる商標であり、別掲
1(2)のとおり、「女性用ハイヒール靴の靴底部分に付した赤色(PAN
TONE 18-1663TP)で構成される」ものであるところ、商品に
使用される色彩は、商品の魅力向上等のために選択されるものであり、本願
商標の指定商品を取り扱う業界において、本願商標の赤色を女性用ハイヒー
ル靴の靴底部分の位置に付したものが製造販売されている実情がある。
そうすると、本願商標は、その指定商品に使用しても、これに接する取引
者、需要者をして、商品に通常使用される又は使用され得る色彩を表したも
のと認識するにとどまり、商品の特徴を普通に用いられる方法で表示する標
章のみからなる商標である。
したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。
(2)商標法第3条第2項
証拠によれば、我が国において、高級ブランド「クリスチャン・ルブタン
」の商品が「レッドソール」であるとの認識はある程度浸透しているもので
あり、なかでも、芸能人、セレブ、海外ブランドを好む富裕層を中心とした
一部の需要者においては、「レッドソールといえばクリスチャン・ルブタン
」との認識があることが推認できる。
しかしながら、類似する商品が本願商標の出願時から現在に至るまで流通
していること、これらに対して積極的に法的措置が図られているとはいえな
いこと、それなりの需要者がこれらの類似する商品を購入していることから
すると、一般の需要者はこれらの類似する商品も含めた女性用ハイヒール靴
の靴底部分に付されている赤色の色彩から特定の者(請求人)を認識してい
るとはいい難い状況である。
そうすると、本願商標は、自他商品の識別標識として認識されているとい
えず、使用された結果、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識
することができるに至っているとはいえない。
したがって、本願商標は、第3条第2項の要件を具備しない。
3 当審における審尋
本願商標が商標法第3条第1項第3号に該当するか、また、同条第2項の
要件を具備するかについて、当審の暫定的見解を、当審における職権に基づ
く証拠調べの結果(別掲2、別掲3)とともに、請求人に通知し、意見を求
めた。
4 審尋に対する請求人の意見(要旨)
(1)アンケート調査
請求人は、本願商標の指定商品の需要者のうち、どの程度の需要者が、本
願商標について、自他商品の識別標識として認識しているのかを具体的かつ
客観的に把握するべく、NERAエコノミックコンサルティングに依頼して
、インターネットによるアンケート調査(以下「本件アンケート調査」とい
う。)を実施した(甲681)。
当該調査によれば、自由回答、選択式回答、及び補正済みの選択式回答を
踏まえると、本願商標を見てクリスチャン・ルブタンの出所を示すものと認
識した割合は、64.77%~67.76%であり、請求人のハイヒール靴
に限らず靴底部分が赤いハイヒール靴を一切見たことがない人を対象に含め
ても51.60%~53.99%であった。
(2)審尋に対する意見
ア 本願商標がありふれたものであるか否かの判断は、査定時又は審決時
ではなく、本願商標の使用が開始された時期を基準としてされるべきである
。
イ 本願商標の指定商品(女性用ハイヒール靴)と異なる種類の履物類に
係る事情は参考とならない。
ウ 本願商標に係る色彩は、自然発生的な色彩には当たらない。
エ 本願商標に係る赤色が、極めて一般的に採択されている、又は取引上
普通に採択されているとはいえない。
オ 色彩のみからなる商標については、不正競争の目的でない既存の使用
者に対する継続的使用権を認める立法的措置もあるから、本願商標に係る登
録適格性の判断において、その色彩の使用を欲する取引者や、現にその色彩
を使用する取引者の存在を考慮する必要はなく、専ら、本願商標が使用され
た結果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる
か否かによって決すべきである。
そして、本願商標は、本件アンケート調査によれば、相当数の需要者が請
求人の商品を認識するもので、請求人以外による使用例は、本願商標が大々
的かつ継続的に使用された結果自他商品識別力を獲得したことを何ら左右し
