登録商標の権利範囲

登録商標の権利範囲

商標権の権利範囲は、商標(マーク自体)と商品や役務(指定商品や指定役務)の組み合わせで決まるものとなっています。

商標権=商標 x 商品や役務

そして、商標が登録された場合には、下図のように、商標権者が自分で積極的に使用できる範囲(専用権)と他人の使用をやめさせることのできる範囲(禁止権)の権利が生じます。

登録商標の権利範囲
商標権の権利範囲

専用権

商標権者が自分で積極的に使用できる範囲(専用権)は、願書に添付した商標を指定商品、指定役務について使用することを内容とします。指定商品や指定役務の欄には、1つだけの指定商品や指定役務に限らず、複数の指定商品や指定役務を記載することが通常なされていますが、その指定商品および指定役務の全般について専用権が存在します。すなわち、商標権者が実際に使用している指定商品の内のいくつか商品だけが専用権にかかる商品という訳ではありません。専用権の範囲では、商標は同一であることが求められますが、その同一の意味には少し幅がありまして、書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標、平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであつて同一の称呼及び観念を生ずる商標、外観において同視される図形からなる商標、その他の当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標を含むものとされます。商標権のライセンスはこの部分についての商標を使用する権利を設定するものです。

禁止権

他人の使用をやめさせることのできる範囲は、専門的には禁止権の範囲といわれます。これは専用権の言わば少し外側の範囲の商標の使用を対象とし、同一または類似する商標を類似商品、類似役務に用いる場合や、類似する商標を指定商品、指定役務に使用する場合を含みます。似た商標を似た商品に使われると、出所の混同が生じるため、これを防いでいます。商標法上、商品(役務)の類似と、商標の類似があります。商標が類似でも、商品がまったく別の非類似の商品に使う場合には、商標が著名な場合を除いて商標権の侵害とはなりません。

権利範囲外

この禁止権の外側には、商標が著名な場合を除いて、登録商標の効力は及ばないとされています。すなわち使用する商品(役務), 商標のどちらか少なくとも一方が登録商標のものと非類似(C)であれば、著名な商標を除いて登録商標は法的な効力が及びません。ここで著名商標とは日本国内で全国的に知られた商標を言います。著名商標の場合には、2つの他人による侵害行為を止める手段があります。1つは不正競争防止法による救済で、もう1つは防護標章登録による救済です。

権利範囲とその制限

登録された商標権は設定の登録日から10年間有効です。この10年の存続期間の終わりに更新登録の申請をすることで、更に10年の存続期間を得ることもできます。また分割納付を選択した時には5年です。この商標登録は、国際登録や外国での登録を除いて、日本の特許庁で行われるものであり、日本国内だけで有効です。商標権は一旦登録されれば財産権として扱われ、侵害する者に対して民事(損害賠償、差止請求など)及び刑事上(商標侵害罪)の責任を負わせることができます。ところが、このように商標権は強力な権利である反面、それを制限するための条項もあります。

他の周知、著名商標による制限

1つは商標権は周知、著名な商標に対しては無力であり、登録商標と抵触する関係の周知、著名な商標がある場合、登録された事実を以ってしても周知、著名な商標にはまったく歯が立たないように法律は規定されています。原則的にはその登録は過誤登録で、それは商標法第4条第10項、第19項に違反して登録されたものとなるでしょう。また不正競争防止法によっても手厚く保護されます。周知商標や著名商標は商標登録されたものに限らず、登録されていないものも含みます。逆に、商標を使用する人の究極の目標は商標を周知、著名とすることにあります。

異議申立や審判

次に、登録された商標であっても、登録異議申立、無効審判や取消審判により権利が無かったものとされたり、取消しとなったりします。

法26条の制限

またその他の制限として、登録された商標は、それと類似する場合であっても、他人の肖像、氏名、または名称、あるいは著名な雅号、芸名、筆名、それらの著名な略称を普通に用いられる方法で表示する商標に対しても無力です(商標法第26条第1項第1号)。この例外規定にはさらに例外規定(同条第2項)があり、他人の信用を利用して不当な利益を得る目的(不正競争目的)で自分の芸名を設定したときは、その芸名が著名となっても商標権の効力が及ぶことがありうることになります。また、商標権は、商品等の普通名称等には及ばないと規定されています。欧米の実務では、disclaimすべきことを要求されますが、日本では効力が及ばないことが明文化されています。また、特定農林水産物等名称保護法に規定する地理的表示についても規定が追加されており、登録された地理的表示には登録商標の効力が及ばないものとされています。

法29条の制限

他の商標権の制限として、商標登録出願の出願日よりも前に出願された特許、実用新案、意匠の各権利については商標権は効力が及ばないものとなり、著作権との関係ではその著作の発生日が商標出願日よりも前であれば、商標権はその著作物に対して効力が及ばないものとなります(商標法第29条)。

登録商標の権利範囲

第26条
商標権の効力が及ばない範囲
第26条 商標権の効力は、次に掲げる商標(他の商標の一部となつているものを含む。)には、及ばない。
一 自己の肖像又は自己の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を普通に用いられる方法で表示する商標
二 当該指定商品若しくはこれに類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又は当該指定商品に類似する役務の普通名称、提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する商標
三 当該指定役務若しくはこれに類似する役務の普通名称、提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又は当該指定役務に類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する商標
四 当該指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について慣用されている商標
五 商品等が当然に備える特徴のうち政令で定めるもののみからなる商標
六 前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標
2 前項第1号の規定は、商標権の設定の登録があつた後、不正競争の目的で、自己の肖像又は自己の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を用いた場合は、適用しない。
3 商標権の効力は、次に掲げる行為には、及ばない。ただし、その行為が不正競争の目的でされない場合に限る。
一 特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(平成26年法律第84号。以下この項において「特定農林水産物等名称保護法」という。)第3条第1項の規定により商品又は商品の包装に特定農林水産物等名称保護法第2条第3項に規定する地理的表示(以下この項において「地理的表示」という。)を付する行為
二 特定農林水産物等名称保護法第3条第1項の規定により商品又は商品の包装に地理的表示を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為
三 特定農林水産物等名称保護法第3条第1項の規定により商品に関する送り状に地理的表示を付して展示する行為

登録商標の効力(特許庁)

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