商標法上の使用権 大別して2つの使用権 (商標法第30-31条)

商標 使用権

商標権者以外の他人が登録商標を使用する方法としては、商標権をその他人に移転する他に、その他人に使用権を設定する方法があります。使用権の種類としては、商標法上、専用使用権 と、通常使用権 とがあります。これらの使用権は、当事者間の契約に基づいて設定されますので、両者間の契約が使用権設定の前提となります。

商標 使用権

使用権についての契約

当事者の一方は商標権者で、他方は商標を使用したいと思う者です。通常、ライセンス交渉で話合われる内容は、使用権の範囲(商品、地域など)、独占か非独占か、契約期間、対価(royalty:ローヤリティ)、対価の支払い方法(lump sum, installments, monthly, etc.)、使用再許諾(サブライセンス)、品質管理、第3者関係、審判対応、使用権者禁反言(licensee estoppel)、解約、一般条項などの条項についてになり、細かいことは、契約書を交わしてということも行われます。使用権のライセンスが商品の販売契約と結びつくこともあり、その場合には、最小販売数量(ミニマム:minimum sales quantity)や商品の数量のカウント方法や報告方法、検品などについて条項も加わることがあります。通常使用権については、不使用取消審判などでは、契約書が存在しなくても通常使用権があったものと認定されたりもしますが、原則は書面での使用権契約書を作成して、署名及び/又は捺印をして合意した文書を残します。

専用使用権と通常使用権

専用使用権は、設定行為で定めた範囲内において、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する権利です(商標法30条)。通常使用権者は、設定行為で定めた範囲内において、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を有する(商標法31条)。条文上両者の違いは、専有するか単に有するかの違いですが、設定内容で独占的とする通常使用権もありますので、本質的な違いは専用使用権は独占的に限られ、その設定登録を必要とする点になります。通常使用権は独占・非独占と問わず、その設定登録は発生要件ではなく第3者対抗要件に過ぎない訳です。使用権の設定登録は特許庁の登録原簿に対して行いますので、専用使用権は特許庁に登録作業を行って発生する権利になります。商標登録原簿では、専用使用権者がいる場合は乙区にその記載があり、登録した通常使用権者がいる場合は丙区にその記載があることになります。ちなみに、甲区は商標権者の記載欄で、丁区は質権者の記載欄です。
もう1つ重要な違いは、第3者関係の対応です。第3者の商標権の侵害行為があった場合には、専用使用権は侵害訴訟を提訴して差止や損害賠償を請求できると条文上明記(商標法第36条~第38条)されています。法律上、商標権の侵害訴訟の当事者になれることが明らかにされています。通常使用権者はこの点で訴訟適格がないとされていますが、独占的通常使用権者は事実上の独占状態があれば侵害訴訟の当事者になれることもあります。専用使用権と独占的通常使用権は、その権利内容がほぼ変わらないことになりますが、契約上当事者の一方が不履行のこともあり、商標権者が独占的通常使用権を契約していて、裏で他人に使用権を契約することもあり得ますので、対価が何千万~億単位の高額なライセンスでは専用使用権を設定することが安定性の面からも選ばれています。

商標 使用権の設定登録

専用(通常)使用権を設定登録する場合には、専用(通常)使用権設定登録申請書を特許庁に提出します。使用権は契約に基づきますので、その契約書自体か或いは登録作業用に準備した専用(通常)使用権設定契約証書を同時に提出します。代理人による場合は、当事者の双方から委任された形式の委任状も必要です。使用権を設定する者は商標権者で、登録義務者として使用権設定登録申請書に記載されます。使用権を設定される使用権者は、登録権利者として使用権設定登録申請書に記載されます。使用権設定登録申請書の「専用(通常)使用権の範囲」の欄には、設定契約(許諾)証書に記載された専用(通常)使用権の設定すべき範囲(地域、期間及び内容)を記載します。「登録の目的」の欄には、専用使用権の設定の登録の申請をするときは「専用使用権の設定」、通常使用権の設定の登録の申請をするときは「通常使用権の設定」のように記載します。添付する使用権設定契約証書は、契約があることを証明する書面で、特許庁での登録作業の後は郵送で返却されます。登録作業用に準備した書面ではなく、実際の契約書を提出することも可能です。登録申請書には、30,000円の収入印紙(特許印紙ではありません。)を貼付します。使用権を設定すべき期間は商標権の存続期間を越えることはできませんが、契約書若しくは契約証書は商標権の存続期間を越えていても問題ありません。提出してから概ね1か月程度で設定登録され、契約証書の返却までは2か月程度かかります。これらの作業は紙ベースで、電子ファイルでは未だ認められていません。