ない。
したがって、本願商標は、請求人による使用実績によれば、商標法第3条
第2項の要件を具備する。
5 当審の判断
(1)商標法第3条第1項第3号について
ア 本願商標は、別掲1(1)及び(2)のとおり、女性用ハイヒール靴
の靴底部分に付した、赤色(PANTONE 18-1663TP)の色彩
のみからなる商標であるところ、表示位置(靴底)は特定されているものの
、文字や図形と組み合わせたものではない、輪郭のない単一の色彩(赤色)
のみからなるものである。
イ そして、赤色は、「色の名。三原色の一つで、新鮮な血のような色。
また、その系統に属する緋(ひ)・紅・朱・茶・桃色などの総称。」(「大
辞泉 第2版」小学館)であって、商取引全般、特にファッション分野にお
いて、商品やその包装、広告等を彩色するために広く、好んで採択、使用さ
れており、色彩としてはありふれたものである。
ウ また、靴の取引においては、別掲2及び別掲3のとおり、多数の事業
者によって靴底を赤色に彩色した商品(靴)が製造、販売されている実情が
あるから、靴底の位置を赤色に彩色することは、商品の美感を向上させる目
的で、取引上普通に採択、使用されているデザイン手法といえる。
エ そうすると、本願商標は、商品の美感を向上させる目的で取引上普通
に採択、使用されているデザイン手法の範ちゅうにおいて、特定位置(靴底
)に付される、ありふれた単一の色彩(赤色)を表示してなるものであって
、その指定商品に係る需要者及び取引者をして、単に商品の色彩を表してな
ると認識、理解されるにすぎない。
したがって、本願商標は、商品の特徴(商品の色彩)を普通に用いられる
方法で表示する標章のみからなる商標であるから、商標法第3条第1項第3
号に該当する。
(2)商標法第3条第2項について
ア 商品の色彩は、古来存在し、通常は商品のイメージや美観を高めるた
めに適宜選択されるものであり、また、商品の色彩には自然発生的な色彩や
商品の機能を確保するために必要とされるものもあることからすると、取引
に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから、原則
として何人も自由に選択して使用できるものとすべきで、特に、単一の色彩
のみからなる商標については当該趣旨が妥当するものと解される。
そして、商標法第3条第1項第3号に該当する単一の色彩のみからなる商
標が同条第2項に当たるというためには、当該商標が使用をされた結果、特
定の業務に係る商品又は役務であることを表示するものとして需要者の間に
広く認識されるに至り、その使用により自他商品識別力又は自他役務識別力
を獲得していることが必要であり、さらに、同条第1項第3号の趣旨に鑑み
ると、特定人による当該商標の独占使用を認めることが公益上の見地からみ
ても許容される事情があることを要すると解するのが相当である(参照:令
和元年(行ケ)第10146号、令和2年8月19日知財高裁判決)。
イ 請求人は、証拠として甲第1号証から甲第688号証(枝番号あり。
欠番あり。)及び物件を提出し、本願商標が、請求人による継続した使用に
より、自他商品の出所識別標識としての機能を獲得している旨を主張してい
るため、以下検討する。
(ア)証拠及び請求人の主張によれば、以下の事実が認められる。
a 請求人は、フランス出身のファッションデザイナーであり、1991
年後半に創設された「クリスチャン ルブタン」(以下「本件ブランド」と
いう。)のブランド名を使用するフランス法人の代表者である(甲120)
。
b 本件ブランドは、1991年にフランス国のパリに最初の直営店をオ
ープンし、その後、世界各国に140店以上を展開しているもので、我が国
においては、1996年から輸入販売が開始され、2009年には日本法人
を設立、現在、同ブランドの商品は、国内各地(東京、横浜、名古屋、大阪
、福岡)に所在する店舗や百貨店等を通じて販売されている(甲120)。
c 本件ブランドの商品(ハイヒール靴)には、靴底の色彩を赤色とする
靴(以下「本件使用商品」という。)がある(甲8、甲16)。
請求人提出の物件によれば、本件使用商品の包装箱や靴底には、「Chr
istian Louboutin」の文字(一部文字を図案化してなる。
