商標 使用権
商標権者以外の他人が登録商標を使用する方法としては、商標権をその他人に移転する他に、その他人に使用権を設定する方法があります。使用権の種類としては、商標法上、専用使用権 と、通常使用権 とがあります。これらの使用権は、当事者間の契約に基づいて設定されますので、両者間の契約が使用権設定の前提となります。
使用権についての契約
当事者の一方は商標権者で、他方は商標を使用したいと思う者です。通常、ライセンス交渉で話合われる内容は、使用権の範囲(商品、地域など)、独占か非独占か、契約期間、対価(royalty:ローヤリティ)、対価の支払い方法(lump sum, installments, monthly, etc.)、使用再許諾(サブライセンス)、品質管理、第3者関係、審判対応、使用権者禁反言(licensee estoppel)、解約、一般条項などの条項についてになり、細かいことは、契約書を交わしてということも行われます。使用権のライセンスが商品の販売契約と結びつくこともあり、その場合には、最小販売数量(ミニマム:minimum sales quantity)や商品の数量のカウント方法や報告方法、検品などについて条項も加わることがあります。通常使用権については、不使用取消審判などでは、契約書が存在しなくても通常使用権があったものと認定されたりもしますが、原則は書面での使用権契約書を作成して、署名及び/又は捺印をして合意した文書を残します。
専用使用権と通常使用権
専用使用権は、設定行為で定めた範囲内において、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する権利です(商標法30条)。通常使用権者は、設定行為で定めた範囲内において、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を有する(商標法31条)。条文上両者の違いは、専有するか単に有するかの違いですが、設定内容で独占的とする通常使用権もありますので、本質的な違いは専用使用権は独占的に限られ、その設定登録を必要とする点になります。通常使用権は独占・非独占と問わず、その設定登録は発生要件ではなく第3者対抗要件に過ぎない訳です。使用権の設定登録は特許庁の登録原簿に対して行いますので、専用使用権は特許庁に登録作業を行って発生する権利になります。商標登録原簿では、専用使用権者がいる場合は乙区にその記載があり、登録した通常使用権者がいる場合は丙区にその記載があることになります。ちなみに、甲区は商標権者の記載欄で、丁区は質権者の記載欄です。
もう1つ重要な違いは、第3者関係の対応です。第3者の商標権の侵害行為があった場合には、専用使用権は侵害訴訟を提訴して差止や損害賠償を請求できると条文上明記(商標法第36条~第38条)されています。法律上、商標権の侵害訴訟の当事者になれることが明らかにされています。通常使用権者はこの点で訴訟適格がないとされていますが、独占的通常使用権者は事実上の独占状態があれば侵害訴訟の当事者になれることもあります。専用使用権と独占的通常使用権は、その権利内容がほぼ変わらないことになりますが、契約上当事者の一方が不履行のこともあり、商標権者が独占的通常使用権を契約していて、裏で他人に使用権を契約することもあり得ますので、対価が何千万~億単位の高額なライセンスでは専用使用権を設定することが安定性の面からも選ばれています。
商標 使用権の設定登録
専用(通常)使用権を設定登録する場合には、専用(通常)使用権設定登録申請書を特許庁に提出します。使用権は契約に基づきますので、その契約書自体か或いは登録作業用に準備した専用(通常)使用権設定契約証書を同時に提出します。代理人による場合は、当事者の双方から委任された形式の委任状も必要です。使用権を設定する者は商標権者で、登録義務者として使用権設定登録申請書に記載されます。使用権を設定される使用権者は、登録権利者として使用権設定登録申請書に記載されます。使用権設定登録申請書の「専用(通常)使用権の範囲」の欄には、設定契約(許諾)証書に記載された専用(通常)使用権の設定すべき範囲(地域、期間及び内容)を記載します。「登録の目的」の欄には、専用使用権の設定の登録の申請をするときは「専用使用権の設定」、通常使用権の設定の登録の申請をするときは「通常使用権の設定」のように記載します。添付する使用権設定契約証書は、契約があることを証明する書面で、特許庁での登録作業の後は郵送で返却されます。登録作業用に準備した書面ではなく、実際の契約書を提出することも可能です。登録申請書には、30,000円の収入印紙(特許印紙ではありません。)を貼付します。使用権を設定すべき期間は商標権の存続期間を越えることはできませんが、契約書若しくは契約証書は商標権の存続期間を越えていても問題ありません。提出してから概ね1か月程度で設定登録され、契約証書の返却までは2か月程度かかります。これらの作業は紙ベースで、電子ファイルでは未だ認められていません。
必要書類を箇条書きしますと
- 専用(通常)使用権設定登録申請書
- 専用(通常)使用権設定契約証書
- 委任状(代理人による場合)
- 収入印紙(30,000円)
になります。様式は特許庁のサイトで、専用使用権(pdf)、通常使用権(pdf)があります。
特許等の通常実施権と商標の通常使用権の登録効果の違い
通常使用権は商標権者に対して使用の許諾を受けることを内容とするライセンスですが、通常実施権は特許、実用新案登録、及び意匠登録に対してそれぞれ特許等の実施の許諾を受けることを内容とするライセンスです。平成23年度の特許法改正により、通常実施権は登録しなくても特許権の譲受人に対抗(当然対抗)できるようになり(特許法第99条)、特許ライセンスにより多様な技術の利用の促進がなされるようになっています。一方、商標法では、このような当然対抗というような制度にはなっておらず、登録は第3者対抗要件のままであり、登録しておけば商標権者が誰かに権利を譲った場合でも通常使用権を主張することができます。
使用権の使用権料
使用権料については、当事者間の合意で決められるものであり、契約の自由があります。使用数量に応じた契約や、売り上げに応じた契約、最初に支払いを行い以降使用権を永続的に認める契約もあります。支払い方法も、一括払い、月払い、分割払いなど種々の形態があります。キャラクターの使用権料では、通常3~6%程度のものが多いとされています。有名ブランドでは何千万円から何十億円の契約もあります。対価の額は、登録原簿に記載される事項ですので、原簿を取り寄せることで、対価はいくらかを見ることも可能です。専用使用権と通常使用権では、専用使用権の方が高くなる傾向にあります。
使用権と独占禁止法
商標権のラインセンスは当事者間の自由で、当事者双方は合意すれば何でもできるかと言うと、独占禁止法からの制限もあります。例えば、製品市場において非常に有力なメーカーであるA社が、他社に働きかけてA社と競合する競争事業者との商標使用許諾契約を解除させることにより、当該競争事業者が使用している商標権を取得し、又は商標使用許諾を受ける場合には、独占禁止法上問題となることがあります。詳しくは公正取引委員会の商標権取得等による競争事業者の排除のページへ。