必要書類を箇条書きしますと

  1. 専用(通常)使用権設定登録申請書
  2. 専用(通常)使用権設定契約証書
  3. 委任状(代理人による場合)
  4. 収入印紙(30,000円)

になります。様式は特許庁のサイトで、専用使用権(pdf)通常使用権(pdf)があります。

特許等の通常実施権と商標の通常使用権の登録効果の違い

通常使用権は商標権者に対して使用の許諾を受けることを内容とするライセンスですが、通常実施権は特許、実用新案登録、及び意匠登録に対してそれぞれ特許等の実施の許諾を受けることを内容とするライセンスです。平成23年度の特許法改正により、通常実施権は登録しなくても特許権の譲受人に対抗(当然対抗)できるようになり(特許法第99条)、特許ライセンスにより多様な技術の利用の促進がなされるようになっています。一方、商標法では、このような当然対抗というような制度にはなっておらず、登録は第3者対抗要件のままであり、登録しておけば商標権者が誰かに権利を譲った場合でも通常使用権を主張することができます。

使用権の使用権料

使用権料については、当事者間の合意で決められるものであり、契約の自由があります。使用数量に応じた契約や、売り上げに応じた契約、最初に支払いを行い以降使用権を永続的に認める契約もあります。支払い方法も、一括払い、月払い、分割払いなど種々の形態があります。キャラクターの使用権料では、通常3~6%程度のものが多いとされています。有名ブランドでは何千万円から何十億円の契約もあります。対価の額は、登録原簿に記載される事項ですので、原簿を取り寄せることで、対価はいくらかを見ることも可能です。専用使用権と通常使用権では、専用使用権の方が高くなる傾向にあります。

使用権と独占禁止法

商標権のラインセンスは当事者間の自由で、当事者双方は合意すれば何でもできるかと言うと、独占禁止法からの制限もあります。例えば、製品市場において非常に有力なメーカーであるA社が、他社に働きかけてA社と競合する競争事業者との商標使用許諾契約を解除させることにより、当該競争事業者が使用している商標権を取得し、又は商標使用許諾を受ける場合には、独占禁止法上問題となることがあります。詳しくは公正取引委員会の商標権取得等による競争事業者の排除のページへ。

商標法第30条、第31条
(専用使用権)
第三十条  商標権者は、その商標権について専用使用権を設定することができる。ただし、第四条第二項に規定する商標登録出願に係る商標権及び地域団体商標に係る商標権については、この限りでない。
2  専用使用権者は、設定行為で定めた範囲内において、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。
3  専用使用権は、商標権者の承諾を得た場合及び相続その他の一般承継の場合に限り、移転することができる。
4  特許法第七十七条第四項 及び第五項 (質権の設定等)、第九十七条第二項(放棄)並びに第九十八条第一項第二号及び第二項(登録の効果)の規定は、専用使用権に準用する。
(通常使用権)
第三十一条  商標権者は、その商標権について他人に通常使用権を許諾することができる。ただし、第四条第二項に規定する商標登録出願に係る商標権については、この限りでない。
2  通常使用権者は、設定行為で定めた範囲内において、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を有する。
3  通常使用権は、商標権者(専用使用権についての通常使用権にあつては、商標権者及び専用使用権者)の承諾を得た場合及び相続その他の一般承継の場合に限り、移転することができる。
4  通常使用権は、その登録をしたときは、その商標権若しくは専用使用権又はその商標権についての専用使用権をその後に取得した者に対しても、その効力を生ずる。
5  通常使用権の移転、変更、消滅又は処分の制限は、登録しなければ、第三者に対抗することができない。
6  特許法第七十三条第一項 (共有)、第九十四条第二項(質権の設定)及び第九十七条第三項(放棄)の規定は、通常使用権に準用する。
商標法第36条乃至第39条