)が表示されている。
d 請求人の日本法人の売上金額は、年間で約65億円(2015-20
16)、約76億円(2016-2017)で、そのうち、女性用靴の販売
金額は年間で約32億円(2015-2016)、約33億円(2016-
2017)、約31億円(2017-2018)で、ハイヒール靴(ヒール
の高さが3.5センチ以上)の販売金額は年間で約23億円(2015-2
016)、約24億円(2016-2017)、約21億円(2017-2
018)である(甲571~甲575)。
e 本件ブランドは、広告宣伝費用を支払って雑誌に広告掲載する宣伝手
法は用いておらず、雑誌の記事やメディアでの撮影のために商品サンプルを
貸し出すことはしている(甲120)。
請求人は当該広告手法を「サンプルトラフィッキング」と称しており、商
品サンプルをファッション雑誌の編集者やスタイリスト、女優などの著名人
に貸し出し、費用を支払わずに、ブランドの認知度を高めている(甲133
)。本件ブランドの日本法人は、サンプルトラフィッキングのための商品購
入費用として、8年間(2010年度-2017年度)で、約1億1千万円
を支出している(甲640)。
f 雑誌や書籍、インターネット上の記事情報等において、本件使用商品
のほか、本件ブランドに係る店舗や商品(男性靴なども含む。)、それを履
いた人物、請求人と関連する映画や演劇、インタビュー記事など、本件ブラ
ンドにまつわる種々の情報やトピックスを紹介、言及する記事などが掲載さ
れている(甲1~甲15、甲17、甲18、甲20~甲63、甲66~甲1
03、甲139~甲237、甲246~甲259、甲265~甲453、甲
492~甲493、甲495~甲500、甲523~甲555、甲557~
甲569、甲646~甲649)。
上記記事情報のうち、本件使用商品の写真を掲載するものであっても、そ
もそも靴底の様子は上面や側面からは確認が困難であるから、本願商標に相
当する特徴(靴底、赤色)を写真から必ずしも明瞭に確認、把握できない場
合もあるが、他方で、例えば「魅惑のレッドソール」(甲2)、「・・・レ
ッドソール コレクション」(甲11)、「深紅の靴底で鮮やかな足元を演
出」(甲276)、「ルブタンシューズの象徴といえば、レッドソール」(
甲540)などのように、本願商標に相当する特徴について言及する記事も
相当数ある。
g 請求人が「NERAエコノミックコンサルティング」に依頼して実施
したアンケート調査(甲681)は以下のとおりである。
(a)対象者は、東京都、大阪府及び愛知県に居住する20歳から50歳の
女性(3,149名)である。
(b)調査方法は、本願の願書記載の商標(別掲1(1)に相当する。)を
回答者に見せて、靴底が赤いハイヒール靴を販売しているファッションブラ
ンドがあることを知っていた者又はそのようなハイヒール靴を見たことがあ
る者に対して、想起するブランド名を自由回答形式で、回答できない者には
選択式でブランド名を尋ねたものである。
(c)選択式の選択肢には、本件ブランドを含む8ブランド及び「思い出せ
ない」があるが、本件ブランドのロゴのみが赤く塗った円で囲まれており、
赤色を強調した態様になっている。
(d)調査結果は、本件ブランドを自由回答形式で想起、回答した割合は、
43.35%であった。
なお、自由回答に選択式回答を合わせると、本件ブランドを想起、回答し
た割合は、53.99%であった。
h 本願商標と同様の特徴を備える、靴底を赤色に彩色した商品(靴)は
、別掲2及び別掲3のとおり、多数の事業者によって製造、販売されている
実情がある。
(イ)a 上記認定事実によれば、本件ブランドに係る商品は、我が国にお
いても1996年以降、25年以上の輸入販売実績があり、国内各地に所在
する店舗や百貨店を通じて、年間で約70億円前後(2015-2017)
の販売規模(女性用靴だけでも年間で約30億円以上、ハイヒール靴だけで
も約20億円以上(2015-2018))で、雑誌や書籍、インターネッ
ト上の記事情報等において、本件ブランドにまつわる種々の情報やトピック
ス(本件使用商品に関するものや、本願商標に相当する特徴(靴底、赤色)
を強調する記載を伴う記事を含む。)を紹介、言及する記事が継続して掲載
されている。
他方、本件アンケート調査によっても、本件ブランドの店舗が所在する東
京、名古屋、大阪の在住者であっても、本願商標(別掲1(1))から、本
件ブランドを認知できる女性は50%に満たない程度であって、残りの半数
以上は本件ブランドとの関係を想起できていない。
そうすると、本願商標は、その指定商品に係る一定割合の需要者(女性)
の間において、特定人(請求人)の業務に係る商品であることを表示するも
のとして一定程度認知されているとしても、我が国の需要者の間において広
く認識されるに至っているとまでは認められない。
b また、本願商標と同様の特徴を備える、靴底を赤色に彩色した商品(
靴)が、多数の事業者により製造、販売されている取引の実情があることを
踏まえると、本願商標のような単一の色彩のみからなる商標(靴底、赤色)
について特定人に排他独占的な使用を認めることは、商品の美感を向上させ
るために自由に使用が認められていた色彩(赤色)について、第三者による
使用を不当に制限する結果にもなるから、公益上(独占適応性)の観点から
支障がある。
c 加えて、本願商標の指定商品に係る需要者のうち、本願商標から請求
人や本件ブランドとの関係性を想起できる者であっても、それと同様の特徴
(靴底、赤色)を備える商品が多数流通している取引市場の中では、本件使
用商品にも付されているようなブランド名や商品名に依拠せずに、本願商標
に係る特徴(色彩、位置)のみで商品の出所を識別することは事実上困難で
ある。
d 以上のとおり、本願商標は、その指定商品に係る需要者の間において
、特定人(請求人)の業務に係る商品であることを表示するものとして広く
認識されるに至っているものではなく、同様の特徴を備える商品が多数の事
業者により製造、販売されている実情を踏まえると、特定人(請求人)に排
他独占的な使用を認めることは公益上(独占適応性)の観点から支障がある
ばかりか、自他商品の出所識別標識として機能することが事実上困難である
から、自他商品の出所識別標識として機能し得るものではない。
したがって、本願商標は、その指定商品との関係において、使用をされた
結果、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識できるに至ったも
のと認めることはできず、商標法第3条第2項の要件を具備しない。
(3)請求人の主張について
ア 請求人は、請求人が本願商標の使用を開始する以前は、女性用ハイヒ
ール靴の靴底に色彩(赤色)を付することは珍しく、極めて斬新かつ独創的
なものであったこと、そして、色彩のみからなる商標は、2015年4月1
日施行の改正商標法以前は保護がされていなかったことを考慮すれば、本願
商標の識別性の有無の判断は、査定時又は審決時ではなく、本願商標の使用
開始時期を基準とすべきである旨を主張する。
しかしながら、商標登録出願された商標の商標法第3条第1項第3号該当
性及び同条第2項の要件の充足性は、審決時を判断時とすべき(平成21年
(行ケ)第10388号、知財高裁、平成22年6月29日判決)であって
、本願商標のような色彩のみからなる商標についても、請求人主張のような
事情にかかわらず、例外とする理由はない。
イ 請求人は、類似する商品が流通していることは、本願商標が自他商品
識別力を有しないことを意味するものではなく、高い識別力と強い顧客吸引
力を有しているからこそ、類似する商品が流通している旨を主張する。
しかしながら、別掲2及び別掲3に掲げるような商品が流通している実情
は、それら商品が流通している背景事情とは関わりなく、それに接する需要
者の認識に大きく影響する事実関係であるから、本願商標の登録適格性の判
断をするための取引の実情として考慮することに支障はない。
ウ 請求人は、本件アンケート調査において、靴底部分が赤いハイヒール
靴を見たことがある需要者に限ると、本願商標の認知度は64.77%から
67.76%と極めて高いから、本願商標は、本件ブランドの出所を示すも
のとして、その指定商品の需要者の間で広く認識されるに至っており、何人
かの業務に係る商品であることを認識できる旨を主張する。
しかしながら、本願商標の指定商品(女性用ハイヒール靴)に係る需要者