第二節 権利侵害

(差止請求権)
第三十六条  商標権者又は専用使用権者は、自己の商標権又は専用使用権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
2  商標権者又は専用使用権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請求することができる。
(侵害とみなす行為)
第三十七条  次に掲げる行為は、当該商標権又は専用使用権を侵害するものとみなす。
一  指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用
二  指定商品又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品であつて、その商品又はその商品の包装に登録商標又はこれに類似する商標を付したものを譲渡、引渡し又は輸出のために所持する行為
三  指定役務又は指定役務若しくは指定商品に類似する役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に登録商標又はこれに類似する商標を付したものを、これを用いて当該役務を提供するために所持し、又は輸入する行為
四  指定役務又は指定役務若しくは指定商品に類似する役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に登録商標又はこれに類似する商標を付したものを、これを用いて当該役務を提供させるために譲渡し、引き渡し、又は譲渡若しくは引渡しのために所持し、若しくは輸入する行為
五  指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について登録商標又はこれに類似する商標の使用をするために登録商標又はこれに類似する商標を表示する物を所持する行為
六  指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について登録商標又はこれに類似する商標の使用をさせるために登録商標又はこれに類似する商標を表示する物を譲渡し、引き渡し、又は譲渡若しくは引渡しのために所持する行為
七  指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について登録商標又はこれに類似する商標の使用をし、又は使用をさせるために登録商標又はこれに類似する商標を表示する物を製造し、又は輸入する行為
八  登録商標又はこれに類似する商標を表示する物を製造するためにのみ用いる物を業として製造し、譲渡し、引き渡し、又は輸入する行為
(損害の額の推定等)
第三十八条  商標権者又は専用使用権者が故意又は過失により自己の商標権又は専用使用権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為を組成した商品を譲渡したときは、その譲渡した商品の数量(以下この項において「譲渡数量」という。)に、商標権者又は専用使用権者がその侵害の行為がなければ販売することができた商品の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、商標権者又は専用使用権者の使用の能力に応じた額を超えない限度において、商標権者又は専用使用権者が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を商標権者又は専用使用権者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。
2  商標権者又は専用使用権者が故意又は過失により自己の商標権又は専用使用権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、商標権者又は専用使用権者が受けた損害の額と推定する。
3  商標権者又は専用使用権者は、故意又は過失により自己の商標権又は専用使用権を侵害した者に対し、その登録商標の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。
4  前項の規定は、同項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。この場合において、商標権又は専用使用権を侵害した者に故意又は重大な過失がなかつたときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる。
(主張の制限)
第三十八条の二  商標権若しくは専用使用権の侵害又は第十三条の二第一項(第六十八条第一項において準用する場合を含む。)に規定する金銭の支払の請求に係る訴訟の終局判決が確定した後に、次に掲げる審決又は決定が確定したときは、当該訴訟の当事者であつた者は、当該終局判決に対する再審の訴え(当該訴訟を本案とする仮差押命令事件の債権者に対する損害賠償の請求を目的とする訴え並びに当該訴訟を本案とする仮処分命令事件の債権者に対する損害賠償及び不当利得返還の請求を目的とする訴えを含む。)においては、当該審決又は決定が確定したことを主張することができない。
一  当該商標登録を無効にすべき旨の審決
二  当該商標登録を取り消すべき旨の決定
(特許法 の準用)
第三十九条  特許法第百三条 (過失の推定)、第百四条の二(具体的態様の明示義務)、第百四条の三第一項及び第二項(特許権者等の権利行使の制限)、第百五条から第百五条の六まで(書類の提出等、損害計算のための鑑定、相当な損害額の認定、秘密保持命令、秘密保持命令の取消し及び訴訟記録の閲覧等の請求の通知等)並びに第百六条(信用回復の措置)の規定は、商標権又は専用使用権の侵害に準用する。

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