を、請求人主張のような需要者(靴底部分が赤いハイヒール靴を見たことが
ある者)に限る理由は見いだし難いから、請求人主張の認知度は、本願商標
の指定商品に係る需要者の認識を客観的に反映しているものではない。そし
て、本件アンケート調査から客観的に把握できる本願商標に係る認知度は、
上記(2)イ(イ)aのとおり、50%に満たない程度であって、残りの半
数以上は本件ブランドとの関係を想起できていないと評価すべきである。
そうすると、本件アンケート調査の結果を参酌しても、本願商標は、一定
割合の需要者の間において一定程度認知されているとしても、我が国の需要
者の間に広く認識されるに至っているとまでは認められない。
エ 請求人は、本願商標の指定商品(女性用ハイヒール靴)と異なる種類
の履物類に関する事情は参考にならない旨を主張する。
しかしながら、本願商標の指定商品に係る需要者は、女性用ハイヒール以
外の商品(靴)も購入するのだから、別掲2及び別掲3に掲げる靴の取引全
般に係る取引の実情は、その需要者の認識に大きく影響する事実関係という
べきで、本願商標の登録適格性の判断をするための取引の実情として考慮す
ることに支障はない。
また、仮に本願商標が登録された場合、その権利範囲は同一又は類似の商
品にも及ぶため、靴の取引全般に係る取引の実情は、本願商標の独占適応性
に係る公益上の観点からの判断にも影響を与えるものである。
オ 請求人は、本願商標に係る色彩(赤色)は、自然発生的な色彩ではな
く、極めて一般的に取引上普通に採択されていない旨を主張する。
しかしながら、本願商標に係る色彩(赤色)は、上記(1)イ及びウのと
おり、三原色の一つで、商品(靴を含む。)やその包装、広告等を彩色する
ために広く、採択、使用されている、ありふれた色彩である。
カ 請求人は、色彩のみからなる商標については、不正競争の目的でない
既存の使用者に対する継続的使用権を認める立法的措置もあるから、本願商
標に係る登録適格性の判断において、その色彩の使用を欲する取引者や、現
にその色彩を使用する取引者の存在を考慮する必要はなく、専ら、本願商標
が使用された結果、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識する
ことができるか否かによって決すべき旨を主張する。
しかしながら、単一の色彩のみからなる商標については、上記(2)アの
とおり、商標法第3条第2項の要件を具備するというためには、当該商標が
使用をされた結果、自他商品識別力を獲得していることに加えて、特定人に
よる当該商標の独占使用を認めることが公益上の見地からみても許容される
事情があることを要する。
そして、本願商標は、特定位置(靴底)に付される、輪郭のない単一の色
彩(赤色)のみからなる商標であるところ、上記のとおり、靴底を赤色に彩
色した商品(靴)が、多数の事業者により製造、販売されている取引の実情
があることを踏まえると、本願商標について特定人に排他独占的な使用を認
めることは、公益上(独占適応性)の観点から支障がある。
さらに、本願商標から請求人や本件ブランドとの関係性を想起できる者で
あっても、それと同様の特徴(靴底、赤色)を備える商品が多数流通してい
る取引市場の中では、ブランド名や商品名に依拠せずに、本願商標に係る特
徴(色彩、位置)のみで商品の出所を識別することは事実上困難である。
以上を踏まえても、本願商標は、その指定商品との関係において、使用を
された結果、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識できるに至
ったものとはいえず、商標法第3条第2項の要件を具備しない。
キ したがって、請求人の主張はいずれも採択できない。
(4)まとめ
以上のとおり、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当し、請求人
による使用実績によっては、我が国の需要者の間において、何人かの業務に
係る商品であることを認識することができるに至っているものとはいえない
から、同条第2項の要件を具備しない。
よって、結論のとおり審決する。
令和 4年 5月10日
審判長 特許庁審判官 佐藤 淳
特許庁審判官 杉本 克治
特許庁審判官 阿曾 裕樹